緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

□Reload7
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あの濃すぎるくらいだった愛菜さんの家での1件も、そのあとの祇園祭の警護任務も無事に乗り切ってなんやかんやとやっていたら、いつの間にか夏休みも終わり、季節も夏から秋へと移り変わる9月へと突入。

この時期には2年生がこれから先、武偵として活動する上で永久的に協力関係でいられる武偵チームを結成するために、その編成をよく考えるための修学旅行T(キャラバン・ワン)が行われ、大阪武偵高の2年生と一緒に関東――ほぼ東京かその周辺――へと2泊3日で出張っていなくなる。来年はオレも行くことになるのだが、幸姉とオレは卒業しても武偵としての道は進まないことは決まっているので、ただの観光になるだろう。

そんな修学旅行Tで2年生がいなくなって、すでに一人前の1歩手前で、日々を依頼や任務で忙しい3年生があまり授業にも顔を出さない時期に、これはチャンスとばかりに元気になったのが、オレ達A組の担任、古館遊姫先生。
古館先生は、敷地内のほとんどに1年生しかいないこのタイミングで、ご自慢のお遊びを開催。これまで先生のお遊びと称した授業に嫌々ながらも参加させられてきた身としては、この上なく嫌な予感しかしなかったが、それを拒否する権利を有さないオレ達生徒は、半ば諦めて古館先生のお遊びに参加させられた。

今回の強制参加のとばっちりを受けた学科は、強襲科・諜報科・探偵科・衛生科・SSR。それから別の内容で情報科もらしい。
そして問題のお遊びの内容は古館先生が自らバリエーションを誇る『鬼ごっこ』シリーズ。その中の『追跡と逃亡』。

追跡と逃亡は、参加者全員が捕まえる標的が違い、1人の標的を追い、また1人の標的に狙われるといった状況になる。その関係を数珠繋ぎにすれば、1つの大きな輪になるため、別名を『サークル鬼ごっこ』とも言う。
基本的な流れとしては、標的を無力化して、右腕に予め貼ってある支給品のGPS付校章ステッカーを剥がして自分の左腕に貼り、次はその標的が狙っていた標的を狙い、そうして残り人数が2人になるまで続けるといったもの。GPS付のステッカーを使うのは、もちろん古館先生が残り2人になったかどうかを自分が動かずして知るため。

しかし今回は古館先生には珍しく、最後まで生き残った2人と、撃破数の一番多かった生徒に金一封が贈られるといったものがあり、そうなると目の色が変わるのが大多数の武偵。オレとしては大迷惑なことだが、それでさっさと脱落するといったことをするのも許されない。
報酬を与える一方で、古館先生は撃破数が1未満の生徒は来月の依頼の報酬は教務科へ全て献上の上で受けるという最悪の条件を出しているのだ。
現1年生の各学科メインの人数は、強襲科25人。諜報科16人。探偵科19人。情報科12人。装備科10人。車輛科12人。衛生科7人。SSR4人の計105人。
それで今回の参加者は依頼でいない人を除いて62人。全員が撃破数を分け合ったとしても、最低2人――最初にステッカーを取られる人2人か、前者1人に最後まで生き残ってもステッカーを取れない人――はそのとばっちりを受けることになる。
犠牲者が出る以上、このお遊びは真面目にやらないわけにはいかなく、誰かが金一封を狙えば、その分犠牲者が増えるという性格が悪いとしか思えない古館先生の条件の出し方には、悪意しか感じなかった。

そういった内容の話を前日にされたオレ達参加者である1年生は、今朝になって個別で最初の標的を古館先生から言い渡されてステッカーを貰い、1日をいつも通りに過ごしながら鬼ごっこに興じることになった。


「個人的には京くんと眞弓に賭けとんのやけど、撃破数となると悩みどころやね」


と、A組参加者が全員ステッカーを配布されて教室へと戻った段階で、何故かB組の雅さんがオレの席を陣取って、床に届かない足をプラプラさせながらにオレや幸姉、愛菜さん達に唐突な話をしてきた。


