緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet66
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翌日。金曜日となる今日は自分の目でかなめの学校生活を見てみようと、朝の登校時からそれとなく観察を開始。甘えるようにキンジの腕に抱きついて楽しそうに話をしながら登校する姿は、本当に無邪気な普通の子に見えなくもない。事前に危険人物だということを知らなければ、今疑いなく仲良くしている生徒等を不思議に思いもしなかったかもしれない。小鳥と幸帆に忠告しておいてなんだが、実に上手い猫被りだ。
そんな見た目仲良し兄妹は2人の時間を長くしたいのか男子寮を出てから徒歩で最後まで登校し、ギリギリ視界に入る際どい距離での尾行をそれとなくやっていたオレだが、その間にもかなめに気付いた女子が一目散に近付いて挨拶していたりを目撃してその人気を確認。女子ばかりなのがずいぶんな偏りだったが、男嫌いも本当らしい。

そうして特に何か起きることもなく一般教科の校舎へと辿り着き、階段の分かれ道で名残惜しそうに自分の教室へと行ってしまったかなめをとりあえずは放置して教室に向かい、いつものように授業を受けていったが、1時間目の授業が終わった頃に小鳥からメールで追加情報が届きそれを見れば、どうやら昨日報告しなかった――それほど重要じゃないと思っていたのだとか――かなめが自分に課しているルールがあるらしい。1つ目が『他人への暴力を禁止』していること。2つ目が『自分より強い者には絶対に逆らわない』こと。
2つ目に関しては境遇などが関係していそうだが、生き残る上では非常に合理的なものだ。長いものに巻かれろなやり方は見た目はどうあれ悪い方向へは進みにくい。そういった意味では実力さえあれば組み伏せることが可能だが、あのアリア達をまとめて倒せてしまうような相手にそれも現実的ではない。
そして1つ目のルールはその高い戦闘力を振るわないでくれると言っている。何故かはわからないが、これはこちらとしてはありがたいの一言。何か面倒事が起きても強行策には出てこないということだ。まぁ、2つ目のルールが適用されるなら、ジーサード辺りに命令されたら覆りそうではあるが、この相反するルールは少なからずかなめの力を削いでくれてるはず。

小鳥からのメールはとりあえず感謝とメールを削除する旨を一緒に返信してから、オレもメールを削除。そこから椅子の背もたれに体重を預けて脱力した座り方をしながら、今の情報を考えた上での今のかなめの行動を分析する。
何かを企んでいることは大前提として、自分に課したルールを守る中で自分の存在を強く周りに印象付けている。味方も着々と増えてるようだし、頭の悪い考え方をすれば武偵高の女子生徒を抱き込んで絶対的な地位を確立できたりができるかもしれないが、そんなことをしてどうするのか見当がつかない。最も有力そうなのはこちらへの牽制。自分に何かしようものなら周りがそれを許さないという状況を完成させること。すでに完成されつつある気がするが、ここはアリア達の報復を抑止するには結構な威力になるかもしれない。
オレとしてはアリア達の動くタイミングを遅延できるならその状況も悪くないとは思う。度が過ぎる抑止が働くとオレにも悪影響が出かねない危険はあるが、そこら辺の対策は情報を集めた上で参謀達――ジャンヌや玉藻様――が上手くやってくれるだろう。
なんにしてもオレが正確な情報を集めなければ進展すらしない。病み上がりでこんなに面倒なことを何でオレがやってるのかと現実逃避しそうになるが、逃げたところで後が怖すぎて退路もないのだ。やるしかない。

昼休み。かなめのいる教室を外から覗ける場所にわざわざ移動して観察してみるが、教室で数人の女子と仲良さそうに話をしながら昼食を食べているだけで、これといった行動はしていなかった。というか見れば見るほど呆れるくらいに普通の子を演じているので、オレですらひょっとしたらあっちが素なのではとわずかな疑問が頭をよぎりそうになる。そんなことアリアにでも言えば「そんなわけないでしょ! バカなの!?」とか言われそうだ。

放課後。キンジと一緒に帰るのがデフォだと思ったがそういうわけでもないようで、キンジはさっさと帰宅していき、かなめは昼休みに話していたクラスメートに加えて、別のクラスの女子と一緒にファミレスにでも行くのかゾロゾロと校舎を出てバスへと乗り込んでいき、尾行だとバレないように先にバスの最前列の席に座って、最後列でキャッキャとやってるかなめ達を窓ガラスの反射を利用してそれとなく見ておく。
昨日の様子だとキンジの食事をかなめが作ってそうだから長々と寄り道はしないはずなので、かなめ達がバスを降りてもオレはそのまま乗り続けて察知される前に離脱。感覚的には気付かれていないが、距離感は徐々に掴んでいかないとな。今日はこんなもんだ。

そうして出発したバスの外にかなめ達が見えなくなってちょっと。少しずつかなめの取り巻きが増えてきていることに危険な匂いを感じつつ流れていく景色に目を向けていると、歩道をトボトボと歩く桜ちゃんの姿を発見。その姿がなんとなく気になったオレは次のバス停で降りて、桜ちゃんがこちらへとやって来るのを待ってみると、どうにも考え事をしている様子の桜ちゃんは周りをよく見ていないようで、オレが近くまで来てから声をかけるまで全く気付かず、こっちがビックリするほどビックリした顔でオレを見た。


「さ、猿飛先輩!? どうしたんですか?」


「武偵は常在戦場だぞ。こんなに接近されてたら簡単にやられる」


「す、すみませんでした……」


一応、先輩としての忠告だけはして挨拶は終わらせ、とりあえず歩きながら話をと思って桜ちゃんに歩幅を合わせておく。


「何か悩み事? 桜が気を張ってないなんて珍しいことだろうし」


「…………実は……」


と、話しやすいようにオレから話題振りをしてあげると、少しの沈黙のあとに口を開きかけた桜ちゃんだったが、何か葛藤があったのかその口を止めてその顔を俯けててしまう。


「…………人に話してどうこうなる悩みじゃないなら話すことないよ。オレも面倒なことは御免だし、聞いたからって解決策を出してあげられるとも限らない。ただ、武偵なら悩むよりまず考えて行動しなきゃダメだろ。時間が解決してくれるなんて甘いこと、そうないんだからな」


きっと桜ちゃんなりに先輩に迷惑じゃないかとか考えちゃってるのかと思って、もう話を聞くことはやめてこんなところでウダウダやってるなとちょっとした渇を入れてあげる。どうしても女の子に甘くなってしまうから言葉がやんわりしてるのは仕方ないが、言われた桜ちゃんはハッとしたように顔を上げてオレを見ると、何か吹っ切れたのか「ありがとうございました!」と綺麗なお辞儀をしてから走って帰っていってしまった。
あんな言葉でも桜ちゃんの役に立てたなら、良かったかな。



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