緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

□Reload8
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「これは『遊び』なのだよ、ワトソン君」


季節も完全に冬へと移行した12月の中旬。『とある依頼』で行動を共にしていた雅さんは、全く悪びれる様子もなく胸を張ってオレにそう言ってきたのを説明するには、時間を早朝まで巻き戻す必要があるだろう。


「うへへ。京ちゃん独り占めや」


「キモッ! 愛菜キモッ!」


早朝。登校してから愛菜さんが抱きついてきて、オレはもう毎日の日課となるそれをヒラリと躱してから千雨さんに挨拶すると、いつもと違って幸姉がいないことに気付いたようでどうしたのか聞いてきたので、風邪で寝込んでると言うと、今の台詞と一緒に愛菜さんが自分を抱き締めるような格好でクネクネやり始めたのだ。それを見た千雨さんが、どストレートに感想を述べるので、空笑いをしつつ席に着こうとしたのだが、そこで珍しく校内放送がかかり、夏目先生がオレを呼び出ししてきた。な、何か悪いことしたっけ……。
元公安0課の先生ということもあって、しかも担任でもないのに呼び出しを食らったことにこの上ない恐怖がオレを襲い、何故か千雨さんが肩をポンポンと叩いて「ご愁傷さま」とか言うので、余計に怖くなったが、行かなきゃ行かないで死亡フラグしか見えないので、合掌までしてきた千雨さんと涙を流しながらハンカチ片手にヒラヒラさせる愛菜さんに送り出されて、死地――教務科――へと向かったのだった。その際にクラスの男子から「ざまぁみろ」とか聞こえたが、気にしないことにしよう。

そうしてわずか数分で死地へと辿り着いたオレは、恐る恐る教務科の室内へと入ると、自分の席で半分以上寝てる古館先生の緩みきった顔を見て少し心を落ち着けつつ夏目先生を探すと、夏目先生はオレを見つけるや否や足早に備え付けの個室へと誘導してきたので、それに素直に従って椅子へと腰掛け夏目先生と対面した。


「あの……オレ何かしましたか?」


「ん? いやいや、そういうのじゃないから」


俯き気味にまずはそうやって切り出してみたオレだったが、オレの予想とは違って、夏目先生はそうではないと言いつつ懐から小さな紙切れを取り出してオレへと投げ渡してきたので、それをキャッチして見てみれば、そこにはどこかの部屋番号らしきものと、よくわからない法則性も何もないアルファベットと数字が50以上並んでいた。なんだこれ。


「それ、ミヤのやつの『作業部屋』の暗証番号。使えるのは朝9時まで。アンタ今日はご主人様がいなくてフリーでしょ? ミヤとも交流あるっぽいし、ちょっと頼み事しようと思ってな」


何で幸姉が休んでるの知ってるんだよと思ったが、そういえばオレが登校する前に使用人さんが連絡してたことを思い出して納得しつつ、夏目先生の頼み事とやらについて詳しく話を聞いてみる。


「まぁ、今に始まったことでもないんだけど、ミヤのやつが登校してから作業部屋に閉じ籠って『趣味』をやってるんだよね。それな、そろそろやめとかないと武偵庁からお叱り受けるのよ。主に私が。それは避けたいからアンタからやめるように説得してくれ」


「何で先生が直接行かないんですか? 暗証番号だってあるのに」


「私はこれですぐに手が出るからさ。ミヤには『そういうの』は絶対ダメだから、私は適任じゃないんだよね。アンタはずいぶん甘いって報告があるから、安心かなって思ったわけよ。報酬はちゃんと払うから、やってくれるな?」


夏目先生が行かない理由のほどはよくわからないまでも、要は今現在雅さんが行っている『趣味』とやらをやめさせればいいわけだ。


「夏目先生がオレにできると思って頼んでくれたなら、やってみますけど、失敗したらどうなります?」


「遊姫がそれはそれは『面白い催しの主役』にしてくれるだろうね」


い……嫌だぁぁああああ!!
前にそれらしきものを授業でやらされていた上級生を見たけど、あんな思いをするのは死んでも避けたい! 絶対に失敗は許されない。
目に見えて青ざめたであろうオレを見た夏目先生は、それで席を立ってオレの肩に手を置いて「頑張れ少年」と言ってから個室を出ていってしまった。

もはやあとに退けなくなったオレは、背水の陣で今回のミッションへと臨み、授業などお構いなしでメモにあった部屋がある情報科の区域へと踏み込んでまっすぐ目的の作業部屋とやらに到着。部屋の名称プレートを見れば『コンピュータ室』とあり、普段なら生徒が自由に使える部屋だろうことはうかがえたが、大事なデータもあるということで結構な電子ロックが設置されている。
とりあえず時間はもうすぐ9時になってしまうため、渡された暗証番号が無駄になる前にさっさと入力を開始。無駄に多いというか、多すぎるくらいの桁数に手間取りながらも、9時ギリギリで解錠に成功し重々しい扉を開くと、中は窓など一切ない空間で、その空間内に可能な限りのパソコンやらの電子機器が備え付けられていた。その代わりなのか、換気と冷暖房設備はしっかりとしていたが、雅さんがいるはずなのに電灯が点いていなく、薄暗い空間にチカチカと浮かぶ光源が目立ち、居場所に関しては1発でわかった。
オートロックなのか、扉は締め切ると同時に施錠がされてしまい、開け方もいまいちよくわからないため雅さんの元へと歩いて近づいてみれば、その雅さんは、『コ』の字型に並んだ机に置かれた3台のパソコンを同時に起動して非常に楽しそうに回転椅子を動かしながらに3つのキーボードを休みなく叩き続けていた。これが趣味?


「おはようございます、雅さん」


「んー? おお! 京くんじゃーあーりませんかー! いらっしゃーい!」


よほど集中していたのか、オレに声をかけられるまで存在に気付かなかったらしい雅さんは、そこで1度手を止めて非常にハイテンションな挨拶を返してきた。朝のテンションじゃない。古館先生にその元気を分けてやってほしいくらいだ。朝限定で。


「ミッちゃんからの刺客やね。今までで一番手強いの送ってきてくれたで、ミッちゃん」


「ああ……今までにもあったんですね……まぁそういうわけなんで、やめてくださると助かるんですけど、無理ですか?」


「京くん。その言葉はな、京くんにとって『ねっちんの護衛をやめてください』って言われるのと同じくらいのレベルやで!」


そんな屁理屈を言った雅さんは、机越しのオレにズビシッ! と小さな手で指差してきた。やめる気は毛頭ないらしいが、それはそれでこっちが非常に困るので、オレも食い下がる。というか背水の陣で臨んでるんだから、最初から退路はない。


「そういえば今日はねっちんが休みなんやってね。だから京くんもここに来れてるってわけやろうけど」


「どこからそんな情報を……」


「教務科の情報は私には筒抜けなんやでぇ。データ情報に限ってやけどな」


なんか誇らしげに胸を張って言う雅さんだったが、要は教務科の情報を盗み見てるってことなんだろうな。バレたらどうなるやら。



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