「あの、何の話をしてるんですか?」


「京くんや。今回なんで情報科が別枠で参加しとるか考えてみたんか? ミッちゃんもあれで『ゆうたん』と仲エエから、裏で分け前とか色々企んどるんやで。そんで情報科もついででそのとばっちり受けてん」


ゆうたんとは古館先生のことだが、先生にたん付けするのは雅さんくらいだろう。
今回のペナルティーは、1ヶ月報酬を教務科へ献上することだが、その全部が古館先生の懐に収まるのは確定的に明らかだったのだが、どうやら夏目先生も1枚噛んでるらしい。
あの2人の先生が悪巧みをすると、とことんやるというのは京都武偵高では有名らしいが、今まではナリを潜めていたということなのか、はたまた大規模な悪巧みはそんなにやらないのか、オレが遭遇するのは初めてということになる。

それで先ほどの雅さんの言葉を思い出せば、オレと眞弓さんに賭けてると言っていたところから推測するに、おそらく情報科は賭博でもやらされているんだろう。


「……賭博って、どんな感じなんです?」


「生き残る2人と撃破数の一番多い人を当てるだけやねんけど、生き残る2人は賭け金で1万円取られて、しかもピタリ賞やないとミッちゃんの総取りやし、撃破数は早いもん勝ちの1人指名制で、一律2000円やから、勝ってもプラスで22000円にしかならへん。ミッちゃんこっちに勝たせる気ほとんどないねんで。自分は掛け金払わんし、卑怯やねん」


と、オレの問いに対してスラスラと述べた雅さんは、最後にプンプンと効果音の付きそうな膨れっ面で腕を組んだ。


「情報科のとばっちりはまぁエエとして、雅ぃ、何で生き残る2人が京ちゃんとあの線目な・ん・や?」


とりあえず雅さんの話の全容が見えたところで、今まで黙っていた愛菜さんが、雅さんの後ろへと回って左右から頭をがっしりと押さえてぐわんぐわん動かし始めた。どうやら自分の名前が挙がらないで、眞弓さんの名前が挙がったのが不満だったらしい。
愛菜さんに頭をミキサーされた雅さんは、解放されると同時に机へと倒れ込んでしまい、今日はバリバリに男勝りで、先日のランク考査において強襲科でちゃっかりAランクを取得した幸姉が、心配そうにほっぺをつついていた。


「でもなんで愛菜さんは雅さんの予想に文句を言うんです? あくまでも予想ですよ?」


「京ちゃんはわかってへんなぁ。競馬とかの合法賭博でも、下馬評とかあるやろ? んで、ここは武偵高で、その下馬評を作るには、自分で色々調べなあかん言うこっちゃ。そんで誰が生き残る可能性が高いかを推測する。ただの賭博やけど、当てるためにはデータ収集を必要とされる情報科にはうってつけの内容やってこっちゃ」


「その情報科の1年で実質トップの実力を持っとる雅の予想が最も信頼ある下馬評やってこと。それで名前が挙がらん言うんは納得したないってだけや」


なるほどなぁ。千雨さんの説明と愛菜さんの補足で納得するオレと幸姉。
そこで丁度教室に古館先生が入ってきて、どうにも自分のお遊びが楽しみらしく、いつものように低血圧によるローテンションな様子はなく、朝から絶好調で、その様子を見た雅さんが物凄いフレンドリーに「今日は元気やなゆうたん!」と言って、古館先生と2、3言葉を交わしてから教室を出ていってしまった。
それを見届けてから空いた席に着いたオレは、古館先生のハイテンションに苦笑しつつも、これから始まる鬼ごっこに意識を向けていった。

そういえば雅さんの撃破数の予想、誰か聞いてなかったな。誰って予想したんだろうな。



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