緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

□Reload4
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「それじゃ、これから『マッケンジー班』対『薬師寺班』の『救出&脱出』、4対4戦(カルテット)を始めるぞ」


夏目先生のそんな言葉で始まった特別授業、カルテット。
今は校舎裏の車輌科のために作られたサーキット上でオレ達マッケンジー班と薬師寺班とが対面している状態。
これからオレは人質として眞弓さん達の拠点へと移動して拘束されることになり、愛菜さん達も眞弓さん側の人質と一緒に別の拠点へと移動して作戦開始となる。
今回、眞弓さん側の拠点は校舎端にある体育館で、オレ達の拠点が今いる校舎裏の校舎から一番遠くに建てられた車輌科・装備科の専門棟。
強襲科や諜報科・探偵科といった学科は校舎の1階と地下1階に専門の区画が存在し、特別広いスペースが必要になる車輌科や装備科は別個で棟を建てられている。他にSSRの専門棟も存在するが、そちらは秘匿性が高くて基本的にSSRの生徒以外は自由な出入りすらできない。

この対戦は普通に別の生徒が授業中に行われるため、今でも車輌科の生徒がサーキットで車やトラックを運転していたり、校舎からは絶え間なく銃声が聞こえていたりする。そんな中で行われる実践。一応想定では周りへの被害は出さないこととされているが、どうなるかはわからないな。


「雅の幼馴染みかなんか知らんけど、潰す! それで京ちゃんも助ける!」


「まっちゃん、この前のは根に持たんといてや。眞弓は人の名前覚えるんが苦手なだけやから……」


「かまいまへん。そんくらいの気迫で挑んでもらわな、こっちもやりがいがありまへんから」


「愛菜、アイツ絶対泣かすで! そんであたしらの名前を意地でも覚えてもらう!」


それで顔を合わせればすでにヒートアップする愛菜さん達。それをよそ目にオレや早紀さんはヒソヒソと小声で会話。その早紀さんの肩には狙撃銃が担がれていた。やっぱり狙撃か。


「あっちは熱くなっとるけど、マユもあれで悪気はない言うから怖いで」


「名前を覚えるのが苦手っていうのは本当なんですか?」


「さぁ? ミヤの話やとホンマみたいやけど、なんや私は名前を覚えるに値する人を選別しとるようにも思えんねん。現に私の名前もまだ聞いてもらえてへんし」


チームメイトですらそうなのか。
ここに来て物凄いことを聞いてしまったが、うるさくなってきた愛菜さん達が煩わしかったのか、夏目先生がギロッ! と人でも殺せそうな視線をオレ達に向けて黙らせてきたので、それにはみんな沈黙。しかし約1名。空気の読めない輩が。


「君がSSR期待の新星、真田幸音ちゃんか。いやはや、美人すぎて眩しいよ」


「そ、それはどうも、です」


今日に限って無自覚で周囲の男を惹き付ける行動や言動をする『乙女』の幸姉にそんな口説き文句を言っていたのは、眞弓さん側の人質要員の男子。名前は青柳空斗(あおやぎそらと)。装備科の1年で、ランクはB。装備の調達から整備、改造に売買。装備に関してなら何でもござれと優秀ではあるようだが、その依頼人は絶対に『女』でなくてはいけないのと、報酬に『特別料金』なる支払い方法が存在する人でもある。要は女性限定の装備科生徒というのがこの人。

その空斗さんは幸姉にグイグイと迫っていたが、オレが手を出す前に眞弓さんから容赦ない扇子による一撃を受けて気絶。その首根っこを掴まれてオレ達の方に投げられた。


「さっさとそれ連れてってください。どうせ逃げ出せるような実力もありまへんし、期待もしとりまへん。それでそっちの人質はそこのおもろい子でよろしおすか?」


眞弓さんはもうさっさと始めよう的な雰囲気で空斗さんをこちらに引き渡すと、今度はオレを見て薄く笑う。それに促されるようにオレが眞弓さんの側へと足を運ぶと、それで夏目先生が息を1つ吐いてから「散れ。開始は20分後」とだけ言って校舎の方へと行ってしまい、オレ達もそれに続くように移動を開始したのだった。

眞弓さん達の拠点である体育館。そこのステージで背もたれつきのパイプ椅子に座らされたオレは、まず防弾制服の上着を剥ぎ取られ、次に口の中に指を入れられて何も含んでないかを確認され、靴も脱がされて何か仕込めそうな部分を徹底的に調べられた上で体に縄を巻かれ、後ろ手に縄で縛られ、足もパイプ椅子の足に繋がれた。これでオレはこのパイプ椅子と一心同体だな。拘束が半端じゃない。


「相手が諜報科やと、これでも安心できまへんな。それでも抜け出せるようなら、それはそれでウチとしては嬉しい誤算どすけど」


「嬉しい誤算、ですか?」


「今は話すつもりはありまへんから、聞き流してもらうと嬉しおすな」


まぁ、なんにせよこの人はこのカルテットをただの授業として受けてはいない。その辺も探る必要が出てくるのか?
そうこう考えていたらあっという間に開始の時間となり、もうすでに姿のない早紀さんと雅さんは、おそらく迎撃に出ている。ここに今いるのは眞弓さん1人。しかしこの人、柔らかい物腰でありながら、案外隙がない。こちらが不穏な動きをすれば即座に反応しかねないほどに洗礼された集中力だ。こんな人が今まで武偵じゃなかったのなら、いったい何をしていたのか疑問に思うほど。

しかしそんな眞弓さんに躊躇っている場合でもない。ここで愛菜さん達が助けに来るのを待つのも選択肢ではあるが、もしかしたら迎撃されて辿り着けない可能性だってあるし、ここにいる眞弓さんが愛菜さん達より強ければ、倒されてしまうことも考えられる。
今回の勝利条件は『人質を解放して拠点へと帰還させる』か『人質以外の敵を全滅させる』。それから『拘束を解かれた人質が倒されてしまった』場合。人質は拘束を解くまでは倒すことを許可されないが、1度でも解いてしまえばその限りではなくなる。だから今回の人質の拘束をあえて抜けられる手を残して、逃げたところを仕留めるなんて手も考えていたが、眞弓さんはそれでは危ないとでも踏んだのか、ガチガチに拘束をしてきた。それはもう強襲科や探偵科では抜け出せないと悟れるくらいに。

オレもかなりの綱渡りをしたが、なんとかこの拘束を脱出する手を残せた。身ぐるみ剥がされなきゃ相当楽だったんだけど、そんな優しい人でもなかったな。口の中まで調べられたのは予想外だったし。
諜報科に限らないが、諜報などを専門にする武偵の中には、暗器と呼ばれるものを体に仕込む人もいる。その中で有名なのが口内に隠せるカッターやワイヤー。それすら眞弓さんは警戒して調べてきた。生憎とオレは体内にまで何かを常時隠したりはしないので、警戒のしすぎなのだが、それでも眞弓さんの逃がす気はないという意思はヒシヒシと伝わってきた。

とにかく、この残せた手を眞弓さんにバレないように使い、隙を見て逃げる算段までしなくてはならない。しかしそれには眞弓さんの実力が未知数。やはりいくらか情報を引き出さないとダメか。
そんな結論に至ったオレは、拘束状態にある自分の現在の稼働域を確かめながら、扇子を扇ぐ眞弓さんをまっすぐに捉えて話を振ってみる。反応してくれよ……。



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