魔法少女リリカルなのは〜魔の探求者〜

□STAGE04
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世も今シーズン初の少し長い連休が明けたある日。
あの海鳴市住宅街を襲った謎の巨大植物の正体も世間ではあやふやなまま、それ以降オレはジュエルシードとの接触ができずにいた。
理由としては一つ。駆けつける前に事が済んでしまったから。

まずなのはの友達の家の庭に出現したジュエルシードは、偶然その家にいたなのはとユーノが迅速に対応したため。その時に別の魔導師も現れてジュエルシードを封印して持ち去ってしまったとのこと。

次は海鳴市でも中心地から少し離れた温泉旅館の近くでの出現。これもたまたま連休を利用して近くを訪れていたなのはとユーノが対応したのだが、あの二人はどうやら天然のジュエルシードホイホイらしい。
しかしそこでも同じ魔導師が現れてジュエルシードの奪い合いを繰り広げ敗北。またもジュエルシードを持っていかれたとか。

そしてその魔導師は自らを『フェイト・テスタロッサ』と名乗って立ち去ったらしい。
年端はなのはと同じくらいで、漆黒のバリアジャケットとマントに金髪のツインテールと赤い瞳。デバイスは黒のフレームに金色のコアを付けた戦斧『バルディッシュ』。
それから人型に変身できる狼の使い魔もいるらしく、魔導師としての実力は圧倒的なもので、なのはも二度の完敗を喫している。
そんな思わぬ強敵の出現になのはとユーノは困惑。その行動理由も今のところ判明していないため、遭遇した際にはまた衝突することになるのは目に見えていた。

そんな最近の出来事を聞かされたオレは、そのフェイト・テスタロッサという少女に何か引っ掛かるものを感じながら、昼休みの屋上で1人空を眺めながら新たな魔法のシミュレーションを脳内でしていた。

そこに屋上へとやって来たのは、なのはの親友だったはずのアリサとすずか。
2人は迷いない足取りでオレの目の前まで来たので、明らかにオレに用があるらしく、それを察して空から2人に視線を向けると、アリサはなんだか少し怒ってる風で、すずかは心配そうな風の表情をしていた。


「オレには関わるなって言ったと思うんだけど?」


「ちょっと聞きたいことがあるだけよ!」


「アリサちゃん、それは人に尋ねる態度じゃないよ」


両手を腰に当てて偉そうにするアリサに、すずかがすぐに指摘するが、アリサはその態度を改めないのでオレも別段気にせずにさっさと立ち去ってくれるならとそれを聞くことにした。
以前なのはとこの2人には学校では話しかけたりしない方がいいと忠告をしている。現に今まではなのはですら学校ではオレに話しかけてこなかったのだが、その忠告を無視してコンタクトしてきたからには、それなりの理由があるのだろう。


「……あんた、なのはが何に悩んでるか知ってるんじゃない?」


「…………はっ?」


「アリサちゃん! いきなりじゃ和人さんもわからないよ。ちゃんと順を追って説明しないと」


いきなりの質問にオレが本気でわからないといった顔をすると、すずかが慌てて間に入ってオレに丁寧な説明を始めて、それをアリサは腕組みしながら待っていた。

話によると、なのはがここ数日ずっと何かを悩み続けていて、それを自分達に相談すらしてくれないということらしく、何もわからない2人はそれでも何かしてあげられないかとオレにまでこうして訪ねてきた。ということだ。


「……なのはが自分から話さないんだろう? だったらオレが知るわけないだろう」


「……ですよね……」


すずかの説明を聞いた上で先ほどのアリサへの答えはこうだ。それにはすずかも予測していたのかそう漏らし、アリサもガックリ。おそらくあまり期待はしてなかったんだろうが、それでも聞きに来たこの子達が、どれほどなのはを心配しているのかを嫌でも理解してしまった。

正直なところ、なのはが思い詰めてることには心当たりがあった。
おそらくはフェイト・テスタロッサについて。
彼女と出会ってからのなのはは、話を聞く限りではまだ『敵と断定していない』。それどころか話が出来ないかと対話を試みている最中。だから今、なのはの頭の中からフェイト・テスタロッサのことが抜けないのだろう。それこそ日常生活で思い悩んでしまうほどに。
しかしそれを察したからといって、オレがここで2人にどうこう言うべきことではない。なのは自身がそれを言わないのなら、オレがそれを周りにとやかく言う資格はない。


「…………わかったわ。用はそれだけだから」


「アリサちゃん! あの、ごめんなさい和人さん。アリサちゃんも何とかしたいって必死でそれで……」


「気にしてないよ。すずかちゃんは2人の緩衝材みたいな役割っぽいけど、きっとすぐに元通りになるさ。それが親友なんだろ?」


アリサの態度にすずかが代わりに謝ってきたが、あれがアリサの性格ゆえなのは前回のでなんとなくわかっていたので気にしていなかったのだが、アリサにまで気を遣うすずかもアリサと同じくらいなのはを心配しているのは違いないのでそう言ってやると、すずかは少し驚いた顔をしたあと、優しい笑顔でお辞儀をしてからアリサを追って屋上をあとにしていった。
オレには親友と呼べるやつはいないから、今の2人のように親身になって誰かのために動くなんてことはしたことがないし、そういった感情についてもぶっちゃけわからない。
いや……昔、誰かにそんな感情を抱いたことがあった気がするが、それがどこの誰で歳下なのか歳上なのか、果ては男なのか女なのかすら定かではない。
そもそもその感情が本当にあったかどうかもオレの記憶では曖昧だから、それはもう考えるだけ無駄だろうとそこで思考を切ったオレは、来客前に考えていた新魔法のシミュレーションに戻っていったのだった。

それから放課後は一度帰宅してからなのは達とジュエルシード探しのため市街地へと足を運んでみると、待ち合わせていたなのはは昼休みにすずかが言っていた通り、いつもより元気がなくてどこか集中力に欠けていた。
こんな状態で大丈夫か? とは思ったが、本人が何も言わないならオレも口を出すつもりはない。何か起きてもオレが何とかすればいいだけだからな。
そう思いながらここ数日間でデバイスのサイクロンを手に馴染ませたオレは、色々と出来ることが増えた自分自身の力を疑うことはなかった。



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