魔法少女リリカルなのはViVid〜時を越える願い〜

□〜覇王と和人とノーヴェ〜
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日も完全に沈み、街灯が街を照らす時間帯。和人はバイザーをつけた女性に道を阻まれ足を止めていた。


「伺いたい事と確かめたいこと?」


「はい。伺いたい事は貴方の知己である『王』達についてです」


「ふむ、ならまずはバイザーを外して名乗ってもらおうか?話はそれからだな」


和人の要求にすぐに応えた女性は、バイザーを外して名乗る。


「失礼しました。カイザーアーツ正統。ハイディ・E・S・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂いています」


その名を聞いた和人は表情を変えずに言葉を返す。


「『覇王』イングヴァルトか……。それで?『王』達の何が聞きたい?」


「はい。聖王オリヴィエのクローンと冥府の炎王イクスヴェリア。貴方はその両方の所在を知っていると思われます」


「それを知って何がしたい?」


「……古きベルカのどの王より覇王のこの身が強くあることを証明したいのです」


「……生憎、君の求める人物の所在はオレにはわからないし、そんな昔の王達と知り合いになった記憶もないな」


それを聞いた覇王はその回答に特に表情を変えずに、


「そうですか。その件に関しては他を当たるとします」


それを聞いた和人は「そうしてくれると有り難い」と返すと、


「ではもう一つ確かめたい事は、あなたの拳と私の拳、いったいどちらが強いのかです」


言われた和人は少し困った顔をしてしまうが、覇王が至って真面目に言っているため、一応確認をとる和人。


「それは喧嘩と捉えていいのか?それとも手合せとしてか?」


「どちらとも捉えてもらって結構です。では防護服と武装をお願いします」


「いいぜ。相手になってやる。ただ、手合せって事で頼む。あとで面倒な事になるのは勘弁だからな。ああ、あと防護服とかはいらないさ。『一撃も食らわない』からな」


その発言にはさすがに反応する覇王。


「ん〜、よく見るとまだ二十歳前後くらいか?何でこんな喧嘩まがいな事を?」


「……強さを知りたいんです」


そう言う覇王はかなり真剣だった。


(見たとこ実力はノーヴェと同等かそれ以下……それに女の子だしな……)


和人は考えながら前に立つ覇王の実力を雰囲気で計り見定めると、


「……五発。先にオレが打ち込んだらオレの勝ち。それより先に君がオレに一撃入れたら君の勝ち。そのルールでなら相手をしてあげるよ」


その提案に覇王は少し黙ったあと答えた。


「わかりました。こちらから頼んだ身ですから、文句は言いません」


その回答を聞いた和人は、持っていた荷物を近くに備え付けられたベンチに置くと、覇王と対峙して構えた。

それを確認した覇王は独特の歩法で和人へと急接近し鋭い右正拳を顔へと放った。
見たことのない動きに多少驚いた和人だったが、すぐに切り替え左の手の甲で迫る右正拳を外側へ弾くと、すかさず右手を覇王の額へ伸ばして……パチーーン!と一発デコピンを食らわした。
覇王は突然デコピンされたことに動揺し一度和人から距離をとった。


「まず一発な。気を抜いてるとあっという間に終わるぞ?」


和人は驚く覇王にそんなことを言って再び構える。

覇王はそれを聞いて気を引き締め直して再び和人へと接近し、みぞおちに右の打ち上げを放った。しかしその右が放たれる前に和人が一歩前に踏み出して左手でその溜めていた右を止め、右手で再び額にデコピンを放とうとする。
今度は寸前のところで首を振ってデコピンを躱して一歩下がりすぐに左の正拳突きを放つが、和人は身体を半身の状態にして覇王の外側へ躱し、左手でカウンター気味にデコピンを食らわせた。


(この人……私の額をピンポイントで!)


覇王は怯みつつそんなことを考えるとまた距離をとった。


「二発目〜」


余裕の表情で言う和人に若干の怒りが込み上げた覇王だったが、そんな覇王を見て和人が話し掛ける。


「なあ、何でそんなに強くなりたいんだ?」


その問い掛けに覇王は構えを解かずに答える。


「列強の王達を倒し、ベルカの天地に覇を成すこと。それが私の……『覇王』の悲願だからです」


「ふ〜ん。まあ強くなりたいって気持ちはわからんでもないが、オレと君では志すところがまったく違うらしいな」


「……では貴方は何故強くなろうとするのですか?」


「そんなの簡単さ。『大切なものを守るため』だよ」


「大切なもの……」


それを聞いた覇王は何か考えだしたが、すぐに切り替え和人を見据える。


「今はそのような問答は不要です。続きを始めましょう」


「結構重要だと思うけどなぁ」


そんなことを言う和人に再度接近していく覇王。

その後、二発のデコピンを食らわされた覇王は追い込まれてしまい再び距離をとり、さすがに痛くなってきたのか額を擦っていた。



(圧倒的……これほどに力の差があるなんて思わなかった。でも届かせるんだ!私の拳を!)


覇王はそう決意し最後の突撃をかけていった。
和人は今までと少し違う雰囲気を敏感に感じ取り気を引き締めて迎撃にあたる。
和人の感覚は正しかったらしく、覇王は今までで一番キレがある動きで和人の懐に入り、右腕に力を溜めて、


「覇王……」


「むっ!?」


何か得体の知れない力を感じた和人は、覇王より先に攻撃することを決め額に狙いを定める。


パチーーン!「断空拳!」


ほぼ同時に二人の攻撃が当たり、和人は覇王の右の直打をもらって後ろへ吹き飛び、覇王は額の痛みに堪えながら吹き飛んだ和人を見ていた。


「……私の負けですね」


覇王は構えを解くと和人に話し掛けた。すると和人は何事もなかったように起き上がり覇王に言葉を掛けた。


「いやいや、最後の一撃は見事!オレも久々に『受け』に回ったからな。とはいえオレにダメージは通らせないさ」


攻撃を食らう瞬間、自ら後ろへ飛んでダメージを逃がしていた和人は言いながら荷物を持ち直して、最後に言葉を掛けた。


「まあ無茶だけはしないようにしろよ?St.ヒルデ魔法学院中等科1年『アインハルト・ストラトス』さん」


それを聞いた覇王は和人を引き止めようとしたが、和人はさっさと行ってしまった。



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