魔法少女リリカルなのはViVid〜時を越える願い〜

□〜アスティオン〜
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聖王教会の庭でデバイスを構えたシャンテは、笑いながら同じく身構えるヴィヴィオを見据えていた。


「じゃあここはひとつ、陛下の右側から攻めちゃおっかな」


「右側――ホントかな?」


「ほんとだってばー」


言ってシャンテはトンファーのような双剣をクルッと回して、


「シスターシャンテは素直ないい子!嘘なんて――」


そう言った次の瞬間には、すでにヴィヴィオの『背後』に回って剣を振りかぶっていた。


(たまにしかつかないよ)


それから悪い笑顔で右の剣を横凪ぎに振るった。しかし、それをヴィヴィオはまったく見ずに頭を下げて躱した。


(あれ?)


(〜あッ)


そしてヴィヴィオが振り向きながら距離を取る。


「あ……危なーいッッ!すごいシャンテ!ほんとに見えなかったッ!」


(初見のアレを避けちゃったよ、この子は)


「シャンテごめん。デバイスセットしていい?」


「ああ、ごめん。どーぞどーぞ」


(偶然タイミングが合っただけ――?できればそうであってほしいけど)


「セイクリッドハート、コンタクトモード・セットアップ」


それからシャンテに対応するため、ヴィヴィオはクリスをセットしたが、大人モードにもバリアジャケットにもならず、ぱっと見では何の変化もなかった。


「オッケー。おまたせ」


しかしヴィヴィオはそれで再び構えて軽くステップを踏む。


「え?それでいいの?何か変わった?」


「見えないところが変わってるの。大丈夫だよー」


「そうなんだ?んじゃまあ、遠慮無く――どーんっ!」


それを聞いたシャンテは、再び構えたかと思うと、すぐに動きだし高速で左右にステップを踏んで撹乱しまた背後を取る。


「アクセル――」


しかし今度はヴィヴィオも反応して振り返り、シャンテの振るった剣に自分の拳をぶつけた。


「スマッシュ!」


ぶつかった反動で2人は再び距離を開け構える。


(凄い凄い!どうやって移動してるかホントに見えない――!)


(見えてないだろうに撃ってきた――ていうか、素手で思いっきり刃面をブン殴ったよこの子は!)

「陛下、ちょこっと撃ち合おうか?」


「いいよ!ガンガンいこー!」


それからヴィヴィオとシャンテは、拳打、蹴打と剣をぶつけ合いながら互いに撃ち合いを始めた。


(なるほどそーか。陛下のデバイス……あのうさ吉が頑張ってるんだ。防衛特化の補助制御型。全リソースを防御のサポートに集中してる。言ってみれば全身に防具をつけてるようなもんだ。だから刃物相手にも全力で撃ち込めるって事か)


撃ち合いながら観察を終えたシャンテは、一度ヴィヴィオから距離を取った。


「うん……陛下にぴったりの優しい機体(こ)なんだね」


「……??」


「だけどごめん。ちょっと心配なことがあるんだ。試しに撃ち込むから反撃しないで防御してみて?」


「あ……うん……」


了承を得たシャンテは、それで今まで出していなかったプレッシャーを放ち構えた。


「双輪剣舞――」


その瞬間、ヴィヴィオはこの攻防の結末が先に見えてしまった。自らが防御の上から斬り落とされるという結末が。
それをシャンテはわかったらしく、構えを解きつつデバイスをしまう。


「ああ、さすが陛下だ。撃ち込むまでもなく見えた?」


「防御の上から斬り落とされちゃった」


「このへんにしとこ。怪我させずに済んで良かった」


「うん……ありがと、シャンテ」


「実際、陛下においたしたりすると双子がうるさいから……はいぃーっ!?」


手合わせを終わらせたタイミングでシャンテがそう言った瞬間、誰かのバインドによって身動きを封じられた。


「シャンテ。僕ら護衛役に話も通さずに」


「こんな場所で陛下に斬りかかるとはいい度胸ですね?」


現われたのは、たった今話していた双子、オットーとディードで、2人はシャンテに恐ろしい顔を向けてそう話し掛けた。


「いや待って待って!」


「違うの!わたしが誘ったの!」


「全く陛下はお優しい」


「ですがそれとこれとは話が別です」


「陛下はイクス様へのお見舞いでいらしたのでしょう?その前に怪我でもされたらどうするおつもりですか」


「うう……はい……」


「練習や手合わせをするなとは言いませんが、ちゃんとした場所でやってもらわないと困ります」


2人に説教を受けるヴィヴィオはしゅんとなって反省。ディードにいたっては平然と話しながら手足を縛ったシャンテを木に吊し上げていた。


「ディードッ!言ってる事とやってる事のギャップッ!!」


「さ、参りますよ陛下」


「あ、うん……シャンテごめん。また後で!」


「はぁい!イクスによろしくねー」


それからオットーと一緒にイクスのお見舞いに行ったヴィヴィオを見送りながら、ディードがシャンテに質問する。


「どういうつもりです?」


「どういうつもりもなにも、『危ないよ』って教えようとしただけだよ」


ディードの質問に対して、シャンテは即答する。


「前々から思ってた陛下の資質。ああ、メアリスもかな。あの子達の体と魔力資質は『格闘型に向いてない』って事。陛下の魔力資質は高速並列運用型でしょ?メアリスだって緻密制御型。防御も攻撃も絶対値は決して高くない。タイプとしては陛下は学者型、メアリスは医者型なんだよ。戦闘魔導師になるにしても中後衛型とサポート型だ。あのうさ吉……補助デバイスもちゃんと機能しきれてないっぽいし。夢見て試合に出た陛下やメアリスが、武器の差で負けて叩きのめされるのなんて見たくないよ。こう見えてあたし結構陛下とメアリスの事好きなんだよ?かわいいし、優しいしさ」


「知ってますよ。ですが、陛下もメアリスも聡い子です。ご自分の資質は他の誰よりご存知ですよ。それに陛下の師匠はわたしの姉で、メアリスの師匠は和人さんです。陛下とメアリスが進むべき道をきっと示してくれる。セイクリッドハートとサイレントブリーズだって、高町一尉や周りの皆さんが贈った機体なんです。これからもっと立派になっていきますよ。つまりあなたがしようとしたのは、『余計なお世話』なわけですね」


「それはわかったけど、あたしはいつまでこうされてるのかな?」



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