緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet65
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放課後。夾竹桃からの急な呼び出しに少し警戒しつつ何事もないまま帰宅に成功。まずは迅速に寝室へと入ってそこにあるキンジの部屋の寝室とを繋ぐ上下扉から下へと降りてキンジを待とうとする。しかし寝室の上下扉は施錠設備などないのに全く開く気配がなく、よく見てみると扉はしっかりと溶接され使えなくされていた。これはどういうことだ?
キンジがここを使用不可にするとは思えない――緊急用の脱出経路の1つだからな――ので、この事態の推測をしてみるに、おそらくやったのは遠山かなめだろう。何故こうしたかまではわからないが、これも何か意図があるはずだ。

そんな予想外の妨害にあって仕方なしに最短ルートは断念し素直に玄関から訪問したオレは、なんか久しぶりに押すキンジの部屋のインターホンに少し緊張。夏休みのサッカーの件以来な気がしないでもない。
それで1度だけ押したインターホンの後、扉の向こうから足音が近付いてくるのがわかり、玄関が開けられてそこから朝と同じような疲れ気味の表情のキンジが姿を現す。


「こっちから来るのは珍しいな」


「こっちからしか来れなくなってたんだが?」


なんとも頭が働いていないようなキンジに対してオレが呆れ気味にそう返してやれば、思い出したように「ああ、そういやそうだった」と元気のない言葉。


「朝の件を片付けに来たんだが、大丈夫か?」


「ああ……丁度今いるしな。とりあえず上がって……」


そんな調子のキンジはちょっと面倒臭く思うが、こっちも割と余裕がない中で動いているので手早く用件を片付けようとすると、中へと招いてくれたタイミングで奥の方から「お兄ちゃーん」と聞き慣れない可愛らしい女の子の声と共にキッチンの方からその人物がひょっこり半分だけ姿を見せてきた。


「一緒に夕飯作ろうよ……」


ちょっとビックリするくらいの美少女。栗色のショートボブカットで武偵高のセーラー服の上にエプロンを着けたその少女は、キンジに話しかけるまでは超絶ニコニコの笑顔だったが、オレの姿を捉えるや言葉も切って不機嫌なオーラを放ち始める。うわ、なんか白雪と同じ匂いがするぞこいつ……


「お前、サードが『オモチャ』にしようとしてた……何だったっけ? ザコの名前はいちいち覚えてられないからな」


一変して不機嫌になった少女は、半分だけから完全に全身を晒して上から目線に挑発するような言葉と共に嘲笑。その言葉に怒りを覚えるよりも、あれが噂の遠山かなめであると理解する。


「そのザコが、私とお兄ちゃんだけの空間に侵食してくるとか何様? 兄妹水入らずの幸せな一時に割って入って面白がってるのか? 目障りなんだよ、邪魔すんな」


オレがこの場にいることにとことん腹が立つらしいかなめは、徹底した拒絶の言葉の連打でさっさと帰れと言ってくるが、アイコンタクトでキンジにどうにかしろと合図し、それに溜め息なんて吐きやがったキンジだが、約束だった手前仕方なくといった感じで仲裁に入ってくれた。


「かなめ、こいつは俺の友人の猿飛京夜だ。仮にも俺の妹だって言うなら、そういう態度をされるのは不快だ」


少しだけ怒るような。しかし注意するような口調でキンジがそう言ったのに対して、これまたビックリするほど一瞬で反省するように怒りを納めてシュンとしたかなめ。どうやら自称兄であるキンジには従順みたいだ。


「仲良くしろとは言わん。だが頭ごなしにつっぱねたりするな。わかったか?」


「お兄ちゃんがそう言うなら……でもあんまりここには来ないでください。ここは『家族だけ』が居ていい場所だから」


キンジの言うことに素直に頷いてみせたかなめは、最後にお願いでもするようにオレにそう話してからキッチンの方に引っ込んでいってしまい、そこで安堵の息を吐いたキンジが上がっていくかを改めて問いかけてきたが、どうやらここにいるだけでかなめのご機嫌を損ねるみたいなので、今日のところはこれで退散することにした。

しかし話に聞いていたのとは全く違う印象だったが、やはり学校では猫を被ってるので間違いないな。オレに見せた顔が素で、実際に見てわかったことは夾竹桃の言う通りに厄介。
まずは怒らせないことが大事だ。あの手のやつはどこに怒りのスイッチがあるかわからないが、キンジに関しての悪評やら何やらは全てNGと判断していい。オレの予想より相当なレベルでキンジにご執心のようだし、今後はキンジとの接触もなるべく避けるべきだろうな。あれは見るからに独占欲が高そうだ。あの様子からしてキンジの部屋で暮らしてるのは間違いない。それに妙に家族を強調していたところから、あの上下扉を封鎖したのもその辺が理由か。まだ本当の兄妹かはわからないが、ジーサード達がどんなやつらかがわかれば繋がってきそうな予感はする。
なんにしてもまだ未知数の相手で慎重にならざるを得ないのは仕方ないにしても、どこかで踏み込まないと後手後手になるのは目に見えてる。起きた事態に対応させられていては良いように相手のペースで引っ掻き回される。これは面倒な情報戦になるな。いや、もう始まってるのか。どうあれ今回の相手はなまじ戦闘方面で仕掛けてきたやつらよりも手強い。

今日1日でだいたいの確認ができたオレがそうやって今後についての考えをまとめながら部屋へと戻ると、玄関に入ったタイミングで自室に入ろうとする羽鳥と遭遇。小鳥が夕食の準備をしているのを気配と匂いで理解しつつ、オレを見て立ち止まった羽鳥に丁度聞きたいことがあったためジェスチャーで一緒に部屋に入ることを伝えると、あからさまに嫌な顔をしながら先に部屋に入っていくが、その扉は閉めようとしなかったので続く形で入り扉を閉めると、椅子に座った羽鳥と対面してウザイ話をされるよりも早くこちらから口を開いた。


「お前、ジーサード達について何か知ってて隠してるよな。仮にも師団の一員なら情報の提供は義務とは思わないか?」


前に聞きそびれたことだったので、羽鳥もやはりそれかといった表情を浮かべて足を組み、肘掛けに左手で頬杖を突くなんか偉そうな態度になる。いちいちイラつく。


「私が本当に『師団の一員』なら、君の言うことは正しいだろうね」



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