緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet67
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あっちでもこっちでも働かされていたオレが、その共通の目的である遠山かなめをマークしていたら、怪しげな行動を見た後に夾竹桃にお呼ばれされて第2女子寮の1室で話をしてみれば、何やら遠山かなめの目的がうっすらと見えてきた。


「間宮あかり……か。アリアの戦妹だからってわけでもなさそうだが、その辺にも見当がついてるのか?」


話の中で間宮あかりに辿り着いたオレが、何の気もなく普通に質問を返してみると、あからさまに『生意気な口効いてんじゃねーぞコラ』みたいな顔を返されてしまう。そういえば今はオレの方が立場弱かった……面倒臭い。


「……何か見当はついてらっしゃるのでしょうか」


「……邪魔なんでしょう、あの女にとって間宮あかりが。『競合するカリスマ同士』の衝突は仕方のないことだけど、あの女のワンサイドゲームになりつつあるのは見過ごせないわ」


「カリスマ……あのやたらと周りにいた取り巻きみたいな女子を惹き付けてる力か。間宮にも確かに人を惹き付ける人望みたいのはあるように見えるが……」


とりあえず怒りを納めて本題へと戻った夾竹桃によると、つまり普通の学校における女子グループ同士の衝突のようなものだろう。
なんともアホらしいと一瞬思えたオレだったが、かなめのやり方を思い出してその危険性に辿り着く。
かなめは今、どういうわけか自分に制約をかけて行動している。それは『暴力を振るわない』こと。これがあるから間宮達はまだ『この程度』で済んでいるとわかってしまう。かなめが本当に間宮達を邪魔に思ってるならば、力技で簡単に排除して当然。それだけ実力においては差がある。
しかし制約によって直接手が出せないかなめは、あの手この手で工夫して暴力抜きで間宮達を仲違いさせ、毒のようにじわじわと弱らせている。そしてその先にあるのは……破滅。

では間宮達のグループを邪魔に思ってる理由は?
それは当然、夾竹桃の言うように同じカリスマが邪魔だからなのだろうが、暴力を封じて色々と面倒な状態でもやれなきゃいけない理由が見えてこない。


「その先。仮に間宮達を排除できたとして、その後かなめは何をするつもりなん……でしょうか」


それを踏まえた上で改めて質問をしてみるが、また直前で言葉遣いが普通になってたのをギリギリで直す。もう面倒臭いんだよこれ……


「さぁ? そこまでは私にもわからないわ。動物的な観点からするなら、ハーレムに雄は1人いればいいわけだし、存外、武偵高を乗っ取るつもりだったりとかそんなものかもね」


と、キセルを吹かしながらの夾竹桃はあんまり思考したようには思えない回答をしてくるが、夾竹桃にとってはかなめの目的自体はどうでもいいのだろう。
こちらにとってはどうでもよくないのだが、かなめの今の標的がわかったのは大きな収穫。この後は間宮達の状況を確認しておく必要がありそうだな。


「了解。何かわかったらまた連絡くれるとありがたい。それじゃ……」


やることもできたしさっさと帰ろう。そう思って明らかに『これから何か始めようとする』夾竹桃に気付きつつも逃げようと言葉を連ねて足早に部屋を出ようとしたが、無言の圧力に負けて素直に座り直して沈黙。自由が欲しい。今切実にそう思う。


「あの女が何を企もうと私には興味はないし関わろうとも思わない。でも、その企みによって間宮あかりとその周囲が狙われるのは見過ごせないのよ。あの子の周りにはネタが散りばめられているから。とにかく、あの女によって完全に仲違いをさせられる前に、起きた事態を解消する。そのために……」


オレの素直な態度に機嫌は損ねなかった夾竹桃は、言いながら近くに机にあった何十枚とある紙を目の前のテーブルの中央に置いて見るように促してきたので、それに目を通すと、漫画の原稿用紙だな。白紙だけど。


「冬も近いし、そちらに注力するためにもあなたが使われるのに慣れないとダメでしょ。だから火野ライカと島麒麟の仲を戻すために、2人の間にある誤解を解く漫画を描くわ。時間をかけるつもりもないから、1週間以内に形にするわよ」


そう言い切った夾竹桃は、そこからスイッチが切り替わったのか、早速テーブルに着いて漫画を描き始め、まさかここで漫画のアシスタントの仕事が入ろうとは思ってなかったオレは、今すぐにでも部屋を出てかなめの件に取りかかりたい衝動に駆られながらも、描きながら背景の参考資料を渡してきたり執筆道具の用意を指示されたりともう完全に抜け出せない空気を完成させられてしまう。まさか今日1日ここに拘束されはしないだろうな……


「とりあえず1枚描くから、その間に買い出しお願い。コーヒーは忘れずに買ってきなさいよ。15分以内」


有無を言わさぬ指示に一瞬外に出るチャンスとも思うが、ここで反抗すれば刑期が延びる――別に罪人ではないけど――ので、素直に買い出しに出つつ間宮が火野と同じ程度に親しくしていたはずの佐々木志乃とかいう子だけでも調べておこうと同級生の幸帆に連絡。たっぷり10秒ほどかけて通話に応じた幸帆は相変わらずの丁寧な言葉を連ね連ねて最後に用件を聞いてくる。この辺はいつものことだから気にしない。


「幸帆、ごくごく最近でいいんだが、クラスの間宮の友人関係で何か違和感みたいのはなかったか?」


『違和感、ですか……皆さんいつも通りに仲良くされていたかと思います……』


それで早速用件を尋ねてみると、思い出しながらゆっくりと語った幸帆はそれで言い切るかと言うところで突如「あっ」と短い声を割り込ませて引っ掛かったことをすぐに話す。


『大した違いではないですが、昨日、志乃さんと桜さんが顔を合わせた時に、志乃さんの方が桜さんを避けていた……ような気がしなくもなかったかな、と。あのお2人は元々「あからさまに仲良し」と言うわけではなかったので、特に気にするようなことではないかと思いますが、京様に尋ねられて唐突に気になったといいますか、そんな感じです』


……ここであの桜ちゃんと繋がるのか。もちろん幸帆の言うように杞憂にすぎないことかもしれないが、今の状況から考えるに無視できる違和感ではない。つまり間宮の周りはもうすでに友人関係に亀裂が入ってる。間宮自身がそれに気付くのは早くて来週の登校以降。間宮が女子寮通いならもっと早いかもしれないが、確かアリアの話では学園島の外からの登校だからな。



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