緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

□Reload6
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6月31日。明日から夏休みというこの日にオレこと猿飛京夜は、なんだかよくわからない思惑やら何やらで半ば強制的に同じ武偵でクラスメートの愛菜さんの家に泊まりでお邪魔していた。

現在時刻は午後6時を少し回った頃。愛菜さん手作りの夕食をご馳走になるところで、準備でも手伝おうとしたのだが、何もしなくていいと言われてしまい呆然と待つこと数分。やっと全ての盛り付けを終えた愛菜さんに呼ばれてダイニングテーブルに着くと、そこには主食、ミートスパゲッティ。おかずにグラタン。主菜でポテトサラダとレタス、トマトの盛り合わせ。スープにはコーンポタージュとあまりにも豪勢な食べ物が置かれていた。これ、2人で食べるには多い気がするんだが。
思いつつウキウキしながらエプロンを新たに身に付けた愛菜さんが向かいの椅子に座るのを見ると、その張り切り様が目に見えるようでそんなことを言えなく、早く座って目で訴える愛菜さんに押されて椅子へと座ると、2人揃って両手を合わせていただきますの号令。それから頼んでもいないのに小皿にグラタンをよそって渡してくれた愛菜さんにお礼を言いつつまずはミートスパゲッティに口をつける。
味のほどは普通に美味しかった。それでまだ口をつけずにこちらの様子をニコニコとうかがう愛菜さんが視界に入ったので、なんとなく感想を求められてることはわかったので、1度口の中を空けてからその要望に応えた。


「美味しいですよ。とっても」


「ホンマに? 手料理を他人に食べてもらうなんて家族と千雨以外には経験なくて心配やってん。千雨は食えれば何でも腹に入れてまう子やから参考にならへんくて」


「千雨さんって豪快な性格ですからね。でもこの腕ならいつでもお嫁に行けると思います」


「イヤやわ京ちゃん、お嫁さんやなんて恥ずかしいわ。褒めてもキスくらいしかできへんよ?」


いやいや、キスできるのも困りものですけど。
そんな言葉に苦笑しつつ、本気の照れを見せる愛菜さんを見てると、誤魔化すように他の料理にも手をつけるように言ってきて、オレが再び料理に手をつけたのを見て、愛菜さんもようやく料理に手をつけ始めた。


「そういえば愛菜さんのご両親ってどうしてるんです? 今は気配からして家にはいませんよね?」


食事も少し進んでから、話題をと思いそんな切り出しをしてみたオレは、食べた先から小皿に補充してくる愛菜さんの気遣いなのかわからない優しさをやんわり制止するが、愛菜さんは動きを一切止めずに会話に応じてきた。おうふ……。


「お母さんは現役の芸妓(げいこ)さんやねんで。帰ってくる時間はまばらやけど、今日はもうすぐ帰ってくるはずや。お父さんの仕事はシークレットやね。教えられるんは日本で働いてへんっちゅうことくらいや。帰ってくるんは半年に1度あるかどうかっちゅうくらい珍しいから、顔忘れてまうくらいレアキャラ扱いやねんで」


それであはは、と笑っているあたり、家族の仲は悪くないらしい。
ちなみに芸妓とは一人前となった舞妓さんの呼び方であり、東京などではまた違う呼び方をするが、要は舞妓の中の舞妓ということ。そんな人が母親というのは誇らしいことだろう。父親の仕事も気になるところであるが、教えない辺りは愛菜さんと同じような道の人なのかもしれない。


「京ちゃんはあれやねんな。幸音の先祖の真田幸村。その従者の子孫」


「ええ、まぁ。今じゃ真田も海外貿易なんてやってますけど、猿飛は昔から何1つ変わらず、常に真田の側にいました。今の家も真田に与えられてるみたいなところがありますから、真田がないと猿飛も生きられないでしょうね」


「問題あらへんよ。もし真田が潰れても、私が京ちゃん養ったるさかい、いつでも私の義弟になってや」


流れのように愛菜さんがオレの家のことについて尋ねてきたので、立場の弱い猿飛の現状を吐露してみれば、冗談でも笑えない話が返ってきて困ってしまう。真田が潰れたらって、幸姉が聞いたら泣くぞ。


