緋弾のアリア〜京の都の勇士達〜

□Reload10
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「これは予想以上に深刻どすなぁ」


「日本3景に悪影響を及ぼすとか、日本人としてやめてほしいわ……」


ゴールデンウィーク最終日。本来なら愛菜さんと千雨さんと一緒に新作映画を観に行っていたはずだったオレと幸姉は、現在京都府の北部。丹後半島を望め、日本3景に数えられる『天橋立』があり、夏には海水浴場の開放と相まって人と観光客で賑わう宮津市に来ていた。
しかしこの場に愛菜さんと千雨さんの姿はなく、一緒に同行していた――オレと幸姉が同行しているが正しい――のは、今や京都武偵高の2年主席と呼び声高い眞弓さんと、ここまで来るために車の運転を務めてくれた早紀さんに、情報担当の雅さん。

今はその日本3景、天橋立を東洋龍――蛇のような龍――と見立てた『飛龍観』として呼ばれ望める文珠山のふもとの天橋立ビューランドへとモノレールに乗ってやってきたところ。それでゴールデンウィークということもあって、天橋立を見る観光客で賑わいを見せているはずだったここへ来てみての言葉が、先ほどの眞弓さんと幸姉のもの。
2人がそんな感想を漏らすように、現在この場にいるのはオレ達のみ。観光客どころか、地元民っぽい人すらいない。別に臨時休業がされているわけでも、天橋立の人気が急降下したわけでもない。この現象の原因の排除が、今回オレ達が宮津市を訪れた理由ということだ。


「ほなら、京都の未来と平和のために働きましょか。雅、下調べは終わってますやろね?」


「問題あらへんで。あとはさっちんと京くんと下見して調整やね」


「それじゃあ私と眞弓はその間に着替えておきましょ」


天橋立ビューランドの現状を確認したオレ達は、それで事前に打ち合わせていた通りに行動するため、またモノレールに乗って降りると、一旦眞弓さんと幸姉とは別行動で2手に分かれてそれぞれで準備をしに移動開始。オレは本来なら幸姉についていなきゃいけないのだが、眞弓さんに「小1時間程度なら、ウチでもボディーガードはできますえ?」などと言われてしまって、幸姉にも「大丈夫よ」と言われてしまえば渋々である。

今回オレ達が宮津市でやる依頼は『強盗犯の逮捕』である。
ゴールデンウィークに突入して、観光客を狙った強盗犯が出没。しかし被害者の誰1人としてその姿を見ていないという不可思議な事件にして、声も変声器か何かで変えていることから、捜査が難航。さらに警察が動いているにも関わらず、被害者は増えていくという事態で、観光客も強盗犯を恐れていなくなり、地元民すら外出を控えるという最悪な事態へと発展。このまま犯人逮捕に至らなければ、夏の海開きなどにも影響を及ぼすとして、なりふり構わずに京都武偵高(うち)に依頼が舞い込んできたということわけだ。
当初はもっと大人数での捜査を想定していた教師陣だったが、眞弓さんが「ウチに任せてください」と進言したことで今に至っている。実際、今宮津市に来ているのは、オレ達だけ。愛菜さんと千雨さんも来ると言い張ったのだが、とある理由によって眞弓さんが一蹴している。今頃は2人で自棄ポップコーンを食べながら映画でも観ていることだろう。

そんなわけで事件解決のために早紀さんと雅さんと行動していったオレは、今回の事件をまとめた資料で、そこから雅さんが物凄く要点を絞った部分を思い出しながら車で移動しながら現地の下見を完了させていく。ここら辺の土地勘はないからな。いざという時に迷ったりは絶対に避けたい。


「そんで、今回の犯人(ホシ)はどないなトリックを使うてるんや? ミヤもマユもなんや見当ついとるように思うんやけど」


移動中、運転をしていた早紀さんは、オレの隣でノートパソコンを操作する雅さんに視線を向けずに質問。オレも気になったので、耳だけそちらに集中していく。


「んー、どないなトリックかはわからへんけど、3ヶ月前に福岡で似たような事件が数件、3日くらい続いたことがあってん。そこんとこの資料も引っ張ってきて分析してみたんが、ここに来るまでに見てもらった資料なんやけど、完全に一致しとる項目があるやろ?」


「要点を絞ったこれですよね。『観光客のみを狙う』『犯行は晴れの日の日中に限られる』『誰も犯人の姿を見ていない』」


「夜の方が人目も避けやすいのに、何でわざわざ晴れとる日の真っ昼間に犯行に及ぶんやろな。姿を隠すトリックがそこにあるっちゅうことなんかな?」


「さっちんわかっとるやんか。眞弓も私も同じ見解や。ひょっとしたら『ねっちんと同類』の犯行やないかっちゅうのが、大方の予想やね」


幸姉と同類。つまりは犯人が『超能力(ステルス)』を持っている可能性があるということ。確かにそう考えれば、目撃者がいないことへの説明も納得がいく。しかしあくまで予測。そういった可能性を考慮した上で動くというのが、眞弓さんと雅さんの考えなのだろう。


「それよりも、今回の作戦で犯人が現れる可能性の方が重要じゃないですか?」


「京くんもまだまだ甘いで。資料から読み取れる情報だけでも、犯人の性格を分析できんねんで。それを考慮した上で可能性の高い作戦を実行する。眞弓も私も勝算なしで動いたりせぇへんっちゅうこっちゃ」


続けて今回立案された作戦で犯人が姿を現す可能性についてを問えば、これも全く問題ないと豪語する雅さん。


「プロファイリングってやつですか。雅さんがそう言うなら信頼はしますけど、犯人の性格っていうのは、どんな感じですか?」


「まぁ、簡単に言えば相当な自信家。警察の目もお構いなしに犯行を継続しとるし、犯行当時は別に人目のない場所に誘導してといったこともせんで、白昼堂々背後から拳銃らしきものを突きつけて財布を出すよう恐喝して奪っとる。ただ、知能犯である反面、犯人は非力である可能性が高いねんな。やから、思わぬ反撃を恐れてかは知らんけど、被害者はみんな女性。観光客を狙うんは、資金面で余裕のある人が多いからやろう。狙う相手が明確なだけに、今回の作戦は勝算あんねんな。警察にも捜査体制は変えんよう言うてあるし、怪しまれん1回目だけがチャンスや。京くんもさっちんも頼りにしてんで」


そうやって話したあと、雅さんはまたノートパソコンと向き合って何かの作業を再開していき、早紀さんも「任せとき」と一言返してから運転に集中。オレも一言「はい」と返してから、自分がやるべきことへと集中していった。



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