アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜

□Acceleration Second7
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 マリアの通う松乃木学園は、少子化の波でその生徒数が減少。
 10年ほど前から様々な対策がされたものの、抜本的な対策とはならずに敷地の一部を売却し、今年の1学期をもって初等部の現校舎が取り壊しとなり、初等部・中等部の合同校舎の新設と相成ったのだ。
 その際にやむを得なく継続が不可能とされてしまったのが、敷地内で飼っている飼育動物達の飼育。
 学校側は『適切な対応をする』とは言ったらしいのだが、小学生でもその意味くらいはわかり、この1学期でどうにか方々へと掛け合って飼育動物の引き取り先を見つけて、ほぼ全ての動物が無事に引き取りを完了させられた。
 しかし松乃木学園には引き取ることもできない動物が1匹だけいて、それはどうしても飼育していかなければならないとなり、同系列の梅郷中学校にある使われていない飼育小屋を提供しようという話になったわけだ。
 もちろん、その話は生徒会などに通る案件なので黒雪姫と恵も知るところだが、別にマリアが泣き落としでどうこうしたとかではなく、ちゃんと手順を踏んだ上での決定だと聞いたものの、どうしても何かの力が働いたと思えてならない。

「……とか言われて引き下がるテルヨシお兄さんではなーい」

 その辺で黒雪姫も言葉を濁したことがあったので、時折やってる職権乱用を今回もしてそうだなぁとか思ってスルーしたのはつい最近。
 裏がありそうなこの話に興味が湧いたテルヨシは、表面上はマリアに顔出しはしないと言っておきつつ、いつものように登校してマリアを見送ってから、怪しい笑みでそんなことを呟いて梅郷中学校の門を潜っていった。

「……ってことがあったんだわ」

「…………うむ。にわかには信じがたいが、それが起こりうるのもこのゲームの奥深さというべきか……」

 その企みはまぁ人に話すことではないので、放課後の楽しみにしておきつつ、こっちもこっちで話しておかなきゃと今日はハルユキとの逢い引きをキャンセルしてもらって、黒雪姫と2人でランチとしたテルヨシは、昨日のモーターの件を真面目に話してその感想と意見を黒雪姫に求める。
 黒雪姫でさえにわかには信じられないといった雰囲気で難しい顔をしたが、やはり古参ゆえに整理も早く、いくつかの可能性を話してくれる。

「お前も知っている例で言えば、我々が問題として直面している《災禍の鎧》。強度などから言えば違いはあるが、原理はあれに近いかもしれんな」

「ああそっか。でも譲渡されたアイテムを使うだけで心意が使えるようになるってのはどうよ?」

「そこはまだ不明な部分が多いが、話を聞く限り個々人から独自の心意を引き出すわけではなく、そのアイテムに『あらかじめプログラムされた心意技』を使えるようになるといった外的な要因ならば、使用者は『器』としての機能でしかないのかもしれん」

「つまりそれはアイテムを介して『別の誰かの心意技』を使ってるって可能性か。ますます原理がわからんがね」

 スピンが攻撃的な思考と行動を取ったことに関して、黒雪姫は鎧の干渉に近いものと推測し、それにはテルヨシも言われて納得。
 そして問題の心意技の譲渡についてもそれらしい可能性を示してくれたのはさすがだが、この短い時間で具体的なことまでは考えが及ばなかった黒雪姫は、残りの休み時間を確認しながら席を立つ。

「何にしてもその《ISモード練習(スタディ)キット》……ISSキットとやらは流布する者がいる限り、使用者は徐々に増えてしまうだろう。だがこちらも今は立て込んでいる。あれもこれもとやってはいられんしな……」

「いいよ。その辺はオレとかサ……ガッちゃんとかで動いてみるから、姫はハルユキ君のことに集中しな」

「任せきりは癪だ。こちらでも私がふ……レイカーと知恵を出してみるが、フットワークはお前の方が良いだろ。ガストの顔の広さも活かして情報収集してくれ」

「りょーかーい」

 とりあえず今は問題が色々あるので、誰がどうするかといった大雑把な方針決定だけして、1つ1つ片付けていこうとなる。
 とりわけハルユキの鎧の浄化はタイムリミットも絡む早急な案件。その優先順位は比べるまでもない。
 その上で頭は貸すと言うのがどれほどの労力かは説明する必要もないが、どうにも簡単な問題じゃない予感があったテルヨシは、やはり手回しは色々しておこうと思案に入った。

「それはそれとして……ってなるはずが……」

 放課後。
 さぁバイトだバイトー! の前にうーちゃんに会いに行こう! と、HRが終わるのを待ちわびていたら、なんか担任からの呼び出しを食らい現在、職員室にて担任からある提案をされていた。
 テルヨシも今年で最上級生だし、紛いなりにも特別枠(エクストラ・ワン)入学の生徒。
 そんな生徒がいてそのまま卒業させてしまうのはあまり学校にとっても意味がないとのことで、今月末に開催される学園祭。そこでテルヨシに檀上で何かしてほしいとのことだった。
 何かというのはもちろん心理学による何かしらの講義的なプレゼンみたいなそれだが、正直なところ面倒臭いし断りたかった。
 しかし現実はこの学校に入学できるだけの学力はギリギリないくらいで入学させてもらい、あれな成績も温情で切り抜けてきたところはあるので、学校側からの要求を無下にできない部分が多分にあったりする。

「…………うい」

 なので決して圧力があったわけでもないそれを断ることが出来なかったテルヨシは、概要をまとめたファイルを渡されて解放され、今週中にでも内容を固めて教師陣にまずプレゼンしなきゃならなくなった。

 あっちもこっちも忙しいよぉ。
 なーんて悲鳴をあげると黒雪姫辺りが「それを生徒会副会長でありレギオンのマスターである私に聞こえるように言うのか?」とかなんとか言われそうだから、心でだけ泣いておき、バイト先には少し遅れることをメールしておいたのでほんのちょっと時間があったテルヨシは、結果的に良い頃合いになったので飼育小屋のある敷地の北西の角へと足を運んでみる。



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