魔法少女リリカルなのはViVid〜時を越える願い〜

□〜過去と現在〜
1ページ/3ページ


「三人も知ってるとおり、クラウス陛下はベルカの歴史に名を残した武勇の人にして初代の覇王だ」


グレイルは、ルーテシアが取り出した本に載る人物画を指しながら、三人に話をしだした。


「そしてオレのオリジナルである人物、リネオス・ヴァルトもまた、ベルカの歴史に名を残した英傑だ」


それについて三人も理解の頷きを見せる。それを確認したグレイルは話を続ける。


「オレは四年前のJS事件の際に、そのリネオスに体を支配されていたんだ。まあ、スカリエッティが何かしたのは明確だが、今はどうでもいい。
それで和人が頑張ってくれたおかげで体を取り戻せたオレは、無茶してつい最近まで寝ていたわけだが……」


そこで苦笑いを浮かべるグレイル。


「オレは寝ていた時間にリネオスの意思と会話をしていたんだよ」


それを聞いた三人は、よく理解できなくて頭に?マークが浮かんだが、グレイルは話を続けた。


「リネオスが生きていた時代……つまりは聖王戦争時代の話を色々と聞いたよ。もちろん、オリヴィエ陛下やクラウス陛下のこともな。リネオス本人からの話だから、回顧録より正確な話だと思うよ」


その事実に三人は目を輝かせてグレイルを見つめて話を聞こうとしていた。










「記憶といっても覇王の一生分全てというわけではないんですが」


メアリス、ヴィヴィオ、アインハルトの三人は、洗った食器を棚に置きながら、話をしていた。


「途切れ途切れの記憶をつなぎあわせれば、彼の生涯を自分の記憶として思い出せます。
彼にとっての思い出はそのまま私の思い出なんです。
乱世のベルカは悲しい時代でしたから」








「雲に覆われた薄暗い空と枯れ果てた大地。人々の血が河のように流れても終わらない戦乱の時代。
誰もが苦しんで乱世を終わらせたいと願いながら……だがそのためには力をもって戦うしかなかった時代。
そんな時代に生きた彼の想いを……たくさんの心残りを……オレは全て託されたんだ」


しんみりとした話にルーテシア達は何も言わずに黙って聞いていた。


「もちろん、彼の楽しかった思い出だってたくさん聞いたよ。例えば、オリヴィエ陛下との出会いの話とかな」


「ええ!?聞きたいです!話してください!お願いします!」


その話に真っ先に食い付いたルーテシアは、身を乗り出してグレイルに迫ると、グレイルは落ち着くように言ってから、話を始めた。


「リネオスは元々、聖王家に仕える騎士の騎士見習いとして、十歳の時に仕官したらしい。その時はまだオリヴィエは赤ん坊だったんだとさ。
それでリネオスが十五歳になって、その類い稀な能力を開花させ始めた時に、幼いオリヴィエの護衛を任されたんだ」


ここからは当時の描写になる。




「オリヴィエ・セーゲブレヒトか……幼いとはいえ王位継承者候補……騎士の名に恥じないようにしなければ」


聖王家の城内を歩きながら一人意気込んでいたのは、まだ幼さを残す騎士リネオス・ヴァルト。しかし、その実力は他の騎士より頭一つ分飛び出す程で、それもあって今回、聖王家のご子息を守る任を与えられたのだ。


「さて、城の庭園にいらっしゃるとのことだが……」


リネオスはオリヴィエの世話係から居場所を聞いて庭園へとやってきたわけだが、その庭園には大きな噴水が一つあるだけで、花などは一つも咲いていない殺伐とした場所だった。
そんな場所に妙に浮いているものを発見したリネオス。それは殺伐とした風景には相応しくない鮮やかな白いドレスを着た人物だった。


「あの方か……って何をしてらっしゃるのか……」


リネオスはそんな白いドレスを着た人物に近づいていくと、その人物もリネオスに気付き顔を向けて笑顔を浮かべる。


「ごきげんよう。騎士の方」


白いドレスを着た人物は、幼いながらもしっかりとした礼儀正しい挨拶をしてきたため、リネオスは一瞬驚くが、


「お初にお目にかかります、オリヴィエ陛下。
本日より陛下の護衛を任されました、リネオス・ヴァルトです。よろしくお願いします」


すぐに落ち着いてオリヴィエにひざまずいて頭を下げた。


「あなたの噂は常々聞いていましたよ。何でも負け知らずだとか」


「そんなことはありませんよ。私などまだ未熟もいいところです」


「私も武の道を歩んでる身として、あなたをお手本にしたいと思っておりますよ」


「そんな滅相もない。ところで陛下は何故このような場所へ?」


リネオスのその問い掛けに対して、オリヴィエは視線を下に向けてしゃがみ、


「……花」


突然そんなことを口にした。
リネオスは始め、何のことかと思ったが、オリヴィエの視線の先を見ると、すぐに理解を示した。


「……この花は、日の光を十分に受けられなかったはずなのに、それでもこうして立派に咲いています」


オリヴィエは一輪だけ咲くその花を優しく触りながら、リネオスに話をする。


「私は、この花が庭いっぱいに咲き誇れるような、そんな世界にしたいです。
リネオスの目指す世界はどんな世界ですか?」


リネオスはそれを聞いて言葉を失ってしまった。


(私が目指す世界……確かに平和な世界にしたいとは考えていた……だが、オリヴィエ陛下は私より先の未来を見ていた……)


まだ幼いながらに自分以上の考えを持つ目の前の人物が、今のリネオスにはとても大きく見えていた。
そんなリネオスを心配そうに見つめるオリヴィエ。その視線に気付いたリネオスは、慌てて答えた。


「ああ……すみません。私もオリヴィエ陛下の望むような世界にしたいです」

(この方は近い将来、必ず必要とされるだろう。そして私はこの方を必ず守り抜かなければ)


リネオスはオリヴィエが将来必要とされる存在であると確信し、自分自身の任の重さを胸の奥に秘め、守り抜くことを誓った。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