アクセル・ワールド〜蒼き閃光〜

□Acceleration5
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結論から述べるならば、テルヨシのメッセージに応じた王は、赤の王を除いて3人。
青の王《ブルー・ナイト》、黄の王《イエロー・レディオ》、紫の王《パープル・ソーン》。彼、彼女らはそれぞれにテルヨシへの興味と勧誘も含めた会談を求めて、それぞれ週末の日曜日に場所を指定して話をした。

テルヨシがした質問は、先日ユニコにしたものと全く同じもので、それには王達もすぐに答えて終わり。そのあと3人とも言ってみるだけの勧誘の言葉をテルヨシに述べたが、テルヨシの回答は全てNO。もちろん《プロミネンス》にも断りを入れていた。
その理由は、4人の王達への質問の回答によるもの。テルヨシは「今の加速世界を良しとするか」「レベル10になりたいか」「ブレイン・バーストを楽しんでるか」。この3つの質問に対する4人の回答だけで今の加速世界を「つまらない」と結論付けたのだ。

現在のブレイン・バースト。加速世界は『停滞』している。
これは昨年の夏に、ほぼ同時にレベル9となった黒雪姫達《純色の七王》が、レベルアップ直後のシステム・メッセージによってレベル10へと至るためのルールを知ったことによって起こった事態。
そのレベル10へ至る道は、『同じレベル9バーストリンカーを5人倒すこと。ただし、負けた場合ポイントは全損しブレイン・バーストを強制アンインストールされる』という残酷なもの。
これにより王達が選んだ選択が、王達で戦わずレギオンでの領土不可侵条約と分割支配をするという選択。
しかしそんな取り決めが決まる前に、その意見に抗った王がいた。言わずもがな、黒の王《ブラック・ロータス》こと黒雪姫である。彼女は王が一同に介した場で不戦を訴える王の首の1つを落とし、他の王の首も狙うが失敗。それから黒の王は加速世界一の裏切り者とされ、賞金首にまでされている。この時首を落とされたのが初代赤の王《レッド・ライダー》である。
そして何故黒雪姫がそうまでしてレベル10になろうとしたのか。それは予測にはなるが、システム・メッセージはこうも告げていたらしい。『レベル10へと至ったバーストリンカーは、プログラム製作者と邂逅(かいこう)し、ブレイン・バーストが存在する本当の意味と目指す究極を知らされる』と。
今から6年前に東京都内の当時小学1年生100人に配られた製作者不明の謎のアプリケーション、ブレイン・バースト。正式名《Brain Burst 2039》は、その製作元も何もかもが不明のまま、バーストリンカーにただ1度だけ与えられたコピーインストール権でその数を少しずつ増やしながら、幾度のアップデートを経て今日存在し続けている。
黒雪姫はおそらくそのブレイン・バーストの存在理由を知りたかった。だから王達が揃う1世1代のチャンスに無謀とも言える行動に出て、その後も梅郷中学校を隠れ蓑(みの)に潜伏している。

ブレイン・バーストはレベル10に至るとゲームクリアになる。という予測論もあり、そうなった場合、バーストリンカー達はその瞬間に強制アンインストールされるなんて危惧も相まって今の加速世界は停滞している。何せ製作者も何にもかも不明で、何が起きても不思議ではないのだから。

そんなことをデビュー戦前に自らの《親》から聞いていたテルヨシは、1度自分自身で王達と話して、それからこれからの自分の加速世界での在り方を見出だそうと考えていたのだ。
まだ2人の王に会えていないが、それでもテルヨシが決断するには十分な回答が得られたため、テルヨシは明くる月曜日に学校で黒雪姫と話をしていた。


「『無所属のまま自由に過激に加速世界を楽しむ』か。テルらしいな」


「情報を集めた結果、6大レギオンは今『領土戦ごっこ』をしてるわけだろ? んな縛りプレイこっちからお断りだ。領土ってのは取って取られてが楽しいんじゃねーの? せっかくの貴重な集団戦を台無しにして何が楽しいんだっての」


「まったくだ。タッグ戦はいつでもできるが、それ以上の集団戦など《通常対戦フィールド》では領土戦しかないというのに、バカバカしいにもほどがある」


そんな話をする2人は現在昼休みの屋上の片隅でベンチに座っている。もちろんテルヨシは車椅子に座っているが。


「とは言ってもテル。これから具体的に何をするのだ? もちろんレベル上げは底辺にあるとしてだが、過激にというと想像がつかん」


「簡単簡単。毎週どこかしらの領土戦に参加して6大レギオンの占領する領土の勝率を5割切らせて落とす! んで、日曜はテキトーに対戦三昧しようかなって感じ」


「なんだその面白そうな計画。しかし無所属のバーストリンカー達は基本領土戦には出張ってこないからな。だから6大レギオンが『ごっこ遊び』で占領し続けられているわけだ」


「そこは上手くやるって」


先程から2人が言っている領土戦は、レギオンが戦域で『自分の領土だ』と旗揚げした戦域で、毎週土曜の夕方の特定時間内で行うことのできる3対3以上の集団戦で、勝率5割以上をキープすることで占領し続けることができるというもの。
当初はレギオン間によるしのぎを削るような領土の取り合いを目的としたシステムだったと予想できるが、今は6大レギオンによる不可侵条約でその機能をほぼ失ってしまっている。
6大レギオン間で今は勝率キープを作業とした温い対戦が行われているのが現状。これをテルヨシと黒雪姫は『ごっこ遊び』と称しているのだ。
もちろん6大レギオン以外にも小規模のレギオンはたくさん存在し、旗揚げをしているレギオンもあるが、やはり6大レギオンの領土を奪うまでの力と持続力がないのだ。


「それでちょっち相談なんだけどいいかな、姫?」


「言ってみろ。聞くのはタダだからな」


「ほら、姫って今潜伏中じゃん? だから加速世界の最新情報とかって入手しにくいんじゃね?」


「手に入らないこともないが、まぁその通りだな」


「そこで! このテルさんが毎週集めた情報を姫にモッサリ教える。その報酬に姫はオレに対戦で実戦訓練をする。どうよ、悪くない話だろ?」


「確かにそれなら私のポイントが減ることはないし、加速世界の状況をおおむね把握できるな」


「……今さらっとテルには負けない宣言したよね、姫」


「いや、今のテルでは万に1つも勝てんさ。せめてレベル6にでもならないと競り合いもできない。ポテンシャルの差というのはそれなりに大きいのだよ。だがまぁその話、甘んじて受けようではないか」


黒雪姫の言葉に納得しかねるものも感じながら、テルヨシはとりあえず交渉成立に安堵して、残りの昼休みを雑談で過ごした。
テルヨシの黒雪姫との対戦の狙いは、もちろん経験値稼ぎ。バーストリンカーにはバーストポイントを稼ぐという主目的があるが、そのためには対戦で勝たなくてはならない。そこで生きてくるのが幾多の対戦による経験値である。具体的に言うなら、対戦知識や戦術のバリエーション。その他多くの『見えない数値』が、勝敗を分けると言っても過言ではない。
だからこそテルヨシはただ7人しかいないレベル9バーストリンカーが近くにいるこの状況を利用したのだ。もちろんそれは黒雪姫もわかった上で承知したことになる。



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