アクセル・ワールド〜蒼き閃光〜

□Acceleration48
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沖縄のバーストリンカーを困らせていた化け物《サルファ・ポット》と神獣級エネミー《ニーズホッグ》と遭遇したテルヨシと黒雪姫。流れで戦うことになった強敵に対し、2人は長年の対戦経験から成せる連携でおよそ3分ほどの時間、ニーズホッグによる猛攻を最小ダメージでやり過ごしていた。

とはいえ、ニーズホッグの攻撃は最初からずっと愚直なまでの突進だけで、その交錯の度に削りダメージを与えて建物に突っ込ませていく展開がかれこれ十数回。命令しているのは乗り手であるサルファであるため、変化が訪れるとすればサルファがアクションを起こした時だが、現状でHPゲージの絶対量の差でいずれテルヨシ達が先に死亡するのは目に見えているので、下手に変化を加えて――自らが攻撃するなど――隙を見せるようなことをしないようだった。
それだけ慎重に相対するサルファにはやはり中堅リンカー以上のものを感じるが、今まで名前すら聞かなかったのが不思議ではある。だからこそサルファを倒して情報を引き出すことが重要。

そうこうギリギリの中で考えていたら、ニーズホッグの突進によって街の周辺の建物がほぼ倒壊し開けた空間が作り出されていた。
戦闘開始前にここまでが下準備だと話していただけに、遠くの方でせっせと動いているルカとマナの方向にダッシュを始めたクリキン。これから何をしてくれるのかを少し期待しつつ、旋回を終えたニーズホッグを少しでも食い止めるためにゆっくりと注意を引いたまま後退するテルヨシとの黒雪姫。


「やれやれ、だいぶキレイになったね。僕もニックも広い場所の方が好きだから、これでやっと気持ち良く戦えるってもんだよ」


「それは良かったな。……しかし、戦いやすくなったのは私も同じだぞ? 周りに邪魔物がなくなって、回避の自由度が増すからな。もう貴様の削りダメージ戦術は喰わんよ」


「えー、オレ的には何かあった方が動きやすいんだけど……まぁ《風化》ステージだから元からあってないようなもんって思えば開き直れるけど」


「あはは、あなた達は面白いね。でも削り戦術は酷いな! 僕だってそんなせせこましい手は嫌いだよ。でもね、こっちにも事情があったんだ。何せ……ニックの必殺技ゲージ、貯まるのがえらく遅いもんでね!」


そんなサルファの言葉に思わず足を止めて息を飲んだテルヨシと黒雪姫。エネミーに必殺技ゲージが存在するなど聞いたことがないため驚くのも当然なのだが、そもそも神獣級エネミーをテイムしている時点で前例がないのだから、予測できなくても仕方がない。


「ふふふ、まぁ、普通は知らないよね。テイムされた高位エネミーは、独自の必殺技ゲージを持つこともあるんだよ。残念ながら、ゲージが見えるのはマスター、つまり僕だけだけどね。建物をこれだけ壊しまくって、今ようやくそれが満タンになったとこさ。ってことは、次に何が起きるか……それくらいは解るよね!!」


驚愕する2人にサルファが親切にそんなことを教えてくれはするが、そこで1度言葉を切ってから握る手綱をバチンッ! と振り下ろして大音量で叫んだ。


「やれ、ニックッ!! ――《スコーチング・インフェルノ》ッ!!」


途端、ニーズホッグはそのアギトを大きく開いて、その奥でチラチラっとオレンジ色の光が瞬くのが見え、周囲に満ちる硫黄臭さでこれから何が起こるかを察知。黒雪姫はなりふり構わずに後ろを向いてダッシュを開始。しかしテルヨシはその状況で心臓が飛び出そうなほどの緊張を圧し殺して、その場で右足を前で左右にザッザッ。地面を擦るように動かして、続けて左足でも同様の行動をした後、ニーズホッグの口から業火の炎《ドラゴンブレス》が放たれてテルヨシを一瞬にして飲み込んだ。


「バ、バカかお前は!!」


その愚策に隣にいなかったために半分振り向いて叫んだ黒雪姫。あまりに無意味なその行動に怒りすら覚えていただろう黒雪姫だが、ニーズホッグが放ったドラゴンブレスは黒雪姫のところまで届くよりも早く何かに吸い寄せられるように渦を巻いてテルヨシがいた地点へと集まって、その燃え盛る業火の中からは無傷のテルヨシが姿を現し、ドラゴンブレスの炎は物凄い勢いでテルヨシの膝から下の足へと収束し完全に勢いを消してしまった。そしてドラゴンブレスを吸収したテルヨシの足は仄かな炎を纏ってユラユラとその炎を揺らめかせる。


「……ぶはっ!! 絶対死んだと思ったし!!」


信じられない現象を起こしたテルヨシだったが、当の本人もここまで出来るとは全く思っていなかったので、自分のHPゲージが炎熱攻撃によって1割程度削れたのを確認してから、《継続的に減り続ける必殺技ゲージ》にも目を向けた。


「な、なんだよそれは!? そんな技はウチのデータになかったぞ!!」


「ん? お前のとこのデータとやらがどれだけ優秀かは知らないが、そりゃないだろうよ。なにせ人前で使うのは今回が初だし」


あまりに衝撃的な光景だったのか、余裕綽々だったサルファが初めて声を荒立ててテルヨシへと叫ぶが、テルヨシは若干ドヤッ、といった雰囲気で言葉を返した。

実践投入が初となったテルヨシのこの必殺技は、自身がレベル6になった時に取得したもので、以前にユニコとパドに見せろ見せろと言われて結局見せることをしなかった例の使いどころが限定されるもの。
ドラゴンブレスを放たれる前に行った予備動作が発動モーションになるレベル6必殺技《インフェルノ・ステップ》は、必殺技ゲージの貯まり具合に関係なく発動可能で、発動した後は毎秒4%を消費しながら継続して効力を発揮する。その効力は発動中に脚部(膝から下)に炎熱属性を付与し、さらに周囲の炎熱属性を吸収――光線系の熱属性は無理――してしまうというもの。一応、体全体にも炎熱耐性が付くので、それでも1割程度削ってきたニーズホッグのドラゴンブレスがどれほどの威力があったかはわかるが、それすら吸収してのけたテルヨシの必殺技を称賛すべきである。
発動中のゲージのリチャージも可能なので理論的には半永久的に発動状態を維持でき、その間他の必殺技も使用可能ではあるが、デメリットとして任意での解除ができなく、必殺技ゲージがなくなるまで発動し続けてしまうこと。

それらの効力や発動機会を考えて、黒雪姫にも初見であって予測できずに怒られたのは仕方ないことだが、現状で絶大な威力を発揮したのは言うまでもなく、呆気に取られていたサルファの隙を突いて残り3割を切りそうだったゲージで《インパクト・ジャンプ》を使いニーズホッグの鼻面に強烈な飛び蹴りをお見舞いして、その反動で黒雪姫のところまで後退したテルヨシは、そこで必殺技ゲージがなくなって今度こそ黒雪姫と一緒に後退を始めたが、その途中で頭をガスンガスン叩かれたのはお約束。



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