緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet66
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羽鳥の自室で2人きりになって話を始めたオレだったが、ジーサード達について知ってることを聞き出そうとしての質問に対して羽鳥が予想外の返答をしてきて困惑。切り返しを上手くできなくされてしまった。


「お前が師団の一員じゃない、だと?」


「そうさ。私は君に、というよりエル達他の師団主要メンバーにもそう明言はしているが、それが真実だという保証はどこにもないのではないかな?」


余裕綽々。開口一番でこそオレが話の主導権を握っていたが、それもたった1度の切り返しだけで逆転。この辺は本当に人心掌握が得意な尋問科が1枚上手で厄介だ。しかも言っていることがまた妙にリアルで、昼にオレが小鳥と幸帆に忠告したことをそのまま返された気がして面食らう。


「例えばだ。私が師団であるのが真実であるとしよう。だが同時に、それ以前から『ジーサード達の仲間』であった場合、君には私がどちらの側にいるように見える?」


「……スパイの可能性があるってことか」


「That's right(その通り).そしてそれが真実だった場合、君は今あまりに不用意に私に接近した。わずかながら警戒心を持って距離を置き入り口で立ち止まってはいるが、まだ本調子じゃない君程度なら割と簡単に口封じが可能だよ」


羽鳥が言葉を連ねていく毎に、部屋の空気がどんどん重く張り詰めたものへと変貌。挙げ句、今になって気付いたが微かに芳香剤とは明らかに違う独特な甘い匂いが部屋に漂っていた。これが何か身体に良からぬ効果でもあればもう手遅れかもしれない。


「……と、君に良い刺激を与えたところで話を戻そうか。ちなみに正真正銘、私は師団だしジーサード達の仲間でもない。信じるかどうかは別としても、その上でここから話をしたい。それと部屋に満ちてる匂いはただの自作調合のアロマキャンドルさ。毒性は全くないから安心したまえ」


「…………もう何が嘘かもよくわからん……」


手遅れかもしれないとわかりつつ部屋のドアノブに手をかけて撤退しようとしたところで、今まで放っていた緊張感を一切無くして飄々とそんなことを言ってのけた羽鳥。本気でやめてほしい。こいつが苦手どころの騒ぎじゃなくなりそうだが、そんな顔をしてやれば何が嬉しいのか声に出して笑ってくる。してやったりとでも思ってるんだろどうせ。


「これは近いうちにエル辺りが調べ上げるだろうけど、ジーサードに関してはそれほど調べるのは難しくないよ。何せ彼は世界指折りの武偵だったからね」


「やっぱり武偵だったのか、あいつ。しかも世界指折りの、だと?」


「そうさ。世界にわずか7人しかいないSの上のランク……Rランク武偵の1人があのジーサードだ」


なんだかずいぶん軽い感じになって淡々と話をする羽鳥だが、至って真面目な雰囲気だけは伝わってきて不思議な感覚を覚えるが、Rランクなんてものを知らないオレはSより上と聞いても漠然としてピンと来ない。


「Rというのは、その人物達をたいてい各国の首脳や王族が専属武偵にしてしまうために『Royal』の頭文字を取ってそう呼ばれている。評価としてはSランクが特殊部隊1個中隊を相手にできるというのに対して、Rランクは1個大隊と戦えるということになってる。簡単に言えばまぁ『人間兵器』ってところかな」


「……そんなやつにこの程度で済んだのが改めて凄いことなんだなってのはわかった」


イメージがつかないオレに極端に人間やめましたみたいな例えで説明した羽鳥だが、それでなんとなくわかってしまうのだから説明上手かもしれない。しかしそれを黙っていたことには疑問がある。それならワトソンが調べに行くこともなかったはずだしな。


「だがその情報を出し渋った理由は何だ? ワトソンが調べられることなら、なおさら隠しておく必要はないだろ」


「聞かれなかったから。なんて言ったら私がひねくれ者みたいで良い気分ではないが、実際のところ私はそれ以上にサードのことを話せない。リバティー・メイソンでは私は新人も新人だから、引き出せる資料も限られているしね。中途半端な情報を出すくらいなら、エルがよりまとまった情報を引き出してきた方が効果的だと思ったんだよ。だからフォース……今はかなめだったか。彼女が転校してきたタイミングでエルにはヒントを与えておいた。資料を取り寄せる関係で時間はかかるかもしれないが、近日中にそちらはどうにかなるはずだよ」


どこか納得しがたい部分はあるものの、羽鳥なりに考えがあってそうしていたのは今の話で理解できる。確かにジーサードがRランク武偵だったことだけわかっても、元から危険な人物だとわかってる上に対応もそう変わらない。リバティー・メイソンで権限が上のワトソンがそれ以上の情報を引き出せて、そのヒントも与えたというなら、オレがとやかく言う必要もないか。


「じゃあ、かなめや他の仲間についてもワトソンの方で調べられるわけだな?」


「そこはどうだろうね。サードに関しては過去に調べたが、言ったようにその程度しかわからなかったし、仲間なんて先日会うまで見たことがなかったから、サードのことがわかっても仲間まで調べられるかは私も自信はない。だがその辺は君の仕事ではないかな? 期待には応えるべきだと思うよ」


結局大した情報は得られずってところか。正直、こいつがまだ何かを隠していそうなことは勘づいているが、嘘も言っていないことはわかってちょっと踏み込み過ぎるのをためらう。嘘を言わないのと、本当のことを言わないのはイコールではないから、これ以上の疑惑はかえって混乱を招くかもしれないからだ。だからこいつからは自分なりにもう1度調べて改めて情報を引き出す。それが前進するための今の最良。


「とりあえずはかなめの目的についてをはっきりさせることが先決か。仲間ともそのうち接触するかもしれないし、それまで目立たずにいければいいが……」


「それは大丈夫じゃないか。君はかなめの眼中にないし」


「何で知ってんだよ」


「サードがそんなことを言っていたからね。『フォースはやつ以外の男に興味がねェ』って。事実そうみたいだし、君に限らずではあるけど。あと、君が気絶してる時にサードが銃で2回ほど頭を撃ち抜こうとしたんだけど、君の体はおかしいね。クイックイッ避けてサードが面白がってたよ」


はははっ。会話もお開きといった雰囲気で今後のことを話してみれば、楽観論からのこいつなりの声援が送られるが、最後の最後でいらんことを言って椅子から立ち上がりオレの肩をポンポン叩いてから部屋を出て、丁度夕食の支度ができたと知らせに来た小鳥と鉢合わせてそのまま夕食に。ジーサードのやつ、オレが寝てる時になんてことしてくれてんだ。というか見てたなら止めろよあいつも!



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