緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

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色々あった初登校からはや1週間。たったの1週間と片付けるには少々濃いものではあったが、そこは少し割愛。
この1週間ではまず、幸姉の『七変化』は『ちょっと変な人』程度の認識しかされず、それのせいで他の生徒から距離を置かれたりといったことはなく、幸姉もごくごく自然に接することができて安心したのだが、オレの方はと言えば、入学初日から1年男子から大人気の愛菜さんご指名で『弟』にされ、自己紹介の好きな人宣言で愛菜さんと幸姉から告白――決して付き合いたいとかのではなく――され、あまつそのあと行われた担任の古館先生による突発的なゲーム『鬼ごっこ』によってクラスの強襲科ほか前線系の男子をほぼ全員撃破。男子からの好感度は最悪のスタートを切り、以降の学科別の授業でも距離を置かれてしまう。オレとしてはそこまで仲良くする気もないから気楽ではある。が、


「ほんでな、そん時の強盗犯もまさか人質に武偵がおるなんてって顔しよるから、それがおもろくて思わず笑ってもうてん」


「あれはなかったで愛菜。あたしがちゃんとやっとらんかったら1発もろてたかもしれんねんで? 感謝しや?」


「何言うてんの? あの日千雨がちゃんとその刀腰にぶら下げとったら、強盗かて実行せえへんかったっちゅう話やん。何のための得物やねんてな」


「まぁいいじゃないの。2人ともそれで無事だったわけだし、犯人だって捕まえたんでしょ」


そうやっていつものように教室で幸姉、愛菜さん、千雨さんが楽しそうに昔の話をする中で、オレはといえば、その話をする愛菜さんの目の前の椅子に座らされて、愛菜さんが机の上に座った状態から両腕をオレの後ろから回して頭を優しく包み込まれて撫でられていた。
これはもう毎日愛菜さんが定位置とばかりにこの状態を維持するので、オレも3日目くらいから抵抗を諦めてされるがままが続いていた。離れようとすると「京ちゃんは私が嫌いやねんな?」と涙ぐむのはズルすぎる。


「そういえば京夜も去年、祇園祭でハメ外しすぎた連中を一網打尽にして警備に受け渡してたっけ」


「あれは幸姉が煽って怒らせたのが原因だろ。今の『男勝り』の性格で」


「あれ? そうだっけ?」


愛菜さん達の中等部時代の武勇伝を聞いていた幸姉は、それでオレの去年の話を掘り返すが、少し事実をぼかしてきたので修正すると、覚えてない風にとぼけてしまう。
今日の幸姉は細かいことを気にしなく、行動が積極的かつ大胆になる『男勝り』。髪もストレートへアからポニーテールに。この幸姉はこういう昔話をさせると、少々話を盛られたりするので困る。


「幸音、小学生の頃の京ちゃんとかメッチャかわえかったやろ!」


「そりゃあね。いっつも私の後ろを幸姉ぇ、幸姉ぇってついてきたわ」


「またそういうこと言う……違う。後ろについてたのはそれが役目だからだし、むしろ幸姉が京夜京夜っていつも言ってたから。いなきゃ寂しいって泣きそうになってたくせに」


「あはは! 幸音はさみしがり屋さんだったんやな! こらエエこと聞いたわ!」


「千雨、そんな事実はないから忘れなさい。京夜も事実をねじ曲げるとはいい度胸ね。帰ったら使用人さん達に『好き勝手券』渡しておくわ」


「事実は事実だよ。たとえ今日の幸姉がやってないところで、別の幸姉がそれをしてたんだから、曲げようのない事実」


「今日の幸音は口は弱いみたいやな。ホンマオモロイ性格やわ」


そんな他愛もない話をしていたら、朝のホームルームのために低血圧の担任、古館先生がやってきて、皆が席に着いてから今日の『先生起こし』の千雨さんが先生の額にデコピンをお見舞いし覚醒させたところでいつものようにホームルームが始まる。


「なんかいつもよりおでこがヒリヒリするんだけど、千雨、ちゃんと手加減してるか?」


「もちろんしてますよ先生。あたしが本気出したら先生ぶっ倒れてまいます」


「デコピンで人を倒せるかアホ。はーい、今日の出席はぁ……まぁ全員いるんじゃね? 全員出席っと」


相変わらずのテキトーな出席を取った古館先生。この1週間でもう先生のことは何となく理解したので、それにツッコむ人もいなく、話もサクッと次に進む。実際は早くも民間の依頼(クエスト)を受けて3人くらいいないのだが。


「んじゃ連絡事項な。武偵高の恒例科目みたいなもんで、4対4戦(カルテット)がもうすぐ行われるから、メンバー集めて申請書提出しろ。1年は必修だから受けれないと単位もらえなくて留年だから、1年多く通いたいとかいうマゾ以外はテキトーでも真剣でもやっとけ」


カルテット? などと思う暇もなく古館先生は教壇に申請書をドンッ!と置いてからホームルームを終わらせて教室からいなくなってしまい、それから教室内はいつものようにワイワイと賑わいだして、中には早々に教壇から申請書を持っていく生徒もいた。


「あの、愛菜さん。カルテットってなんです?」


「ん? ああ、京ちゃんは編入組やから知らんのやね。千雨、申請書持ってきてくれる?」


オレはすぐに隣の席の愛菜さんにカルテットについて聞くと、愛菜さんは千雨さんに申請書を持ってきてもらって、その申請書を机に置き、幸姉も含めた4人でそれを囲んで話が始まった。


「簡単に言うたら4対4の実践形式のチーム戦。実弾は使わへんで非殺傷弾(ゴムスタン)になる程度のもんやから、ほとんどマジのやり合いになるな」


「対戦形式は教務科が定めたいくつかの特殊ルールを元に行われるらしいから、強襲系ばっかのチームでも情報系チームに勝てへんなんてこともたまにあるらしいで」


「チームパワーよりバランスが大事になるわけですか」


「そうやけど、私らはこれで組んでエエと思うで? 千雨も幸音も問題あらへんやろ?」


「あたしは別にエエで」


「私も異議なーし」


そんな簡単に決めて良かったのか? カルテットの説明を聞いて素直にそう思うオレだったが、すでに愛菜さんが申請書にオレ達の名前と学科を書いていて、その行動の早さに呆れてしまい、結局それで申請書は通ってしまったのだった。

それからこの1週間で判明した事実はまだある。
入学初日に古館先生が千雨さんの自己紹介時に言っていた『ダブラ・デュオ』という通り名的なもの。あれは千雨さんと愛菜さんがそう呼ばれているのだという話で、現にダブラ……武偵用語で2刀流や2丁銃使いを意味する言葉の通り、千雨さんはその腰に2本の刀を携えているし、愛菜さんもスカートの下から時おり見える両腿に2丁の銃――FN ブローニング・ハイパワー――を携えていた。
未だ実力のほどは専門学科での実戦授業でしかお目見えできていないが、それでも男子に全く引けを取らない実力者なのは容易にわかった。武偵ランクも共に強襲科Aランク。2人で協力した時にはSに届くのではないかと風の噂で聞いた。もっとも、2人が中等部時代を大阪の方を中心で過ごしていたために、オレも情報が曖昧で計りきれないところがある。そこら辺を調べるにはネットなどを使うのが早いが、生憎とオレは機械いじりが大の苦手。携帯も持ってはいるが、電話とメールくらいしかまともに使えない。

そんなわけで今日の午後の専門授業は、そのダブラ・デュオの実力を見るために、幸姉とも一緒に警察からの依頼を受けた2人に同行。内容は臓器売買の闇組織が行う取引の阻止と一斉逮捕。



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