緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

□Reload5
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あの衝撃のカルテットから早くも2ヶ月以上が経過。
5月には日本で最大の武偵高、東京武偵高で『アドシアード』とか言う武偵のオリンピックのような大会が大々的に開催されて、それには強襲科の中でもトップクラスの銃の腕を持つ愛菜さんが拳銃射撃競技(ガンシューティング)の代表に選ばれたが、「東京なんか行ったら京ちゃんと離ればなれになってまう!」とわけのわからない理由で辞退。それに対して担任の古館先生がバカ笑いしたのは今でも鮮明に覚えている。

それからカルテットの1件以来、1年の中でも頭1つ抜けている実力者、衛生武偵、薬師寺眞弓さんに気に入られてしまったようで、週に1度くらいの頻度で幸姉も同行するという条件の下、一緒に依頼をこなしたりしていた。その中には雅さんと早紀さんもいたりいなかったりがあったが、愛菜さんと千雨さんは1度として同行を許されていなく、依然として眞弓さんとダブラ・デュオの仲は険悪だったりする。

幸姉も5月には専門のSSRと同時履修で強襲科の授業にも出るようになり、今はその右腿に帯銃――H&K P2000――もしている。腕も愛菜さんが仕込んだおかげでなかなか様になっている。千雨さんにも刀剣術を学んでいて、次のランク考査では最低でもBは取れるとの評価だとか。幸姉は昔からやればできないことはほとんどなかったからな。

そしてオレは京都武偵高の1年の中でも台頭してきた眞弓さんや愛菜さん達といつも一緒にいるということで注目を集め、さらには愛菜さんをアイドルのように崇める男子生徒からは毎日その恨みやら妬みやらの念を送られ続けるという精神的に若干参ることが起こっている。いつかその恨み妬みが爆発しそうで怖いところ。

そんなわけで今日も男子諸君から暑苦しい視線を受けていた6月31日の朝最初のホームルームの時間。いつものように低血圧ゆえに覚醒しきってない担任の古館先生を叩き起こして始まったのは、夏休みの話。
京都武偵高の夏休みは圧倒的に早い7月1日からのスタート。他の武偵高も一般高校よりずいぶん早いのだが、京都武偵高がそれより早いのには訳がある。
京都市東山では毎年7月から1ヶ月に渡って行われる日本3大祭にも数えられる『祇園祭』が開催され、多くの人で賑わいを見せる。しかしその一方で揉め事も年々増加し、最悪なのは銃などが出てくる大騒動にまで発展するケースが発生したこと。
それを受けて京都武偵高では毎年祇園祭の開始から夏休みとして、その警護の任を引き受けているというわけだ。これは京都武偵高生全員の評価で連帯責任となるため、何か問題が起きれば2学期からの授業が地獄と化すので、こればかりは皆協力体制を惜しまなかったりするらしい。何より歴史ある祭事。参加者運営者問わず、全員が楽しかったと思える祭りにできるならそれが一番だろう。


「それじゃあ明日から始まる祇園祭の警備シフトをスパァン! と決めていくぞ! 1年A組の担当する日付は7日と16日と25日。何か問題起こったら日付でどのクラスがしくじったか丸わかりだから肝に命じとけよ。というかしくじったら担任も減給されるから手を抜いたら全員2学期の依頼報酬なしで受けてもらうから」


それは死ねる。普段装備の消費がほとんどないオレはまだしも、毎回銃弾を消費する愛菜さんや幸姉なんかは補充もままならなくなる。つまりこれは暗に依頼を受けられなくすることで、『2学期単位不足で落第したくなかったら死ぬ気でやれ』ということ。
それがわからないオレ達ではなかったので、古館先生の減給はともかくとしても、依頼完遂はみんな誓った。

そのあと古館先生は教室の隅へと移動して警備の詳しい内容決めをオレ達に任せて、自分は拳銃――グロック19――の分解整備を始めてしまった。ちなみにもうすぐ終業式が体育館で行われるが、例によってフケるらしい。というよりここではそういった習わしなどは基本無視する傾向にあるらしく、古館先生や夏目先生他、多くの先生が「そんなのに出てる暇があるなら別のことをする方が利口」と謳っているとか。それはそうなのだが、これはこれで校長とかが涙目だろう。


