緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

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新学期。京都武偵高に入学して早くも1年の月日が経ち、オレや幸姉達も無事に進級。今日からまた学校生活がスタートするわけなのだが、その最初のクラス。一般授業におけるクラスを確認してみれば、何か作為的なものを感じざるを得ない人達が一同に介していた。


「やたぁああ!! また京ちゃんと一緒やでぇええ!!」


「日に日に愛菜がキモいテンションになっていくんやけど、早紀、どう思う?」


「まぁ、違うクラスになってウジウジされるよりは100倍マシやろ」


「まっちゃんの壊れ具合は見てておもろいで。京くんは抱き付かれて窒息死しそうやけどな」


「雅、そう思うなら止めてあげたら? 私は止めないけど」


「やかましいクラスどす。今からクラス替えの申請は通りますやろか……」


愛菜さん、千雨さん、早紀さん、雅さん、幸姉、眞弓さん。今の2年生筆頭が今年は同じクラスになっていた。
愛菜さんに殺人レベルの抱擁を受けながら、クラスを見てみれば、装備科の空斗さんもいて、早速女子に話しかけて変態扱いを受けながら振り払われていた。哀れなり。さらに見回してみれば、オレを見る男子達の視線が怖い。その理由についてはもう考えるまでもないが、今年は眞弓さん達も同じクラスとなると、ますます視線が痛くなるだろうな。

そうこうやっていて、愛菜さん千雨さんが眞弓さんと口喧嘩を始めそうになったところで、担任の古館先生――今年もA組――が、例によって弱々しい足取りで教壇へと着いたので、前学期の後半において古館先生の目覚まし担当となった千雨さんが、眞弓さんとの喧嘩も中断させてやれやれといった感じではあったが、いつものように強烈なデコピンをお見舞いして覚醒を促した。


「うらぁ! 千雨こら! そんな強くしなくても大丈夫だって何回言えばわかんだ!」


「先生がデコピンしてくださいお願いしますって顔で突っ立っとんのが悪いんやて! デコピンされたなかったら始めからしゃんとせぇ言うこっちゃ!」


ぐぬぬ。完全覚醒を果たした古館先生は、正論すぎる千雨さんの意見に拳をわなわなさせながら呑み込むと、今のやり取りはなかったことにでもしたようにいきなり出欠を取り始めて――教室を見回すだけ――早々に終わらせると、黒板に何やら生徒の名前を書いて改めて教壇に手を付いて話をしてきた。というか黒板にオレの名前があるんだが……


「はいはーい。例によって始業式とか入学式とかどうでもいいんで、新学期突入記念の鬼ごっこやるぞー! 今回は2年生全員参加の『だるころ』だ! 逃走者は黒板に書いてある5人な。2年生全員参加だから100対5になるから、100の方は負けたら1学期の依頼は全て半額で請け負うことになるから覚悟しとけ。逆に5の方は勝ったら今年の進級に必要な単位全部やるよ。にひひっ!」


さ、最悪だぁぁああああ!!
新学期早々で貧乏くじを引かされたぞこれ! いじめだろ! いじめなんだよな古館先生!
話を聞いた瞬間、オレは机に額がめり込むレベルで突っ伏して自分の不幸を心の中で叫んでいた。そんなオレを見た幸姉や愛菜さん達は当然のように心配してきたが、それよりも今回の古館先生の遊びでオレが5の方に入ってることによって、この教室の空気が一変したのがわかった。主に男子がオレに明確な殺気を放っている。今日、オレは死ぬかもしれない。

『だるころ』とは、『だるまさんが転んだ』を略した言い方なのだが、このルールは鬼ごっこシリーズの中でも逃走側の生存率が極めて低いことで知られている。
大雑把なルールとしては、制限時間内に逃走者の半数以上を捕縛するというもの。今回は5人いる内の3人を捕縛すればいいわけだ。
このだるころは限られた時間を有効に使うための技術や作戦立案が重要で、そのリミットまでの時間を『だるまさんが転んだ』の遊びにかけているのが名前の由来だが、実際のところだるまさんが転んだの要素などほとんどない。


「古館先生、だるころやるのはかまいまへんが、制限時間とセット数を教えてもらえまへんか?」


オレが絶望に浸っていると、早くも順応した眞弓さんが扇子を扇ぎながらに古館先生へとそんな質問をする。そういえばまだそれを聞いてなかった。


「まぁ、今回は大規模で数の差もあるからな。その辺を考慮して15分を5セット。インターバルは10分ってところだな。うち逃走側は1セットでも取りゃ勝ちってことでよろしく!」


だるころでは制限時間があることから何セットかに分けて行うのだが、15分は長い。京都武偵高の敷地内で100人の追跡から15分も逃げろとはなんの拷問だろうか。なんの考慮もされてないに等しい。5分逃げられれば勲章ものだ。


「それから逃走側。無条件降伏とかしたら、今後どうなるかわかんないから、つまらんことはするなよー。5セットを『無事に生き残ったら』金一封くらいの報酬は出してやるからさ。ひっひっひっ!」


あの笑い方、そんなやつ絶対いやしないってわかりきってる笑い方だ。マジでこの学校の教師は性格が悪い。


「んじゃ1セット目の開始は20分後の9時ジャストからな。逃走側は今から移動オッケー。捕獲側は2年の教室間だけ移動可にするから、チーム編成とか好きにやれ。発砲も抜刀も許すが、くれぐれも『ミスって殺しちゃった』とかはやめてくれよぉ。以上!」


最後のは言う意味ないだろとツッコむことさえできずににかにかと笑いながら退室した古館先生を見送ったオレは、本当に始まってしまうのかと思いつつ顔を上げれば、オレの左隣の席を陣取っていた眞弓さんがすでに雅さんと早紀さんを召集して何やら作戦会議を始めていて、他の生徒も次々と席を立って他のクラスの生徒との合流などに動いていた。ヤバイ……みんな本気だ……
これはもう本気でやらないと怪我では済まないのは確定。最悪新学期早々で入院生活なんてことも……
それだけは絶対に避けたかったオレは、怪しい笑いを浮かべた眞弓さんに恐怖しつつも、笑顔で見送ってきた幸姉(フレンドリー)と愛菜さん、千雨さんに軽く会釈してから教室を出て、他の逃走者と合流して移動しながら生き残るための作戦会議をしていった。これでも『生き残るための力』はそれなりに高いと自負してる。あ、でもサバイバル能力に関してだから、今回は微妙かもしれない。
とにかく、逃走者は一緒に行動しないことを鉄則として、各々が生き残るための最善を尽くす流れ――よくよく考えたらそのくらいしか話すことがなかった――でまとまり、大雑把な行動範囲の確認だけして散り散りに。

このあと、オレは地獄を見ることになる。



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