アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜
□Acceleration Second1
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《エピナール・ガスト》と《サンセット・ボンバー》のタッグに勝利して現実世界に戻ってから、精神的疲労によって1度背もたれに寄りかかり長い息を吐く。
そこに向かい側に座っていたパドがスッと、その手にコーヒーカップを持って差し出してくるので、元に戻って自分のコーヒーカップを持って差し出されたカップに軽くぶつけてから一緒に勝利の美酒ならぬ、コーヒーを飲んで祝杯とする。
「ポイントは大丈夫?」
祝杯を飲んでから、残りの休憩時間を確認して唐突にそんな質問をテルヨシにぶつけたパド。
それが意味するところは、今日のこの日のために上げたというレベルによって失われたバーストポイントの安全マージン。
さすがに大量のポイントを消費するとあってパドも心配になっていたのだろうが、その質問に笑ってみせたテルヨシは、ニューロリンカーのグローバル接続を切りながらちゃんと答える。
「問題ないよ。パドには正直に話すけど、これでもう100ポイントくらいで『届く』からさ」
「…………最近、バトロワ祭りでも最後まで残ってるって聞いてたけど、いつから?」
「最初からだよ。オレがバーストリンカーになったその日から。んー、決心という意味ではたぶん、あのイベントの最中。或いはその後すぐ、かな」
テルヨシの答えに、穏やかな雰囲気を出していたパドは一瞬で切り替わったようにその目に真剣な色を含ませ、核心を突く質問をしてきたため、前回の対戦の際には言及を免れたが、さすがにもう黙って通すことはできないかと諦めてその心の内を明かすと、聞いたパドは沈黙。
何かを考えながらジッとテルヨシを見つめて、全てを理解したようにその目を1度閉じてからもう1度テルヨシと向き合って口を開いた。
「……それがテルの生き方なら、私は何も言わない。だけど『そういう姿勢』で臨んでも意味はないと思う」
「……何も言わないって言ってそう言ってくれてるのは、パドの優しさだよね。……わかってるよ。でも、そうなってから後悔したくはないから、やるんだ。オレが、オレの進んだ道をしっかりと刻むために」
やはりテルヨシの考えはだいぶ見透かされていたようで、さらなる核心に迫る助言をしてきたパドに、自覚はあることを告げる。
そんなテルヨシのまっすぐな言葉に、ずいっと身を乗り出してテルヨシの両頬を手で挟んでアヒル口にし、その顔に近付いてから思わずドキッとしてしまうような優しい笑顔で、
「休憩時間終了。バイトに戻る」
予想だにしなかった唐突な休憩終了を告げることでの話の終了に、完全に思考が停止してしまい、あの一瞬でもういつも通りになったパドはコーヒーを飲み干してからさっさと休憩室を出ていってしまって、何か淡い期待をしてしまった自分がとてつもなくアホっぽかったテルヨシはそれに遅れてコーヒーを飲み干して追うように休憩室を出ていったのだった。
勝利の余韻がまだ残る中でバイトを終わらせ、帰宅の準備を整えたパドとマリアと一緒に店の裏から出て表の通路に出たテルヨシは、いつものようにそこでパドと別れてバス停へと向かうのだが、今日は少しだけ変わったことが起きた。
表の通路に出たところで明らかに自分、またはパドかマリアに用がありそうな同い年くらいの学校の制服を着た女子が近寄ってきたのだ。
その女子生徒は長い黒髪をつむじ辺りでまとめていわゆるパイナップルヘアーにしていて、どちらかといえばキリッとしたカッコ良い系の子で、それでもなんとなく小さな仕草などは女の子らしくてギャップ萌えするタイプ。
そんな分析を近寄ってくるまでにしたテルヨシの本能レベルの習性はさておき、その女子生徒に見覚えのないテルヨシはパドとマリアに視線を向けて知り合いかとアイコンタクトする。
マリアは当然ながら首を横に振り知らないと示したが、パドは何か心当たりがあるのかすぐには首を振らずに珍しく思考。
「……なるほどね。アンタ達がそうか」
その間にテルヨシ達のすぐ近くまで来た女子生徒は、テルヨシ達をゆっくりと見回してから1人で納得したように口を開き、左手を腰に当てて右手人差し指を立てビシッとテルヨシを指す。
「アンタが《レガッタ・テイル》ね」
そこから繰り出された言葉は思いがけないことで、言われたテルヨシは表情には全く出さずに何を言ってるんだくらいの顔までしてみせたが、隣にいたマリアが素直に驚いてしまって可愛い反応で口をあんぐり。
咄嗟の事だから責めることはできないが、反応しちゃったマリアをすすっと背中にスライドさせてパドに視線を向けると、そのパドは焦った様子もなく女子生徒に視線を固定している。
「それでその可愛い子が《ソレイユ・アンブッシュ》で、無愛想っぽいお姉さんが《ブラッド・レパード》ね」
「だ、誰ですかあなた……」
周囲に人がいないのを確認した上で響かない程度の声量で見事に《リアル割れ》させてくれた女子生徒は怪しさ全開だったが、声だけである程度の人を判別できる謎スキルを持つテルヨシと長年の付き合いのパドは目の前の女子生徒の正体に気づく。
しかし警戒心が全開になったマリアはテルヨシの後ろからちょっと顔を出して女子生徒へと恐る恐る問いかけ、それを聞いた女子生徒はキョトンとしてから怖がらせたとわかって目線をマリアに合わせて屈み笑顔になる。
「急にだったから驚かせたわね。私は都田沙絢(トダサアヤ)。デュエルアバター名はエピナール・ガストよ」
「えっ……ガ、ガストさんですか……むごっ!?」
そこで初めて名乗ったサアヤに本当に驚いて大声を出そうとしたマリアの口を押さえたテルヨシは、立ち上がったサアヤと現実で初めて言葉を交わした。
「わざわざ出待ちなんて可愛いところあるのね、ガッちゃん」
「誰のせいでこんなことしてると思ってんのよ、バカ」
「ええっ!? 誰のせい?」
「アンタよアンタ! ったく、自分からリアル割れとかバーストリンカーとして初めてやったんだけど」
「そ、それはまたガッちゃんの初めてを奪ってしまって申し訳ない……」
「誤解を招く言い方はやめて」
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