アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜

□Acceleration Second4
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 2047年6月16日、日曜日。
 《ヘルメス・コード縦走レース》から丁度1週間となった今日この日。
 加速世界で大きな意味を持つ会議が行われようとしていた。
 約3年前に、たった1度だけ開催されたレベル9バーストリンカー《純色の七王》が集まった《七王会議》。
 それが今日、これから数分後の午後2時ジャストに青のレギオン《レオニーズ》の幹部《コバルト・ブレード》と《マンガン・ブレード》の対戦にギャラリーとして入る形で行われる。

 昨夜、突然のサアヤの宿泊で、翌日に流れでデートでも誘われたらどうしようかと思ったのだが、サアヤも午前中は習い事があるからと朝食後にあっさりと帰ってくれてひと安心したのも少し前のこと。
 そんな嬉しいハプニングのあとに会議の場として指定された千代田戦域。
 その広大な戦域の中でテルヨシも会議への参加要請を受けて現在、午後1時56分となった時刻に電車を利用して地下鉄の水道橋駅を降り、その近辺で腰の下ろせる場所にて待機していた。
 会議は参加者のみに時間と場所が開示されているため、基本的には今日の会議を知るバーストリンカーも極一部──7大レギオンのマスターと幹部くらいだろう──となっていて、サアヤはもちろん、テルヨシの《子》であるマリアもこの会議については知らず、今は新学期になってからやっている学校の委員会の用事で日曜日ではあるが登校している。

 そんな事情のある中で行われる会議も気付けばもう開始1分前。
 何かのミスでギャラリーとして入れなかったら大事なので、一応この段階からニューロリンカーをグローバル接続して、観戦者登録がちゃんとされてるかの確認もしておき、視界の時刻が午後2時を示した瞬間。
 テルヨシの耳に聞き慣れたら加速音が響き、次いで【A REGISTERED DUEL IS BEGINNING!!】という炎文字が現れ消えると、対戦フィールドの構築とデュエルアバターへの変身が完了した。
 視界上を見ればちゃんとコバルとマーガの名前が左右に表示されていたので、ギャラリーに入れたことは間違いないかと安心しつつ、今回の構築フィールドである《魔都》ステージの物々しい雰囲気がこの先の会議の雲行きを表しているような気がしなくもない。
 とかなんとか思いつつも100秒以内に集合するようにと指示があったことを思い出して、ガイドカーソルが示す場所を目指してギャラリーに与えられた移動力を最大限生かして動き始めた。

 ガイドカーソルが指し示していた場所は現実世界においては侵入不可の《皇居》において一般開放されている《東御苑》の辺り。
 そこの小高い丘の上に見知った姿のデュエルアバターがすでに何人か姿を見せていて、そこへと続く道に降りて階段を上がり、広大な石畳と鋼鉄の円柱が輪を作って立ち並ぶ空間へと辿り着く。
 テルヨシの視界にまず映ったのは背中を向けて奥のコバルとマーガと話しているっぽい《ブラック・ロータス》《スカイ・レイカー》《シルバー・クロウ》の3人。
 雰囲気的に良くはなさそうな両陣営には少なからず因縁があるのだろうから仕方ないとしても、それが続くのはどうかと思ったので、無駄に跳躍して空中で無駄な回転やら捻りやらを加えて両陣営のど真ん中に着地。

「この喧嘩、オレが買う!」

「…………いや、喧嘩など始めからしていないぞ、テイル」

「そうですよテイルさん。あちらが最初から喧嘩腰なだけで、わたし達は和やかに会話していただけです」

「「貴様ら、ぬけぬけと」」

 一応、空気を読んだ上でシラケるかなぁといった言葉で流れを変えにいったのだが、黒雪姫とレイカーがまさかの流れを戻そうとするもんだから苦笑い。

「コバルちゃんもマーガちゃんもカリカリするとシワが増えるからそのくらいにしておきなって。ナイトもカッコつけて座ってないで止めてやればいいのに」

 人を煽る才能は何故か高い黒雪姫とレイカーを諭したところで右から左に流される気がするので、ここはコバルとマーガに大人になってもらおうと言葉をかけつつ、2人の後ろで円柱の柱を綺麗に横一線して椅子にしたものに腕組みしながら腰を下ろす《ブルー・ナイト》にも仲裁に入ってもらう。
 そもそもコバルとマーガはナイトがひと声かければ喧嘩などすぐにやめるくらいには従順なのに、それをせずに後ろでニタニタしてたのだから、黒雪姫とレイカーに負けず劣らずの性格のひねくれ方だ。

「いやぁ、止める前にお前さんの姿が見えたから、なんか面白い止め方するかなと思ったんだが、期待を裏切らないねぇ」

「ご期待通りに動いたんだからこれで終わりでいいだろ? 無駄話してると登場するにできない連中が困るだろ」

「おっと。時間も有限だしな。これはテイルが正論だし、コバルもマーガもその辺にしとけ」

「「はっ」」

 かつて赤の王《レッド・ライダー》の首を取った黒雪姫を前にして、そのライバルであり親友だった男がこうまで落ち着いて余裕すら見せるのは恐怖もあったが、頭に血が上ったトップが会議にいたら荒れるだけなので大人な対応をしてるだけなんだろうと思いつつ、喧嘩腰だったコバルとマーガもナイトの声でその脇に移動しようとする。
 しかし会議の場にしてはナイトだけ椅子が用意されてるという不公平さは拭えず、その辺で黒雪姫が「椅子を用意しろ」と言うと、また喧嘩腰になりそうになったコバルとマーガを押さえて「その通りだな」と対戦者である2人に指示。
 その指示を受けて渋々にも見える態度で半円を描くように並んだ柱を6つ、腰の刀型強化外装で鋭い抜刀から両断し手頃な椅子を作り出した。

「……へいコバマガちゃんズ。椅子が2つほど足りないYo!」

 だが用意された椅子はナイトのを含めて7つ。
 今回の会議では王の頭数とは一致するものの、呼ばれたテルヨシともう1人の分がないから、その辺をふざけつつ指摘するが、それが聞こえてなかったかのように平然と刀を鞘に納めてしまうコバルとマーガは、もはや抜刀の気配すら出すことなくテルヨシを見て言葉を放つ。

「何故お前のような傍聴者に王と並ぶ席を設けねばならん」

「バカはバカなりに立場をわきまえろ」



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