緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet67
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しかし、かなめの目論みがわかったからといってオレがこの問題に深く関わっていくのは状況を悪化させかねないし、仮に状況を覆せたとしても下手な逆転はかえってかなめの制限を外すきっかけになりかねず、戦闘面ならアリア達を完封した事実からほぼ間宮達に勝ち目はない。狙い撃ちされたことから間宮達がかなめにずっとマークされてるのもほぼ確実だから、直接接触するのも危険すぎる。

それならオレはオレの役割に徹するのが最良か。非情だなんだとどこかから言われそうだが、オレもお人好しなわけではないし、正直後輩の問題に関わってる余裕もない。せいぜい今やってる漫画のアシスタントで仲違いを解消してやるくらいが関の山か。

それらのことをわずかな沈黙の中で思考したオレは、ずっと通話中だった幸帆の返事を確認する声で現実に戻ってきて、情報提供に礼を言ってから通話を切り、いつの間にか止まっていた足と時間を確認して夾竹桃のパシリがギリギリになりそうなのを逆算し急いで買う物を買って女子寮へと戻っていったのだった。

それからの数時間。陽が沈むまで部屋に監禁を食らってひたすらに背景やらベタやらトーンやらとやらされまくって、無駄に背景のクオリティを高くしてしまって絵との調和をどうたらと注意されたり、書き直しを要求されたりで夾竹桃の漫画との質の調整に四苦八苦させられて、その調整が一段落したところでようやく解放。明日も日中の午後に来るよう言われて帰宅したオレは、慣れないことをしたせいでそれ以降の行動力と思考力を奪われてしまい、下の階にかなめがいることをそれとなく確認してからその日は就寝。
翌日の日曜日も約束通り夾竹桃にこき使われて貴重な調査時間を削られてしまい、ほとんどかなめについての進展はないまま週明けを迎えたが、漫画の方はちょっと頑張ったので今描いた分の仕上げは終わらせて、夾竹桃の原稿待ちにまでしてやったのと、残りも半分を切ったこともあり拘束時間もだいぶ少なくなりそうでひと安心。あと1日2時間程度頑張れば4日ほどで完成が見えてくると思われる。

そんな散々と言っていい休日明けの月曜日。今日は武偵病院で強化合宿中のアリア達のところへそろそろ顔を出しに行かないと怒られそうなので、放課後に夾竹桃のところへ行く前に報告しに行くことにしていた。

その報告を少しでも有益なものにするために朝から付かず離れずの距離でかなめをマークしていたが、これといった変化もなくいつもの取り巻き女子と表面上楽しそうにしているだけ。孤立した間宮に対して何らかのアクションがあるかと思ったが、事を急ぐつもりもないのか。
そう思っていた中で訪れた昼休み。いつも通り取り巻きと昼食でも食べるのかと予想していたら、その取り巻きに何か謝るような素振りをしつつそそくさと移動を始めてしまい、ちょっと離れた位置にいてどうしても目を離すタイミングができてしまうオレは、その移動先をギリギリまで見てからある程度予測して移動を開始。幸いにも階段を登っていったので一般教科の校舎からは出ないはずで、ちょっと面白いことに校舎外の壁にあの布状兵器が張り付いていて、かなめの移動に合わせて屋上の方へとスルスルと移動していたのだ。
なのでとりあえず屋上目指して移動して、その扉の前で止まってわずかに開けて外の様子をうかがう。するとそこにはかなめの他にあの間宮の姿が。


「友達になろうって、どういうこと……?」


視線などに鋭敏そうなかなめを警戒してすぐに視線を外して壁を背に聞き耳だけ立てていると、何やらオレが来るより前にかなめが間宮に友達になろうみたいな発言をしたみたいだな。しかし友達ねぇ……かなめの言う友達は現状であの有り様だからな。オレや間宮の思うそれとは全く違いそうだ。


「弱い友達は強い友達に従うべき。つまり1番強いあたしを頂点に、この学校には新たな統制が敷かれるんです」


……うわ……これは馬鹿げた話だと思ってたことを現実にやろうとしてるのか。
間宮の問いに対して何気ない口調でそう話したかなめ。つまり「あなたは弱いから自分に従え」と命令してるに等しい。
それには当然、間宮もそんなの友達じゃないと反論してはみせたが、


「自分より強い相手に逆らうなんて非合理的ィ。じゃあぼっちの子は学校が嫌で、そこから飛び降り自殺でもしちゃおうか」


ゾワッ、と壁越しにもわかる殺気を放ちながら恐ろしいことを言ったかなめ。思わず反射的に身構えてしまいそうになるが、なんとか抑えて気配が漏れるのもギリギリで堪える。
しかしあれだな。わざわざ従順じゃないグループの中心である間宮を孤立させ配下に置こうとして、従わなければ邪魔だから自殺しろと。おそらく桜ちゃん達も後に同じようなやり方で直接的ではないにしろ殺す段取りは立ってるはず。
そう考えていたらどうやらその間に間宮が武器を盗られたようで、ナイフだけ残されて手首を切って自殺するように命令されていた。その場から逃げることもできなくはないだろうが、たぶん間宮はかなめが暴力を振るわないことを知らないから、プレッシャーで追い詰められてるはず。最悪本当に自殺なんてこともあり得る、か。
さすがにそれは見過ごせないので、間宮が自殺したら桜ちゃんと佐々木を殺し合わせて、火野と島を心中させるとかいう恐ろしい発言の後に割とリアルな沈黙が続いたため仕方なく出ていこうしたが、それよりちょっと早く屋上から第3者の声が聞こえてきて動きを止める。えーと、何でお前がいる、夾竹桃。いたならもうちょっと早く介入してくれ。

そう思ってまた腰を下ろそうとしたのだが、何やら階段から複数の足音が登ってくるのを察知。ここで誰かに目撃されると、どこかしらでかなめの耳に触れるかもしれないので、そっと階下を覗き見て、数人の女子生徒。それがかなめの取り巻きであることを確認して、屋上への階段。その踊り場まで到達して折り返してくる視覚的な死角を利用して階段を使わずスルリと飛び降りて音もなく着地。すぐに横へ転がって踊り場で折り返した女子生徒の視界から逃れたオレは、彼女らが屋上へと出ていったのを確認して再び扉越しに聞き耳を立てる。


「またかよ! あたし達はかなめちゃんが大好きなんだ……消えろ」


しかし今の十数秒で何がどうしてそうなったのかさっぱりわからないが、取り巻きが間宮に対してそんなことを言って屋上から追い払ったので、見つからないようにまた先に下の階へと降りてトボトボ降りてきた間宮と気に食わないみたいな表情の夾竹桃を影から見送った。何があったかは放課後に本人にでも聞くとしても、本当に暴力抜きでも厄介な相手だな……



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