「義弟とか……オレが愛菜さんに気を遣いそうですね」


「そんなんいらへんて。むしろ毎日甘えてほしいくらいやし、私が甘えたいわ」


「それもそれで困るというか……」


この人ホントに隠すことなく本音を言うな。恥ずかしすぎてこっちが穴にでも入りたくなる。たぶん今オレの顔は少し赤くなってる。


「あーん! 恥ずかしそうにしとる京ちゃんかわエエ! お姉ちゃんテンション上がってまうやんか! これはもう一押しせな!」


そのオレを見た愛菜さんは激しく萌えたような表情となると、何かずっと我慢していたらしい行動を実行に移すために、その椅子から立ち上がって身を乗り出してオレの小皿からグラタンをすくい取ると、それをオレの口へと運んできた。いわゆるこれは「はい、あーん」というやつだろう。無理無理無理無理!!


「ちょっと愛菜さん! それは無理ですから!」


「1口だけ! 1口だけでエエから! ねっ? ねっ?」


「さすがにこればっかりは愛菜さんの涙目も通用しませんよ!」


「おーねーがーいーやー!」


まったくもって諦めないぞこの人。だがこっちも負けるつもりはない! ここで退いたら男としてなんかダメな気がする! そう! 男として!

などとよくわからない意地を張り通して愛菜さんと終わらないやり取りをしていると、それを止めるように家の玄関が開く音がして、次にはただいまの声と共に凄く綺麗な黒い長髪をした女性がリビングに入ってきて、愛菜さんがあーんの状態、オレがそれを拒んでる状態で動きを止めてる姿を見てピタリとその動きを止めてしまった。おそらくは頭を整理してる最中だろうか。


「……あー、あれや! 愛菜が言うとりました猿飛京夜君! おいでやす」


「……お邪魔してます……」


「まぁなんやようわかりまへんけど、食事は行儀よく食べなあきまへんえ? そやないとお母さん、余計な説教せなあきまへんからな」


「ちゃ、ちゃうんよお母さん。これは京ちゃんとのスキンシップの一環であって、決してはい、あーんを恥ずかしがる京ちゃんを楽しんでたわけやなくて……」


「愛菜は正直どすな。とりあえず愛菜はあとでお尻ペンペンどすえ」


うひぃ!
どこか寒気を感じさせる女性の笑顔に愛菜さんが恐怖しつつシュバッ! と俊敏な動きで席を立ち、女性の分の料理を盛りにキッチンへと動き、それを見た女性は普通の笑顔になってから愛菜さんの隣の席に腰を下ろしてこちらにニッコリ笑顔を向けてきて、オレも軽く頭を下げて応答。なんか不思議な迫力がある。
それが愛菜さんのお母さんとの最初のやり取りだった。


「京夜君すんまへんなぁ。家の愛菜がわがまま言うとったみたいで」


愛菜さんのお母さんの分の料理を揃えて全員が席に着いたところで、改めて話を始めたお母さんの愛沙(あいさ)さんは、開口一番で愛菜さんの頭を手で強引に下げさせながら謝罪をし、愛菜さんはなされるがままだった。


「いえ、オレも厄介になってる身として反発しすぎたところがありましたし……」


「京ちゃんもああ言うとんのやからエエやろ? お互い様いうことやねん……て!?」


「愛菜は京夜君の気遣いにも気付けへんアホな子やったんどすな。お母さんそないな子に育てた覚えはあらへんのやけど、その辺は父親に似てしもたんどすかなぁ」


オレの返しに対して頭を上げようとした愛菜さんだったが、お母さんの手にさらに力が入ってテーブルにおでこがぶつかって再び沈む。痛そうだなぁ。


「京夜君もホンマに嫌なら強く言わなあきまへんえ。愛菜は調子に乗ったら暴走する癖ありますさかい、誰かが止めたげな1人でブレーキかけれまへんのや」


「……善処します」


「ほな、改めてお夕飯にしましょ。愛菜も寝とらんと頭上げ。行儀悪いどすえ」


「お母さんが沈めたんやないか!」


愛沙さんってマイペースだなぁ。今も愛菜さんの言い分にとぼけて返したりと相手のペースなどお構いなしだ。でもこんな親でもないと愛菜さんは大変なことになるのだろう。想像するに容易いというのも考えものだが、それでも仲の悪い親子には全然見えない辺りは素直に凄いことだと思った。



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