アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜

□Acceleration Second3
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 始まった《スカイ・レイカー》との壮絶な対戦は、残りHPゲージを互いに3割ほどにしたところで佳境を迎える。
 両者がダメージからの回復を待つインターバルで会話に興じている間、テルヨシは後ろで《テイル・ウィップ》を巻き貝のようにして窪みのある器を作り、そこに絶え間なく降り続ける霧雨で雨水を貯めていた。

「まぁオレが挑戦者って立場だし仕方ないけどさ、ここらでレイカーから仕掛けてくるってのもいいんじゃない?」

「そういえばわたしは受けだけでしたね。そちらの方が性に合ってるというのはありますけど、得意分野でだけ挑戦者に受けて立ってもカッコ悪いですね。その挑発、乗ってあげますよ」

 その雨水がある程度貯まるタイミングを体に出来る水滴からおおよそで割り出して、振り向くことなくレイカーを挑発するテルヨシ。
 というのも雨水を貯めた状態で自分が仕掛けるにはちょっと動きがぎこちなくなってしまって、それによってレイカーに付け入る隙を与えてしまいかねなかったから。
 もちろんレイカーが視覚的に見えなくはされてるテイル・ウィップに気づいていてあえて挑発に乗ってきた可能性もあるので、作戦が失敗することも視野に入れて動く必要はあるが、失敗を恐れて何もしないことの方が愚か。なら先の先を読めばいい。

「……いきますよ」

 この対戦で初めてレイカーから仕掛けてくることに少し緊張しつつ、そんな断りを入れてから仕掛けてきたレイカーの進撃はテルヨシの全速よりは遅いまでも近接系としての素の速度では速い部類。
 《ゲイルスラスター》による加速は使わずに接近してきたところから、勝負どころはまだのようだが、テルヨシ的には使われる前に決着が望ましい。
 一直線に迫ったレイカーは構えるテルヨシに対して抜き手のような右手の突きで先制し、顔めがけて来たそれにビビることなく最小の動作で外側に躱してカウンターのパンチを顔面に叩き込もうとする。
 しかしそれはレイカーが誘い込んだ攻撃であったのか、繰り出したパンチは左手で完璧に受け止められて、クロスする右腕がテルヨシの右腕を絡め取って合気道に似た技で関節の稼動域を利用して地面に倒そうとしてくる。
 曲がらない方向に曲げられる関節に上手く力が入らないテルヨシは為す術なく地面に倒されそうになるも、その力に抗わずに逆に勢いをつけることで体を1回転させて転倒を阻止。
 ついでに極められそうだった右腕も抜き取って着地後すぐにバックステップし体勢の建て直しにかかる。
 が、それすら読んでいたらしいレイカーの動きは機敏を通り越して予知に近く、バックステップしたテルヨシと速度を合わせて距離を詰めて間を開けさせずに左右の手から繰り出された水平チョップが空いた両脇腹へと突き刺さりHPゲージがガリッと1割削れる。

「肉を、切らせて……」

「──ッ!!」

 それでもテルヨシは怯むことなく繰り出されたレイカーの両腕を掴んで挟み拘束すると、その伸ばされた腕の肘を狙って膝蹴りで強打。
 関節も意識したそれにはレイカーも抗えず、命中した左肘は激しいスパークと共にHPゲージを1割削り、肘は良からぬ方向に折れてしまう。
 いくら仮想世界でのこととはいえ、骨折レベルの損傷はレイカーの思考をわずかに鈍らせ、動きが止まった瞬間を見逃さずに腕を放して1歩後退。
 ここで貯めに貯めたテイル・ウィップの雨水をレイカーの顔面めがけてぶっかけて思考と同時に視界も一瞬奪って攻撃へと転じ、深く屈みながらの時計回りの右足払いでレイカーを宙に浮かせ、足払いから流れるように軸足で強引に立ち上がりながら今度は倒れかかったレイカーの頭に渾身の回し蹴りを叩き込む。

「だっしゃらああぁぁあ!!」

 叫ばずにはいられない気力全開の攻撃はテルヨシからすれば完全に不可避のものだった。
 事実、テルヨシの回し蹴りは倒れかけるレイカーに命中したのだ。
 しかしレイカーはテルヨシの蹴りが当たったのと同時にいつの間にか上下で逆に噴射口を変えていたゲイルスラスターを起動して蹴りの振り抜き速度を越える速度で横へと動きダメージをほぼ無効化。
 結果的にレイカーの頭を軽く撫でた程度の蹴りにしかならなかった渾身の攻撃がフォロースルーに入ったところで、レイカーがゲイルスラスターを起動したまま地面を蹴って体の向きを調整して噴射口を元の位置に戻し、そのまま攻撃へと転じてきたのを確認。
 全力の蹴りだったのと、強引な立ち上がりで酷使した左足がガクガクになっていたのもあり、レイカーの接近に対応が遅れたテルヨシが取れた咄嗟の行動はインパクト・ジャンプによる緊急回避。
 物凄い速度で迫ったレイカーはなんとかやり過ごせたが、必殺技発動時にモロに力を込めた方向がわかる感じにしてしまったせいで、大きくバックジャンプしてテイル・ウィップの補助付きで着地は成功したが、その時にはもうレイカーが方向転換を終えてテルヨシに再度迫ってきていて、もう1度だけ使えたインパクト・ジャンプを使う暇もなくゼロ距離に迫ったレイカーの突き出された右ストレートがクリーンヒット。
 壮絶な加速を得たその拳によって残りのHPゲージは容易く吹っ飛んでしまった。

 ──惜しかったなぁ。
 そんな感想を抱きながら物言えぬ浮遊霊のような存在になって死亡マーカーの付近であぐらをかいたテルヨシは、視界の【YOU LOSE】の炎文字を見るまでもなく敗北を受け入れて反省会。
 思考と視界を奪ってまで仕掛けた攻撃が避けられるなんてこれっぽっちも考えてなかった。
 それが敗因だなと自分の慢心に渇を入れていると、死亡マーカーの近くにレイカーが近寄ってきて、健闘したテルヨシに労いの言葉をかけてくれる。

「ナイスファイトでしたよ。遠ざかりつつあったわたしの対戦勘がギリギリのところで戻らなければ、結果は変わっていたかもしれません。また機会がありましたらお手合わせ願いたいですね。テイルさんは不思議とそう思える清々しさがあります」

 凄く嬉しいことを言ってはくれたのだが、生憎とその言葉に物理的に返事ができないテルヨシは、あとで黒雪姫にメッセージを伝えてもらわなきゃなと思いつつ、その言葉を受け取ってレイカーがこの対戦を閉じたことで現実世界へと意識が戻されていった。



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