特別小説

□正月の一幕
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正月のある日の夜。第三男子寮・猿飛京夜の部屋リビング〜inこたつ〜




京「あ〜、こたつ最強」


理「こたつは日本が発明した究極の人間堕落兵器だからね〜。はむ」


鳥「よく言いますよね。こたつには魔物が住んでいる! って」


ジャ「確かにこのぬくぬくとした温かさは一度入ってしまうと出がたいものになるな」


理「これで頭だけ外に出して入っちゃったら『亀』って言うんだよ。りこりん死ぬほどダルい時はよくなるし。はふ」


京「ウチは幸姉がほぼ毎日そうなってたな。んでそのまま寝るから質が悪い」


鳥「こたつで寝ると風邪引くっていいますからね」


ジャ「ときに理子。お前が今着ているその厚手の毛布のような上着は何だ?」


理「ふっふーん。これは羽織だよジャンヌぅ。これとこたつは昔からセットなのだよ。あむ」


鳥「なんとなく日本人のイメージとして定着してますよね、それ」


京「しかし実際やってるやつ見ることはあんまないよな。というか羽織は昔は男しか着れなかった物だし」


理「どゆこと? んく」


京「イメージとしてはあれだ。戦国武将が鎧と一緒に着てる陣羽織。昔から防寒着として着てたらしいけど、それが便利だからって日常で使うようになってったとか」


ジャ「ふむ、それほどの歴史ある着衣を今も利用する日本人は凄いな。しかし猿飛。何故そのようなことを知っているのだ?」


京「お前、オレの先祖知ってんだろ。戦国時代の名将を支えた一族ナメんなよ」


鳥「さすが京夜先輩です! 私そんなこと全く知りませんから」


理「ことりん、そこは堂々言うことでもないよ? はむ」


鳥「あっ、そうですよね……」


京「気にすることでもないだろ。それより理子、さっきから手がみかん一直線過ぎないか? 補充してるのが小鳥なのわかってるよな」


理「そんなのわかってるよキョーやん。ことりんには感謝感激ですよぉ。んむ」


ジャ「そういえばこたつにみかんというのは日本の風習と聞くが、猿飛、これの由来はなんだ?」


京「理子はみかんをヘタじゃない方から剥くんだな」


理「みんなそうじゃないの? 剥きやすいし」


ジャ「おい猿飛。私の質問に答えろ」


京「いや、オレはヘタの方から剥くから。やっぱみんなそうなんだな。幸姉も幸帆も弟もそうなんだよ」


鳥「え? 私はこうやって切り口を入れてリンゴの皮剥きみたいに横から剥くんですけど、変なのでしょうか……」


京「いや、それは確かみかんの綺麗な剥き方じゃなかったか? 身近では眞弓さんがその剥き方だったな」


理「なになに? その剥き方って親に教えてもらったとか?」


鳥「あ、はい。お母さんがこうやって剥いてるのを真似してやってましたね。ずっとこれが普通だと思ってました」


ジャ「待て。何故私は居ないが如くスルーされているのだ。非常に不快だ」


理「ジャンヌぅ。こたつにみかんの理由を聞くのは野暮ってものだよ〜。そんなの女の子が出掛ける前に化粧する理由を聞くが如くだよ」


京「理子にしてはわかりやすい例えだ」


鳥「何気に失礼ですね……」


ジャ「いやだが……やはり……」


鳥「あ、じゃあ健康面で意見してもいいですか? 冬は空気が乾燥して適度な水分補給を必要としますよね? その点でみかんは水分補給とたくさんのビタミン摂取を一度に可能とするんですね。加えて果肉は食べられる皮に覆われていて外皮を剥いたあと乾燥した場所に少しくらい放置しても大丈夫だからではないかと。リンゴとかでは塩水に浸してもそれほどもちませんしね」


理「すげぇ。ことりんうんちくの説得力パネーっす」


ジャ「む、言われてみるとそんな気がしてくるな。なるほど、こたつにみかんは意外と理に叶った形ということか」


京「それよりさっきからジャンヌさんはそのみかんを手につけてないが、理由は?」


ジャ「それなのだが、どうにも私はみかんを綺麗に剥けんのだ。剥いても途中で皮が切れて無惨な姿になる」


京「ああ、皮と果肉がガッチリしてるとよくあるな。そういう時オレは剥く前にみかんを軽く揉んだりテーブルとかで上から手で押さえながら転がすんだが」


理「やだキョーやん。揉むとか転がすとか、欲求不満なの?」


京「お前の頭はどうやら正月ボケしたらしいな。よし、外行け外。そのお花畑な頭を治してこい」


理「いや〜ん。キョーやんりこりんが寒いの苦手なの知っててそーゆーこと言うんだぁ。ど、え、す」


京「次ふざけたらマジで締め出すからな。んじゃジャンヌのはオレが剥いてやる。正月くらいチームメイトに優しくしてもいいだろ」


ジャ「な!? そんな不要だ! 私は自分で剥く……ああ!」


鳥「ジャンヌ先輩、慌てすぎで皮が残念なことに……」


京「別に一つ剥くのも二つ剥くのも大差ないんだから遠慮するな。ほれ、剥けた」


ジャ「しかし……うーん……くそ、今回はお言葉に甘えさせてもらう。ありがとう猿飛」


理「こらそこ! 二人で甘々空間を構築するな! りこりんもキョーやんの剥いてくれたみかんが食べたい〜」


京「ほれ行くぞ理子。口開けろ」


理「わっ! ほっ、はむ! って、投げ入れて欲しいんじゃないし!」


鳥「でも咄嗟に投げられてちゃんと口に入れる辺り、さすが理子先輩ですね。私ならテンパって無理ですから」


理「ま、まぁりこりんは何をやっても天才的ですからねぇ。ことりんも精進したまえ」


京「単純なやつ……って、ジャンヌさんや。何をしてらっしゃる」


ジャ「む? みかんのスジを取っているのだ。食べにくかろう?」


京「バカなことを……」


理「へっ? りこりんも煩わしくないなら可能な限り取り除くけど……」


鳥「あ、私もうにょうにょ出てるスジは取り除きますね」


京「揃いも揃ってアホか。いいか? みかんのスジには豊富な食物繊維が含まれていて、言ってしまえば果肉より摂取すべき物だ」


ジャ「いや、そうは言うが、やはり食感は果肉の邪魔になるだろう」


京「なら女性視点で語ろう。スジには美容成分が含まれているから、美肌作りには最適な物である」


鳥「こ、このみかんは私の物です!」


理「なにおぅ! これとこれとこのみかんはりこりんが独占〜」


ジャ「早くしろ(フォロー・ミー)猿飛。次を剥け。これでは全然足りんぞ!」


京「……そうやって正月太りの女性は増えていくんだな……ボソッ」


理・ジャ・鳥「「「あ……」」」



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