アクセル・ワールド〜蒼き閃光〜

□Acceleration6
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テルヨシの怒涛(どとう)の新学期生活も、なんやかんやで1ヶ月が経過して、そんな生活にも慣れてくる5月に突入。その頭のゴールデンウィークに入る前の学校では、来たる休日をどう過ごすかの話題で溢れていた。


「東京グランキャッスル?」


「ええ。ベイエリアに建設された大規模なテーマパークですわ」


「確かフルダイブ技術全盛のこのご時世に、あえて『リアル』をテーマに本物の石材で中世ヨーロッパ風の城塞都市を建てたとか言うあれか」


話をしていたのは、もはやおなじみとなりつつあるテルヨシ、黒雪姫、恵の3人。しかし3人の今いる場所も姿も現実世界のものではない。

フルダイブ技術

ニューロリンカーによる量子接続レベルを普段の《視聴覚モード》から《全感覚モード》へと引き上げることで、接続されたネット内に意識をダイブさせ、仮想現実世界へと入る技術。
その際には仮想現実用の設定したアバターへと姿を変えることになり、これはカスタマイズや1からの作成が可能。
なお、フルダイブ中は生身の体が完全に無防備になるのだが、フルダイブ中の人間に触れるのは現在のタブーとなっているし、今や日本全土の至るところに設置された治安維持目的の映像監視網《ソーシャルカメラ》に何か怪しい行動や危険な行為が映れば、すぐに対応されるようになっている。

ブレイン・バーストは、このフルダイブ技術の上に思考の《加速》を加えた高度なアプリで、毎回リアルに構築される対戦フィールドは、このソーシャルカメラが取った画像から再構成された3D映像を元にしている。だから対戦フィールドの地形は現実の地形とほぼ一致するので、普段の東京都内の地形を把握することも対戦では影響してくる。

そんなフルダイブ技術が当たり前の時代で、今現在テルヨシ達がいるのが、中央に泉が湧く草地の外周を内部が空洞となった巨大な木々が輪を作ってそびえる仮想空間、私立梅郷中学校の学内ローカルネットである。
テルヨシ達はその空洞となった巨大な木のうちの1つ、何層にも分かれたフロアの歓談スペースの1つで小さなテーブルを囲んで雑談していた。
そしてテルヨシの今の姿は、小さい子供を対象にしたような獰猛(どうもう)さの欠片もない銀狼の姿で、端的に言えばぬいぐるみの狼。
これはテルヨシが組んだアバターではないが、こういったアバター製作が趣味だった幼なじみが作ってプレゼントしてきたものをそのまま流用しているのだ。
そしてテルヨシの目の前に座る黒雪姫は、その現実の容姿をそのまま反映させた外見に、大胆な黒のドレスと日傘。背中に虹色のラインが走る黒揚羽蝶(くろあげはちょう)の羽をつけた姿。一見しただけでそれが自作で、それも相当高い技術で作成されたアバターであるとわかる黒雪姫のそのアバターは、今や梅郷中学校では知らない者はいない。
そして恵は可愛らしい薄いピンクのローブとつば広の帽子を身につけた魔法使いのアバター。

そんな3人が話していたのは、例に漏れずにゴールデンウィークの過ごし方だったのだが、そのゴールデンウィークにオープンするテーマパークを思い出した恵が話題を振ったのだ。


「んで、恵はオレとそこでデートしたいと? そうならそうとストレートに言えよ。恵は可愛いなぁ」


「姫、一緒に行ってみない?」


「私は人混みは苦手でな。行くならゆっくりできそうなところが良いかな」


「…………」


「あら、どうしましたのテル? 調子が悪いのでしたらログアウトした方が良くてよ?」


「何かおかしな物でも食べたのだろう。自業自得だ」


「……どうしてこうなった。というか2人のスルースキルが高すぎる……」


先程のテルヨシの発言などなかったかのように普通に話す2人に、本気で現実逃避したくなるテルヨシだったが、1日1回はこういった冗談を言ってスルーというやり取りが行われるようになってきていた。


「だってテルは女性なら誰でもそうゆうことを言うじゃない。さすがに聞きなれてきましたわ」


「さすが軽い男だな」


「日本人って何でデートをカップル限定の行為として捉えるんだろうな。互いをより知ろうとする行為にデートって1番良い手なんだけど……」


「じゃあテルは殿方とデートするべきですわよ。入学当初から私や姫や他の女子生徒とはよくお話ししてますけど、殿方と話してる姿を見ませんわ。殿方からの評判もよろしくありませんしね」


「ひがんでんだよヤローどもは。自分にできないことを平然とやるオレに羨ましさ半分、恨み半分でな。女性と話すなんて緊張することもねぇのに。言葉通じるんだしよ」


「私が男でそんなこと言われたら、確実にムカッとくるな。男子が毛嫌いするわけだ。いや、お前が女子だったらその顔をひっぱたいているところだ」


「普通、異性と話す行為というのは、同性と話すそれより気を遣いますし、テルのような考え方はなかなかできませんわ」


「でも別にオレが悪いことしてるわけじゃねーじゃん。これがオレの普通だし、個性だ。それを周りがとやかく言ったからって変えるくらいなら、ただの意思の弱いやつってことじゃん。そんな人間にはなりたくねーよ」


「それには同意だな。意思の弱い人間ばかりの世界など、生きる価値すら見出だせん」


「なんで姫はそう重い話にするのかしら。でも今のテルを私も嫌いではないですから、確かにらしさを損なうのはよろしくないですわね」


「じゃあオレの個性を認められたところで明日にでもデートに……」


「行きません」


「……姫……」


「行かん」


そんな感じで昼休みの脱線しまくりの雑談は、テルヨシの敗北で終わったのだった。



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