緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet68
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「その帰らなかったやつらってのが、今のサードの仲間、ってことか?」


それらを踏まえて可能性の1つをワトソンに対して述べてみると、それが当たったらしくその通りといった顔が返ってくる。


「仲間の全員がそうというわけではないだろうけど、彼にはある種のカリスマ性というか、人を惹き付ける不思議な魅力があるんだ。だから暗殺者を送り続けてたらサードに仲間が増えるだけ……と気付いたアメリカは、暗殺計画を中断して、交渉・説得しようとしているそうだよ。今も、なお。ジーフォース――かなめは、サードが研究所から脱走した時、一緒に逃げた人工天才の1人らしい。ただ……まだ育成中だったらしくて、社会的な記録は無かった」


そこで資料から目を離したワトソン。どうやらこれで現状の情報は全てみたいだな。
つまりジーサードが使っていたあの姿を消す兵器も、かなめが使っていた科学剣の類いも、その交渉によるアメリカからの技術の提供と見て良さそうだ。よくは知らないが、最先端技術というのはそれを維持向上するだけでも大変だと聞いたことがあるし、無法者っぽいジーサードの一味がそれらを開発維持できる力を持てるとは思えない。


「さぁ、次は君の番だサルトビ。この1週間、寝ていたわけではないだろう?」


そうこう思考していたら、資料を直接読みたいと言うジャンヌに資料を渡しつつワトソンがオレにターンを与えてきたので、今の情報も踏まえた上での話を始める。確かこっちはかなめをこちら側に引き込むための情報、だったな。


「かなめの目的は未だにはっきりとしないが、今は女子生徒を洗脳じみた力で傘下に入れつつピラミッドの頂点にいようとしてるな。それにどういう意味があるのかは目下調査中だ」


「何? どうりで最近、後輩達からかなめの話をよく聞くと思っていた。これは私の領域をまた侵食されかねんな……」


「……ジャンヌの人気の話はどうでもいいとして……」


「猿飛、どうでもいいとは聞き捨てならないな。よもや私の後輩がどうなってもいいと言うつもりか?」


そうして真面目な話をしていたのに、資料からハッとしたように顔を上げたジャンヌが至って真顔でオレ達にとって大したことでもないことを述べるので軽く流そうとしたが、余計突っかかってきて困る。


「……今ここで対策することじゃないって意味だ。突っかかってくるなよ。ていうかそれは個人で解決してくれ。ったく……本筋に戻すが、かなめはどうやら誰かの命令で今、戦闘能力を発揮しないでいる。それもあって周囲を抱き込むやり方になってそうだが、これはおそらくジーサードの命令じゃなくて、キンジが何かしら言った結果だと考えてる。まぁそれもジーサードの命令が1番上に来るだろうから、いつどうなるかわからない。正直に言えば、かなめにとってキンジが『ジーサード以上の存在』にならないと、こちら側に引き込むのは難しいと思う。というより、たとえかなめを引き込めても、それでジーサードまで引き込めるかってところがそもそも怪しいしな」


「つまりかなめはトカゲの尻尾切りにされかねない、と君は思うわけだ。事の終息にはジーサード自体をどうにかしなければならない、と」


とにかく話を元に戻しつつ、推測も含めた情報と意見を述べたオレに、要約した羽鳥が質問で返したきたので静かに頷き肯定する。


「そうだとしても、現状でサードへと繋がる糸口はかなめだけだ。こちらにかなめを引き込むことに意味がないとする意見には異論があるよ。交渉にかなめが使えないと決まったわけでもないんだからね」


「ん、別にかなめを引き込むのを諦めろとは言ってないさ。かなめを引き込めれば一時的にでも場は落ち着くし、かなめからジーサードについて色々聞けるかもしれないからな。ただジーサードの手振り次第で引き入れた故に簡単に崩壊させられるリスクも背負うってこと」


「その上でかなめを引き込むかどうかか。問われるまでもないな。必ず引き込む。異論の余地はない」


……すんごい真面目な話をしているのに、1人だけなんか温度が違うことに気付きつつも、強く言ったジャンヌに皆が賛同。作戦変更はなしか。だがそうなると……


「そうなると、結果として一時的な終息をもたらす方法は何も、遠山キンジを利用する必要はないと思うね」


それで少しだけあることを考えていたオレよりも早く、隣の羽鳥が口を開いてそんなことを言うので、向かいの2人は揃って羽鳥へと視線を向けたが、なんか嬉しそうにする羽鳥を見てすぐに視線を別のところに向けながら話を続けさせる。


「遠山かなめは『自分より強い者には逆らわない』。何故ならそれが非合理的であるからだ。それならばその合理的な思考を利用して『遠山かなめを屈服』させれば、サードの介入までの平穏は約束されるわけだ」


「……それが難しいからトオヤマに『ロメオ』をやらせているんじゃないか。君は裏方に徹し始めて机上の空論を述べるほど前線での思考力が落ちたのかい?」


そうやってドヤ顔でキザな笑みを含めた言葉を述べた羽鳥だったが、ものの数秒でワトソンに却下気味に返答され、素直に引き下がってくれたらオレが繋げてやろうと思ったが、笑みを崩さなかった羽鳥は「普通ならそう思うだろうね」と返して続きを話す。うざっ……
ちなみにロメオは武偵用語で男版のハニートラップを意味している。


「まだ遠山かなめの全力が未知数ではあるけど、アリア達がやられたのは備えのなかった奇襲。実際のところ、互いに万全の状態でぶつかった時はそこまでの戦力差はないと踏んでるよ。しかしそれだけの理屈なら遠山かなめの屈服を持ち出すほど私もギャンブラーじゃない。だが今現在、遠山かなめには2つの制約がある。1つは『他者への暴力行為の禁止』。これは彼も言っていたことだから周知だろう。そして2つ目は『卑怯な真似をしない』こと。この2つがあれば、今リベンジに燃えているアリア達でも勝てる可能性をかなり高められる。少なくとも、この1週間近くでほとんど何もできていない遠山キンジよりは、頼りになると思うよ」



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