アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜

□Acceleration Second5
1ページ/3ページ


 約3年ぶりに開催された《七王会議》ではあったが、以前とはすっかり変わってしまった各陣営の諸事情などでいまいち進行が悪く、残り時間もあることだしとテルヨシはこの悪い流れを断ち切るためにその場で寝そべってあからさまな退屈ムードを醸し出し始める。
 突然のそれには隣のカタフがやめるように小声で言いかけたが、その前に目ざといレディオが不機嫌なオーラを放出してテルヨシを見てくる。

「その場で最も立場の低いあなたがそのような態度でいるのはどうなんですか。《蒼き閃光》?」

 その言葉によって会議も1度は中断のような雰囲気になって、みんなしてテルヨシを見ては冷ややかな視線を浴びせてくるが、それは甘んじて受ける覚悟でやった行動なので目論見には成功しあぐらへと戻る。

「じゃあ多数決とかそういうのでも決めるべきことはスパッと決めてくれない? 譲れない部分ってのは誰だってあるだろうけど、全員が納得できる妥協点ってのを出すのが建設的だと思いますがね」

「ほう。ではあなたが何か意見することでもありますか? 言い出しっぺとして」

「オレからは特にないよ。あるとするなら《シルバー・クロウ》を傘下に入れる《ブラック・ロータス》だろう。この件が議題に上がるのなんて予測できてたことなんだ。だったら目くじら立てないでとりあえずロータスの意見っつーか、提案を聞くべきじゃね?」

 そうやって王からわざわざ話しかけさせて発言権を得たテルヨシは、喧嘩腰なソーンやレディオをなだめつつ考える時間は十分にあった黒雪姫が無策で臨んでるわけもないとわかってたから、そのまま黒雪姫へと発言権をパス。
 それを受け取った黒雪姫はテルヨシがこうなるようにとした行動に気づいてアイコンタクトで「礼は言わんぞ」と示すと、本当にちゃんと考えてきた提案を王達に述べる。

「現状、クロウの手元に《災禍の鎧》があるのは事実だ。しかし先の一件の後はベルのおかげで非装着状態まで時間を巻き戻すことに成功し、自らの意思で再び装備しない限り、鎧の干渉は限りなく弱いようだ」

「だが『弱い』ってことは、そのまま持ち続けてるのも危険だわな。どうする、ロータス?」

「この一件でわかったことだが、鎧には対戦後も残る呪いや寄生といった属性が付与されている。だからそれらの属性を排除できる者に試させてみたいのだ」

 決して王達に頭を下げるような要求ではなく、対等な目線から「試させろ」と言ったに等しい黒雪姫は、先のイベントで壊滅的な被害を出さなかった功績がこちらにあるという立場も利用していて実に上手い。
 下手に下からいけばレディオ辺りから速攻で却下が入りそうなものだが、チャンスは与えるべきな空気を醸し出しながらのこれにはレディオもソーンもだんまり。
 しかしナイトが指摘したようにハルユキを蝕む鎧の干渉は弱いだけで全く問題ないわけではない。
 いくら試したいことがあっても、それが成功するかしないかはチャンスとはまた別問題になる。

「ロータスの話はわかった。それに対して意見も出ないみたいだし、それはまぁ大いに試せ。ただし」

「期間は必要ということだろう。ならば来週、またこの会議を開いてもらい、その時にクロウから鎧を排除した証明をする」

「それに関しては……あー、デュエルアバターのステータスやらを見れるやつがいるし、そいつを呼べばなんとかなるか。だがもしも鎧の排除に失敗した場合は、悪いがクロウに賞金を懸けさせてもらうぜ」

「その大義名分を得た鴉の退治に関して、対戦の勝利数に応じたバーストポイントの付与ということにしてはどうでしょうね?」

「ケッ。他人事だからってそういう話を意気揚々とするのは気分が悪ぃなレディオ」

「おやおや、前回の鎧の被害者が乗り気でないとは面白いものですね。ここは率先して事に当たるのが普通では?」

「誰だろうとバーストリンカーをこの世界から意図的に消そうって話だろ。それを楽しそうに話すお前の方があたしは普通じゃないと思うぜ」

 そしてちゃんとわかってる王達はこの話に期間を設けて、次回の会議でハルユキの今後を決めることまでスムーズに決定。
 鎧の解除に失敗した場合の話にはレディオとユニコが口論を繰り広げたが、ナイトがなだめるように2人に言ってから話を進行する。

「クロウの賞金についてはレディオのを採用する。その働きが加速世界に貢献するわけだし、危険も伴うんだから当然だ。ロータスもその覚悟で事に当たれよ」

「無論だ。貴様らにクロウを狩らせるような事態には決してしはしない。だからその間に『余計な茶々』は入れてくれるなよ」

 残り時間もいよいよ600秒を切ったこともあり、鎧の件はこれで終わる流れになったが、最後の黒雪姫が明らかにレディオを見ながら言うもんだから、そのレディオも口は開かなかったものの、その手を挙げて「そんなことしませんよ」みたいなジェスチャーはしてみせるが、おそらくこの場の誰もが100%信用はしていないだろう。
 だからこそあえて口にすることで『妨害があった場合は全てレディオの仕業だ』とする流れを作ったわけだ。
 これはもう日頃の行いとか言動で損したなぁとかなんとか思いつつ、言葉だけで牽制されたレディオの自業自得は影で笑い、流れをぶった切ってした鎧の話から加速研究会の話に戻る。
 とはいえ現状で加速研究会については何ひとつ明確なものがないために話そうにも何も具体的な話はできず、目的すらわからない不気味な組織については情報収集の継続と要警戒といったフワッとした決定になってしまう。

「なんか締まんねぇ話にはなったが、テイル、カタフ。とりあえずお前らんとこのバトロワ祭りでも何か起こるかもしれねぇ可能性は考えておいてくれ。今日もやるんだろうし、実際に何かあった場合は次回の会議で挙げてくれや」

「そんな悠長でいいのか? 1時間後の話を来週までってのはどうなのよ」

「それならガスト辺りから経由してプロミに話を通して周知させろ。カタフの方はソーンかレディオのとこと繋がらねぇか?」

「それならCCCの《レモン・ピエレット》さんと浅いっすが繋がりがありますっす」

「んならレディオに任すわ」

「やれやれ。どうして墨田戦域は私達の領土の近くにあるのか」



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