アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜

□Acceleration Second2
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 七王会議を明後日に控えるという日の夜に、まさかの《エピナール・ガスト》こと都田沙絢のリアル割れと告白まで受けて、企てていたレベル10到達の計画を破綻させられたテルヨシは、しかし落ち込むわけでもなく自分にはできないだろうと思っていた彼女をゲットできた喜びでむしろ気持ちは上向き。
 帰宅後はハイテンションのままに夕食を作り、終始ニヤニヤしたままマリアに気持ち悪がられるなんてこともあったが、明日は明日で朝から大事な約束もあったので今日のタッグ戦の感想をマリアから聞いたあとはすぐに就寝。ようやく色々あった1日を終えるのだった。

「よっし。じゃあ行こうかね」

「惚気けて負けそう」

「ぬぐっ……そうならないように気を付けます……」

 翌朝。いつもよりも少し早く起きて登校の準備を整えたテルヨシとマリアは、これから行うある人物との対戦に気持ちを昂らせて家を出る。
 対戦するのはテルヨシだが、マリアも相手が相手なだけにワクワクを隠しきれずに、まだ走れないテルヨシに遠慮なしの早足でグングン先を行く始末。
 急かすマリアには困ったものだと思いつつも、そこまで楽しみにしてる対戦で無様な姿は見せられないなと変に緊張もしてしまうが、そんな緊張なんてすぐに吹き飛ばすくらいの仕打ちがされるだろうことも予想してマリアに急ぎすぎだとブレーキを掛けてもらう。
 2人はいつもなら梅郷中学校の近くで分かれて松ノ木学園に向かうマリアを見送るというのが日課なのだが、今日はテルヨシも少しだけ梅郷中学校を通りすぎて南下。
 周りに迷惑がなさそうなところで止まってニューロリンカーの表示する時間を確認し、7時30分にあと20秒ほどでなるというタイミングでグローバル接続。
 そして時刻が7時30分を指した瞬間に加速しマッチングリストを表示。そこに確かにあった相手の名前をタッチして対戦を申し込んだ。

 日の光さえも射し込む隙間のない曇天の空。その雲からは絶え間なく霧状の雨が降り続け《レガッタ・テイル》となったテルヨシの体にジワジワと水滴を作り出す。
 《霧雨》ステージはこれといった障害もなく比較的穏やかなフィールド属性となっているが、レーザーなどの攻撃には命中率にマイナス補正がついたりとあるらしい。
 そんなのはそもそもの攻撃手段としてレーザーなどがないテルヨシには関係ないので不利に働くことはないよなとちょっと悲しくなりつつも自己完結し、霧雨によって若干ながらに視界が悪い程度の環七通りのど真ん中で【FIGHT!!】の炎文字が現れて消えるのを確認。
 次いで視界上のゲージに意識を向け、対戦相手となる右側のデュエルアバターの名前を見て間違いなく《スカイ・レイカー》であることを確認し、ようやく対戦に集中する意識作りを完了させる。

「カーソル、あっちだよ」

「うしっ。じゃあ盛大に吹っ飛ばされてくるかね」

「えっと、弱音?」

「ははっ。レイカー相手に泥臭く戦おうって意思表示。負ける気はないよ」

 隣には観戦者として《ソレイユ・アンブッシュ》になったマリアがいて、動かないテルヨシを見ながらガイドカーソルが環七通りを南にほぼまっすぐ示していることを教えてくる。
 あのレイカー相手に華麗な勝利などあり得ないので、そうした意味の言葉で暗に言ってはみたものの、マリアには表現として難しかったらしく、言い直してから2人で環七通りを南下し始めた。
 事前に決まっていた対戦とあって、これを実現するために間に入って交渉してくれた黒雪姫は、組むのはいいがとある条件も出してきていて、レイカーと会ったら有無も言わさずにバトル! とはならないとわかってるために比較的のんびりと環七通りを南下していた。
 しかしそれもガイドカーソルがその表示をやめたことで終わりを告げ、前方には車椅子型の強化外装に乗ってテルヨシ達を待つレイカーが、着ていたつば広の帽子とワンピースを濡らしながらも手を振って挨拶してきた。
 それに軽く会釈したテルヨシとマリアは、次に周囲へとその目を向けてこの対戦に入っているだろう観戦者を探すが、まだ到着はしていないようだった。

「話には聞いたけど、本当に戻ったのね、その足」

「はい。テイルさん達の作戦と鴉さんのおかげでこの通り」

 その観戦者なしに対戦は始められないので、時間潰しに会話に興じて、まずは前回の《ヘルメス・コード縦走レース》の時からの変化。
 その時には残念ながら消失していたレイカーの膝から下の足が存在していることに触れ、喜ばしいその事実にレイカーもワンピースをたくし上げて健在のおみ足を披露。

「じゃあ私のおかげでもあるわけよね、レイカー」

 そんな和やかな会話に割り込んできたのは、何故かちょっと上からの物言いの人物で、テルヨシ達のいる環七通り沿いの建物オブジェクトの1つの屋上にいたその人物に3人が目を向け、視線を集中された人物、サアヤは腕組みしながらレイカーをまっすぐに見る。

「あらガッちゃん。偶然の観戦にしては良いタイミングね」

「アンタがガッちゃん言うな。それに偶然じゃなくてちゃんとお招きを受けてるわよ。そこの自信過剰男にね」

「自信過剰って……」

「レベルで並んだくらいで勝てる相手じゃないってのに、どうやったのかこんなカード組んで。労力を考えたら勝つ気満々じゃないのよ。それが自信過剰じゃなくて何なのかしらね」

「紛うことなき自信そのもの!!」

「アホだ……」

「テイルがアホでごめんなさい」

「……アンが謝るの?」

「子の務めかなって」

 挨拶こそレイカーに対してだったサアヤなのだが、いつの間にかテルヨシとマリアとの掛け合いになってしまってレイカーが蚊帳の外という状況。
 本来ならレイカーのような立場なら呆然としてしまうが、大人なレイカーはその状況でも呑気にクスクスと口元に手を添えて笑ってみせて、笑われたテルヨシ達はそこで掛け合いをやめてサアヤが咳払いし相手をレイカーにし直す。



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