緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet68
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「…………さすが幸音が使えると言っただけはあったわね。理子やジャンヌよりも良い仕事をしてくれたわ」


アリア達への報告から3日。あれから特に目立った動きを見せなかったかなめは、今日も表面上な呑気に学園生活を満喫していたが、オレはと言えば学校にいる間はかなめの監視をし続け、放課後になれば夾竹桃の描く漫画のアシスタントと割と余裕のない日々。
しかしそれも今日で終わった。現在時刻、午後6時24分。ようやく描いていた漫画の全工程を終えて夾竹桃からのチェックと評価を貰った。言葉通りの意味ならば合格ということでいいはずだ。


「さてと、これであの女の策略の1つを崩せるとしても、油断もしてられないし今後あなたへの拘束は緩めておくわ。でも私からの連絡はいつでも受けられるようにしておきなさい。応答がなかった時には……」


「ああはいはい。十分わかってますから確認せずともだいじょう……」


出来上がった漫画の原稿を仕舞いながら、今後のオレの扱いを話した夾竹桃に十分な理解がある返答でご機嫌を損ねないようにしてそのまま帰ろうとしたら、突然懐の携帯が着信を知らせてきたため、確認してみると相手はジャンヌ。オレへの興味は完全になくなっていた夾竹桃は電話の相手が誰かもどうでもよかったようで、そのまま何も告げずに部屋を出てすぐに通話に応じた。


『サード達について新情報が入った。報告会も兼ねて20分後にファミレスに集まる』


「了解。丁度暇になったタイミングで助かった」


『ん? 今まで何かしていたのか? かなめの監視はずいぶん甘いように見えていたが』


「お前はオレの監視でもしてんのかよ。とにかく、時間はあるから行くよ。そっちの情報とでまた何かわかるかもしれないしな」


何やらオレを観察でもしていたようなジャンヌの発言にちょっと嫌な汗が出つつも、軽くツッコんで躱して女子寮を出たところで通話を切ったオレは、ジャンヌ達から指示を受けて初めての報告会に参加すべく、この学園島に1つしかないファミレスに向けてその足を進めていった。


「この席には大いに不満がある」


「同感だ。何故私がこの男と隣り合わねばならない」


小鳥に夕食はいらない旨のメールを送ってから約束の5分前くらいにファミレスへと到着したのだが、店内を見回せばすでにボックス席を確保して呑気にドリンクまで啜ってるジャンヌ達の姿があり、結局最後の到着になってそうなことにちょっと落胆しつつ近寄ってみると、オレにと空けられた席の隣には見るからに不機嫌そうな羽鳥がいて、向かい側に座るジャンヌとワトソンはその羽鳥とは絶対に目を合わせようとしてなかった。
そこで一応自分の主張をしてはみて、羽鳥も乗ってきたが、向かいの2人は全く取り合う気配すら見せずに「早く座ってくれ」と微妙に泣きそうな目で訴えてくるため、結局羽鳥を抑制する意味でもこの配置が1番平和なのは理解してるので渋々座るが、あからさまな空白地帯を作って互いに不可侵領域を瞬時に定めた。


「玉藻様は?」


「所用で出ている。今回はこのメンバーで全員だ」


それから見た目ジャンヌの逆ハーレム状態のこの席――実際に男はオレ1人――で話を切り出すと、ジャンヌの返答によればどうやら今回は玉藻様は不在らしく、進行役は何やら鞄から資料を出してきたワトソンが務めてくれるようだった。


「ジーサードについてリバティー・メイソンから情報が出てきた。事前にそこのフローレンスから彼がRランク武偵であったことは聞いて知っていると思うが、出てきた情報はもう少し突っ込んだものだよ。まだ詳細については調査中だが、ジーサードは人工天才(ジニオン)――人工的に作り出された天才なんだそうだ」


人工的な天才か……なんかそんなことを実際にやってた組織があったような……そっちは超人だったが、今目の前に1人その思想に基づいて力を付けたお方がいらっしゃるな。
そんな風に思いながら無駄に優雅にアイスティーを飲むジャンヌを見ていたら、ワトソンもその視線の意味をわかった上で話を続ける。


「二次大戦後、潜水艦としての『アレ』は逃亡したが、その思想は計画書と共にドイツから連合国に渡ったんだよ。それが今なお、アメリカで研究されているんだ。彼らは『ロスアラモス・エリート』と銘打って、科学的な手法で天才を作ろうとしてる」


要はちょっとオカルトめいてたイ・ウーより現実的な方法で研究して作られたのがジーサード。と、かなめもってことになるのか。あんだけ強ければ研究も上手くいってたんだろうな。


「だけど、ロスアラモス・エリートの成功例は少ない。というか、ゼロらしい」


そう考えてはみたのだが、その実、研究成果は芳しくないと続けたワトソンの話にちょっと驚く。しかしよくよく考えたら何も戦闘面のみで天才を作っているわけではないことに気付き、どの辺が失敗なのかに頭がいった。おそらくは人格面とかその辺。あれが誰かの命令下で素直に従って動いてるようにはお世辞にも思えない。


「初めはジーサードも成功例とされていたようだよ。IQは290。ロスアラモスの研究機関では、教員を生徒にしてしまうほどの学習能力を見せたそうだ。運動神経も超人的で、非公式記録とはいえオリンピック記録を幾つも塗り替えたらしい。それも10代前半でね」


その後しばらくアメリカの大統領警護官まで務めていたことまで話したワトソンだったが、ジーサードが『正気』とされていたのはその辺までだったらしい。それ以降は研究者側からは『おかしくなった』と評されたのだと言う。


「資料では『発狂した(Went mad)』って書いてあったけどね。生まれ育った研究所から脱走したんだ。厳重に警戒していた完全武装の軍人達を、素手で全員戦闘不能にさせてね。その後、サードにはアメリカ政府から一流の暗殺者(プロ)達が向けられた。何人もね。だが彼らでさえ、ほとんど全員、サードの居場所すら掴めなかった。何人かはサードまで辿り着いたんだが、そっちは1人も帰ってこなかったらしい」


聞けば聞くほど化け物じみてて嫌になってくるが、そんな化け物に向けられた暗殺者達が揃いも揃って帰ってこなかったというのは、どうにも引っ掛かった。何故ならワトソンは彼らが『殺された』とは言っていないからな。その辺に不思議と人間味みたいなものがうかがえてしまう。では帰らなかった彼らは今どうしてるのか。



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