緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet68
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その後の会議であと数日はキンジの様子を見て、かなめの引き込みが叶わないようなら羽鳥の提案をまた一考することにして解散となった。
その帰り道。同室故に同じ道を歩いていたオレと羽鳥だったが、並んで歩くほど仲も良くないので羽鳥のやや後ろを歩いていた。


「…………羽鳥、さっきの話で引っ掛かることがある」


その道中で、オレは先ほどの会議において羽鳥が言っていたことにある引っ掛かりを感じて歩きながらに質問をする前置きをすると、振り向かずに羽鳥は「言ってごらん」と返してくるので、遠慮なく質問をぶつけた。


「お前、どうしてかなめが『卑怯な真似はしない』ことを知ってた? あの時は話の進行上スルーしたが、オレはそんな情報を持ってなかった。この1週間マークしてたオレがだ」


「それは君が自分を買い被ってるだけじゃないかな? 君は狙ったらどんな情報も手に入れられるほど優秀な人材なのかい?」


うぐっ、とぶつけた質問に対しての正論に一瞬怯んでしまったオレだが、ここで引き下がるのはダメな気がするので「誤魔化すな」と強引に質問の答えを聞き出す。


「……仕方がないことだと思うよ。これは君がマークし始めるより前に遠山キンジの部屋で交わされた2人だけの約束事だからね。公にも述べてないから、知っている人物もそれを約束させた遠山キンジのみだろうし」


「……まさかお前……キンジの部屋に……」


「約1週間前。君が目を覚ましたすぐ後に、遠山かなめがフラフラ外出している間に取り急いで痕跡を残さずコソッとね。その時にそんなことを話していたんだよ。まぁ、鋭すぎる彼女に1時間と経たず撤去されてしまったがね。それに卑怯な真似の線引きが彼女の中で非常に曖昧な感じだったからしばらく様子をうかがってたんだけど、どうやら『裏で画策する』のは卑怯ではないようだね」


色んな意味で手が早い羽鳥らしい行動。諜報能力もさすがのようだな。ちゃんとした情報として開示できる段階まで様子を見たのも変なところではない、か。

オレが変に警戒しているだけなのだが、コイツの言動1つ1つに注意してる自分がちょっとバカらしくもなってきた。いいかげん仲間だという意識を強めてもいいはずなんだが、どうしてもコイツとはこれ以上の距離を縮めるのが躊躇われる。本能的に、それをしたくないのだ。

その羽鳥とはそれ以降に会話もなくまっすぐ帰宅したオレは、ジーサードについての情報をキンジに話すのは自分がやると言ったワトソンにそちらは任せつつ、まだハッキリとしないかなめの目的についてどう調べるかを考えながらその日を終えるのだった。

翌日の金曜日。この日は放課後に何やら校舎でキンジを監視するような素振りを見せてからそのまま1人で帰宅。一応外出を警戒してはみたが、今日も動きはなかったかと監視体制を解こうとした夜も9時になろうかというタイミングで、男子寮から出ていったかなめ。それを寒空の下の屋上から見ていたオレは、その動きに合わせて移動を開始。その足取りがどうにも学園島の外へと向かいそうなのを見越して、アリア達と一緒に退院していたレキに声をかけてから学園島を出る。

レキとメールでの連絡を行いながらかなめを追跡すること数十分。辿り着いたのは六本木。そこの高級住宅マンション――何やら屋内共有の施設でもありそうな構造――の1つに入っていったかなめを確認して、そこでいると噂されている仲間と会っているであろうことを予測したオレは、ただ出てくるのを待っても成果などないので共有スペースがありそうな上階にあるガラス張りの灯りが点いている階までとりあえず蛟を使って蜘蛛のように登って――夜で目立たなくて助かった――みて、そこから角付近に陣取って横から中を覗いてみると、どうやら屋内プールがあるようで、そこにはいかにもな雰囲気を纏った3人の女が水着姿で集まっていて、位置的に覗く顔が中の灯りに照らされて異様に目立つため、覗き続けるのは得策ではないと判断。すぐに顔を引っ込めてレキに指示を出し、オレのだいたいの現在地とちゃんと視認できるように携帯の画面を開閉して点滅させ、この階をドラグノフのスコープで覗けるギリギリの位置まで移動してもらう。このために合流しなかったは結果論だが、元々『鷹の目』としての役割で連れ出したので読みが当たって良かった。
それからわずか10分足らずで配置に付いて照準を合わせてくれたレキから、中の様子を実況してもらう。正直じっくり見られなかったので3人の特徴すら確認できなかったしな。


『1人は大柄な金髪女性。目にサングラス、手には大型の兵器を持っています。おそらくはロケットランチャーの類いでしょう。あとの2人はどちらも小柄で細身。片方が褌のような水着に、頭に大きな獣の耳のアクセサリーを付けていて、もう片方は色の違う両目で銀色の長髪。アメリカの国旗柄のビキニに腰から拳銃を提げています』


レキから珍しく長い言葉を聞いたなとかズレたことを思いながらも、3人の特徴を聞いてなんとなくでイメージを固め、後で絵の上手いレキに似顔絵でも描いてもらうことにし、顔も出せずにいるこの場に長居するのも無駄なので退散。マンション近くで隠れるように待機していると、レキからプールにかなめが現れたと報告があり、そこから察してやはり彼女らがジーサードの仲間であることを確信。おそらくはアメリカが送って仲間にされたという暗殺者も含まれているだろう。獣の耳のアクセサリーを付けた女ってのは、もしかすると玉藻様とかと同じかもな。


「レキ、唇の動きで言葉は読み取れるか? 1番見えやすいやつ1人でもいいんだが……」


『読唇術はあまり得意ではありませんが、ここからなら……長髪で小柄な女の口許がよく見えますので、できる限り読み取ってみます』


それで以降、片言のように唇の動きを読んで途切れ途切れで単語を拾ってくれたレキ。その拾ってくれた単語は『ミッション』『キンジ』『連れて』『合流』『日本』『拠点』『作る』の7つ。
単語の順番からそれぞれを予測しながら繋ぎ合わせていくと、かなめの目的がキンジを連れてジーサード達と合流することで、もう1つ、今のかなめの行動から考えて、武偵高に拠点を作ろうとしていることがわかった。なるほどねぇ。


「レキ、撤収だ。勘づかれる前に退散しろ」


『この事をアリアさん達には?』


「任せる。報酬もなしに駆り出したんだから、そのくらい選択していいよ」


『利害の一致は助力に十分な理由です。働かされたという認識は私にはありません』


「それでもレキが考えてどうするか決めていいよ。もうそれができるレキになったんだろ? あ、似顔絵の件はよろしくな」


それで何かの偶然や超常的な感知――玉藻様の同類かもしれないやつもいるしな――とかで存在が気付かれる前にレキを撤収させ、今得た情報をメールでジャンヌに送ってから、かなめがマンションから出てくるのを待って、その後はまっすぐ学園島へと戻ったかなめは、マンションで仲間から受け取ったであろう謎の荷物を持って何事もなかったように帰宅。
その荷物の中身が少し気になりつつも、それ以降は何か得られるものもなさそうだったのでこの日はこれで終了。あとはジャンヌ達の反応とレキの似顔絵を待つことにしてオレも休息へと入ったのだった。



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