緋弾のアリア〜影の武偵〜

□Bullet9
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あの珍騒動から数日。その1件でキンジが男子寮のベランダからすぐ下の東京湾にダイブして翌日に風邪を引いたりなどがあったが、それ以外は平和そのもので、アドシアード開催の準備も着々と進み、白雪の身にも何事も起こらなかった。

だから……『こういうこと』になる可能性を今はすでにベストコンディションのオレにも考えられたわけで、これすらも魔剣の思惑の内なのだと想像しただけで鳥肌が立ってしまう。

そんなオレは現在、強襲科の施設の屋上へと出る扉の横に座っていた。
目的としてはここでアドシアード閉会式のチアの練習をする女子を観賞……もとい見学するためだったが、まぁそれは表向き。本当はそのチアの監督をする白雪をそれとなく観察するため。

でまぁ、それも終わってさっさと施設を出るのかと思ったのだが、風邪から回復したボディーガードのキンジが仕事を放って屋上へと行き、その少しあとにアリアがそれを追い掛けていったのだ。気にならないわけないだろ?


「いざ、って、ここ数日白雪に張りついたけど何も危ないことなんて無かっただろ! こうなりゃもういっぺん言ってやる! 敵なんて、魔剣なんて、いねえんだよ!」


それで来てみたらこんな話が始まってるわけだ。やれやれだな。


「お前が一刻も早く母親――かなえさんを助けたいのは分かってる。でもな、今のお前はそのために平常心を失ってんだよ! 敵の一員かもしれない『魔剣』って名前を聞いた時、お前はその敵を『いてほしい』って思っちまったんだ。それでいつの間にか、自己暗示ってやつで、『いる』ような錯覚に陥ってんだよ!」


「――違うっ! 魔剣はいる! あたしのカンでは、もう近くまで迫ってるわ!」


この2人って、仲良くしてる時があるんだろうか? いやないな。なぜか確信を持って言える。ただ、今回はこれが『悪い方向』に転がりそうだ。つまりは魔剣にとっての『良い方向』にな。
もちろんオレは魔剣が『いる』と信じてる。たとえキンジが何を言おうとそれは変わらないし、『いない』という『証拠』もないのだから。まぁ、逆も言えるがな。


「そういうのを妄想っつーんだよ! 白雪は絶対大丈夫だから、どっかいけ! アドシアード終了まで、あとは俺が1人で白雪のボディーガードをやってやる!」


「なによそれ! ――あったまきた! そうよねそうよね! あたしはあんたたちにとってジャマな、妄想女だもんね! 依頼人とボディーガードのくせに! ふ、ふ、服を脱がし合ったり……サイッテー!」


「そ……その事だってそうだ! お前は何でも思い込みの独断で事を進めすぎなんだよ! ちょっといい家に生まれたからって、いい気になんな! お前は天才かもしれねーけどな、世の中は俺たち凡人が動かしてんだ! お前はズレてんだよ!」


いい家? ああそっか。アリアは確か『H家』……『ホームズ家』の4世だったか。オレにとってはどうでも良かったから忘れてたな。
しかし、こいつは何か考えないと事が起きてからじゃ対処できないぞ。キンジ1人でボディーガードなんて不安で仕方ない。
となるとオレは……。


「あんたも……そうなんだ。そういうこと言うんだ」


ん? なんかアリアの声が弱々しくなったな。


「みんな、あたしのことを分かってなんかくれないんだ。みんながあたしのことを、先走りの、独り決めの、弾丸娘――ホームズ家の欠陥品って呼ぶ。あんたも――そう!」


みんな……か。きっと色々あったんだろうな。オレにはその苦悩は理解できないが、『似たような経験』はした事がある。自分の意志を一切認められず、否定しかされない苦痛……。まるで自分という存在を否定されたかのような、あの感覚。

オレは昔のことを思い出しつつ、無意識の内に手に力が入ってしまっていた。


「あたしには分かるのよ! 白雪に、敵が迫ってることが! でも、でも、それをうまく説明できない! 偉大なシャーロック・ホームズ曾お爺さまみたいに、誰にでも分かるように、状況を論理的に説明することができない! だからみんな、あたしを信じてくれなくて――あたしはいつも独唱曲(アリア)で――でも、でも、直感で分かるのよ! こんなにあたしが言ってるのに、どうして! どうしてあんたは信じてくれないのよ!」


「……ああ、分かんねえよ! いもしない敵が迫ってるなんて、信じられるか! 主張があるなら証拠を出せ! それが武偵だ! 何度でも言ってやる! 敵なんかいねえ!」


「――この――この、どバカ! バカバカバカバカバカ――――――ッ!!」


そんなアリアの叫びのあと、ばきゅばきゅばきゅばきゅきゅ!! と銃声が。本当にところかまわずぶっ放すよな。


「キンジのバカ! バカの金メダル! ノーベルどバカ賞ー!!」


ばきゅばきゅばきゅばきゅきゅ。さらにぶっ放したかと思うと、突然横の扉が開き、オレは勢い良く開かれた扉と後ろの壁に板挟みにされてしまった。いてーなちくしょう!

それに涙目になりながら勢い良く扉を開いて階段を下りていった人物を見たオレ。アリアだ。おっと、痛がってる場合じゃないな。

オレはすぐに頭を切り替えて立ち上がり、アリアのあとを追いかけた。
だがまさかあのアリアが依頼を放棄とはね。過去のデータにもないことだぞ? なにせ依頼達成率99%なんだから。ちなみに残りの1%はキンジの強猥が原因らしい。記録にはないが。

にしても足速いなアリア。結構マジで走ってんのになかなか差が縮まらない。もう叫ぶか。


「待てアリア! ちょっとストップ!」


オレのそんな声が届いたのか、アリアは強襲科の出入口付近で足を止め後ろを駆けていたオレに振り返った。


「……京夜?」


オレに呼び止められる理由が見当たらなかったアリアは、追いついたオレを不思議そうな顔をして見ていた。まぁそうなるよな。


「用があるなら手早く済ませて。あたしはこれからやることがあるから」


……ん? やることがある? なんか変な話じゃないか? アリアは依頼を放棄したはず……。


「あー……んー……とりあえず2人きりで話せる場所に移ろうか」


不思議な言動を見せたアリアにオレが混乱しかけたので、とりあえず自分が落ち着くためそんな提案をして、近くのファミレスに行くことになった。



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