緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet65
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「京様、退院おめでとうございます。ささやかな退院祝いとしてお昼ご飯を作ってきたので、食べてくださると嬉しいです」


3人で三角形の輪を作って全員が座ったタイミングで自分の横に置いていたバスケットを真ん中に置き直した幸帆は、オレにそんなことを言いながらバスケットを開いてそこからサンドウィッチや紅茶を取り出すと、そそっと遠慮気味にオレへと差し出してくる。


「そんな気を遣わなくていいのに、相変わらず幸帆は世話焼きっていうかだな」


差し出されたサンドウィッチと紅茶に感謝しつつ、昔から何かと気を回して色々としてくれる幸帆の頭を軽く撫でてやる。撫でられることで照れる幸帆だが、その隣では気を遣えなかったと思ったらしい小鳥が謝罪と共に自分の弁当からだし巻き玉子を献上してくるので、幸帆のを貰った手前で拒否もできずにだし巻き玉子を貰ってから、ようやく昼食タイムになった。


「それで、どんな感じだ?」


早速貰ったサンドウィッチに口をつけながら、具体的な言葉はなしでいきなり小鳥へと尋ねる。内容は遠山かなめについて。一応、わざわざ昨日呼び出してまでそれとなく様子をうかがうように言っていたので、小鳥もそれを悟って口を開いた。


「とても明るくて可愛くて頭の良い子で、もううちのクラスの女子は仲良しさんばっかりのように見えますね。電波ちゃんの私とは天と地ほどの差があります……」


ズーン。そんな効果音でも聞こえそうな感じで話の最後で箸を止めて黄昏(たそがれ)た小鳥だったが、そんなことはどうでもいいとバッサリ切り捨てて話を再開。


「ああ、でも男子とは話してるところを全然見ないですね。話を聞き耳したところでは男子は苦手なんだそうで。あとはお兄さん大好き話が漏れてくるのが微笑ましいくらいで、特にこれといって何かしているようには見えません」


「…………気持ち悪いな……」


再開された話を最後まで聞いてオレが思ったのはそれだった。ボソリと呟いたので2人には聞こえていなかったが、一般の学校で転校生がチヤホヤされるのは普通だろうが、武偵高はそんな簡単に生徒に馴染んでいけるのは逆におかしい。今でこそ同じ学舎の生徒同士ではあるが、将来的に仕事で敵同士にもなり得る武偵が最初から求心力を遺憾なく発揮してるということ。在校時のコミュニティーや信頼関係は大事だが、必要以上に広げれば後々やりにくくなるのもある。ましてや相手は武偵かどうかも不確定。ワトソン情報ではアメリカの武偵かもしれないと話であったが、わざわざ行動力が制限――授業などで――されるようなことをしている現状は裏がありそうな感じがする。まぁ、目的なしに学園島に留まるわけもないし、それを調べるのもオレの任務なわけで。


「とりあえず2人とも遠山かなめとは表面上は仲良くしておけ。キンジに妹なんて聞いたこともないから、その辺はっきりするまでは付かず離れずってところで」


「確かにあんなにお兄さん想いの妹さんがいたら、噂も聞かずに離れて暮らしてたっていうのは不思議って気もしますが……」


「京様の友人の妹を妹かどうか疑っている京様が私はちょっと不思議です」


「んん……それは一理あるが、オレ達は武偵だ。武偵ってのはまずそれを『疑うこと』から入らないと痛い目を見ることがある。信頼だけで進んでいけるほど甘くない世界だってこと、覚えておけ」


小鳥と幸帆には遠山かなめについて具体的なことを話して巻き込むわけにはいかないので、2人からの協力はこの辺でやめておくことにし、面倒事に巻き込まれるリスクも考慮して先輩らしくそんな忠告をしてやると、2人は良い返事で素直に聞き入れてくれた。その素直さが危ういんだが、今は正直ありがたいな。


「そういえば京様。今日私のクラスに鈴木桃子という名前で夾竹桃さんが転入してきたのですが」


遠山かなめについての話はそれで終わりの流れとなってから、少しの沈黙が続いて食が進んだところで、話題はないかと思っていたのか幸帆が唐突にそんなことを話した。そういえば今日転入するとかなんとか言ってたか。というか鈴木桃子って本名か?


「まぁ普通に学生の年齢なんだから不思議なことはないな。しかし鈴木桃子って……」


と、幸帆の話にちょっとふざけながらに返しをしたら、急にゾワッと寒気が襲ってきたので言葉を区切って屋上の出入り口へと顔を向けてみると、開け放たれた扉の影から、奴のキセルと手袋をはめた左手だけが見える。バ、バカな……ここまで接近に気付かなかっただと!?


「……凄く日本人らしくて、これぞザ・日本人! って気がするよなぁ……」


不幸中の幸い。区切ったところからのリカバリーが間に合ったオレの言葉に、若干の不自然さで首を傾げながらも2人がそうですねと返してきたところでもう1度出入り口へと顔を向けると、見えていた左手が器用にキセルを動かして「こっちに来い」と示してきたような気がして、貰った分の食べ物を食べ切ってから2人に用事ができたと言って別れ、すでに移動をしていったらしい夾竹桃を追って屋上をあとにした。

すぐ下の階に降り切るタイミングであっさりと夾竹桃に追い付いたオレは、そのままその横について階段を降りながら会話に応じる。


「呑気にお食事中だったようだけど、ちゃんと覚えることは覚えたのよね?」


「余裕がなきゃ今頃教室で死んでたろうな」


「あなたもあれを警戒してるようだけど、気を付けなさい。思っている以上に厄介よ」


あなたも、か。どこから聞いてたわからないが、どうやらこいつも遠山かなめを警戒しているらしい。接点はわからないが、そっち関連にオレを使うのは勘弁願いたいところ。揉め事はこちらの望むところではないからな。


「あと、あなたのところに闇の住人がいるでしょ? あれも『きな臭い』わ。少なくとも私に近付けないでちょうだい」


そう思いつつ1年生の教室がある階で足を止めた夾竹桃がついでとばかりに羽鳥を近付けるなと言ってきて、命令口調だったこともありそれに対して二つ返事でわかったと答えるとそのまま別れて行ってしまった。そういえばあいつも何か隠してる節があったな。オレも気を付けないと……って、いつも気を付けてるからそんなに変わらないな。



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