「それじゃあ決めてくから、文句あったら挙手頼むよ」


そんなこともお構いなしに先生の退けた教壇にパッパと上がった愛菜さんが仕切ってクラス会議が始まる。リーダーシップという意味では愛菜さんはそれなりに高い資質を持っていると思う。みんなからの信頼もあるしな。


「まぁ言うても間空いての3日やし、みんな1日くらいどうってことないやろ。やからブロック分けして分担した警備でエエと思うねんけど、異論はある?」


確かに依頼の中には何日も動き回る内容のものもいくつかあるし、1日警備するくらいは問題はないよな。みんな愛菜さんの意見に賛同してそこはあっさりと決まる。


「それで編成やけど、とりあえず私と京ちゃんは同じチームとして……」


しかし次のチーム編成で当然のごとくサラッと流すようにそう言った愛菜さんにほぼ全員が「なんでやねん!」とツッコむ。さすがは関西、なのか?


「愛菜、さすがにそれは無理あんで」


「なんでや? 私はみんなに疑問しか持てんねんけど」


「あのなぁ……このクラスに何人Aランクおるかわかっとるか? 現状でたった7人や。あたしや愛菜、京ちゃんが分かれるんは当然の流れやろ」


何故か頬を膨らませてブーブー言う愛菜さんに千雨さんは呆れ気味にそう諭す。確かに戦力は均等に分けた方がいい。それがわからない愛菜さんでもないのだが、ここではちょっと頑固になっていた。そうまでしてオレと同じチームがいいのか。愛菜さんのこだわりはよくわからないな。

それで愛菜さんと千雨さんの言い合いが始まってしまい、教室内は会議どころではなくなってきたのだが、それに待ったをかけたのは、オレのご主人様である幸姉。
幸姉は自分の机をバン! と叩いてから、席を立って静まった教室内を歩き、愛菜さんの横まで来ると、ニコッと笑顔を向けてから鼻を摘まんで引っ張って教壇から退け自分が教壇に立つ。


「我を通すのは結構だけど、それがメリットを生むかどうかをきちんと考えなさい。愛菜と京夜が固まってもバランスが崩れるだけ。そこに異議のある人はいる?」


いつもとは違い後ろの髪を半ばほどでまとめた幸姉は、キリッと目を鋭くして教壇に両手をついて全員を問いかけると、愛菜さん以外はそれに異議なし。


「ちょう待ってや幸音! 私は京ちゃんとおらんとステータス50%ダウンやで? それでもエエんか!」


「あなた、今だって土日は京夜と会えてないんだから問題ないでしょ。そんなの気持ちの問題。そんな下らない理由でステータスダウンしたら、わかってるわよね?」


ギロッ! まさに目力と呼ぶに相応しい視線で愛菜さんを見た幸姉は、何も言い返せなくなり萎縮した愛菜さんを席に戻すと、話を再開させた。容赦ねぇ……
そんな今日の幸姉は、超効率主義で真面目さでは右に出る者がいなくなるくらいの『真面目』。今のようにグダグダになることを特に嫌うところがあり、物事をより良い方向へと持っていく。ちなみに静かな空間を好むため、うるさい空間をこの上なく嫌う。

その真面目な幸姉にかかれば、この会議もあっという間に終了。クラスメートの学科やランクを考慮した実にバランスの良いチーム編成をして、それでいて生徒間の相性も意見を参考に配慮していた。もちろん愛菜さんのオレと同じチーム案は即却下されていたが。
それで1時間もしない内に会議も終了。銃の整備をしていた古館先生も予想より早く終わったからか、少し遅れて整備を終えて再び教壇に立つと「単位不足者は教務科の掲示板に貼り出すから確認しとくように」と言い残して教室を出ていってしまい、この日の授業はそれで終わってしまった。



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