魔法少女リリカルなのは〜魔の探求者〜

□STAGE00
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4月上旬。世間一般では新シーズンが始まったこの頃。海鳴市内の私立聖祥大附属小学校に通うオレ、霧島和人(きりしまかずと)も例に漏れず4年生に進級。今日は恒例の始業式を終えて、特別誰かとつるむこともせずに下校していた。

しかし、10歳ですでにほぼ1人暮らしをしているオレは、家に帰ったところで暇すぎて掃除などを始めかねない。
6歳の頃に両親を事故で亡くしてからは、唯一生きている親族、父方の祖父に育てられたが、その祖父も去年からフラフラと流浪の旅に出てしまっていた。
孫を放って何してるのかと問い正したいが、それで困ることも特になかったからもう気にしてない。今はたまに帰ってきては何日か滞在してまたどこかへ行く始末だ。

そんなわけでまだ陽が高い昼のうちに家に帰るのもどうかなと思ったオレは、ここ海鳴市の自慢の一つでもある海が隣接しそれを一望できる公園に来ていた。
海を眺められるベンチに腰を下ろして小腹を満たすために買ったたいやきを頬張りつつ、オレは何かするでもなくただ目の前に広がる空と海の景色を眺めてのんびりと時間を使っていた。

そういや最近、何かに打ち込んだりしてないなぁ。最後に打ち込んだのは確か……卓球だったか。あれも一番強いって話だった部活の奴倒しちまったから一気に冷めたし、負けた奴らみんな張り合おうって気もないから余計つまらないんだよなぁ。
スポーツとかは自分との戦いとも言うけど、記録なんかに興味ないから、張り合う相手がいないとホントに面白くないし、強くなったりしても虚しいだけだ。

そんなオレは今までにサッカー、野球、バスケ、テニスなどのスポーツから、将棋やチェスなどのボードゲーム、多種多様なものをやってきた。しかしそのどれも真剣にやればやるほど、周りがついてこれなくなって、気が付けば飽きてしまっているのだ。

それでも飽きずにずっとやっていることもある。あのくそじじいに勝ちたいっていう意地でな。

などとどうでもいいようなことを考えていたら、30分ほどの時間が経っていて、お昼時になったからかひとけもなくなり、時折吹く風が心地よい静かな公園となっていた。こういうのは嫌いじゃないな。

そうして風を肌で感じていると、その風に乗って、チリッと何かの気配を肌で感じた。物心ついた頃からたまにこの感覚を覚えるのだが、なんだか良くない感じがして今まで無視していた。しかし、今日はそんな感覚にも好奇心が湧き、導かれるようにそのチリッとする感覚の方に向かっていった。

この選択が、今のオレの世界を180度変えることになるとも知らずに……。




辿り着いたのは、公園内の森林区画の道を少し外れた茂みの先。その少し開けた空間に、信じがたいものがあった。
黒い亀裂のようなもの。そう表現するしかないであろうそれは、地上1メートルくらいの高さにあり、亀裂の向こうは黒い宇宙のような景色が見えていた。
不用意に近付きたくはなかったオレは、亀裂から5メートルほど離れた位置から手ごろな小石を拾いそこに投げ入れてみた。

バチンッ!

小石が当たった瞬間、亀裂はそんな音を立てたかと思うと、急に周りのものを吸い込み始めた。その力は強く、オレが踏ん張っても耐えられそうになかった。だからすぐに近くの木に掴まろうとしたが、掴もうとする手は虚しく空を切り、オレはその亀裂の中に吸い込まれてしまったのだった。








「……う……んん……ん……」


意識を失っていたのであろうオレは、妙に寝心地が良いところで寝ていて、寝ぼけながらも上半身を起こして今自分がいる場所を確認するため周りを見回す。どうやらここは医務室のようなところらしく、近未来的な不思議な造りをしていて、オレはそこのベッドに寝ていた。
そうして状況を飲み込めずにいたオレのところに、医務室の自動扉を開けて入ってきた人物がいた。


「あら、起きたのね。おはよう」


「あ、おはようございます……」


入ってきたのは水色の髪をポニーテールにした大人の女性の人で、どこか警察を彷彿とさせるビシッとした制服を着ていた。
女性は入ってくるなりオレの傍にあった椅子に腰掛けて、机に置いてあったオレの荷物から生徒手帳を取り出し話を始めた。


「えーと、霧島和人君よね。読み方が合っていればだけど」


「あ、はい。間違いないです。あとふりがな振ってありますが、もしかして外国の方ですか?」


「そうねぇ。外国、といえば確かに間違いではないけど、君が言うところの外国とはちょっと違うかもしれないわね」


ん? どういう意味だそれ? まさか異世界人とか言い出したりしないよな。SFじゃあるまいし。


「とりあえずまずはお話でも聞かせてもらおうかな。私はリンディ・ハラオウン。この艦船アースラの艦長をしています。それであなたはどこから来て、何故あんな場所にいたのかしら?」


「……あの、話をするも何も、僕にもよくわからないのですが……」


「あらあら、それは困ったわね。そうなると君が今ここにいる経緯から話さないとかしらね。エイミィ、ちょっといいかしら?」


リンディさんはそう言って空中をタッチする動作を見せると、その後すぐにそこからモニターが出現して、元気そうな女性が映っていた。ど、どんな仕組みなんだあれ?


『はい、艦長! 全然大丈夫ですよー! 私エイミィ・リミエッタ。よろしくねー!』


「え、あ、はい、霧島和人、です。よろしくお願い……します」


ヤバい。状況が益々わからなくなってきた。


「エイミィ。まずはこの子に事の経緯を説明してあげて。あとクロノ執務官をこっちに寄越して」


『クロノくんなら今そっちに行きましたよー。それでえっと、事の経緯ですね。その子は私達管理局もよく分かってないところを見ると、一から話さないとですかねぇ』


「そうみたいねぇ。そうなると管理外世界の住人である可能性が高いわ。混乱しないように順を追って話をしてあげて」


いや、もうすでにパンクしかけてますがね。



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