アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜
□Acceleration Second6
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《七王会議》が終わった後に開催されたバトロワ祭り。
いつものようにみんなでワイワイガヤガヤとフィールド全域でドンパチをやってたと思われたが、テルヨシの前に現れた《ゲーテ・スピン》が何の会話もなくテルヨシへと《心意技》で攻撃してきて、《射程拡張》の黒いエネルギー直射砲《ダーク・ショット》はそれなりの速度で迫ってきたが、予備動作を見逃さなかったテルヨシはなんとか初見で回避することに成功。
外れたダーク・ショットは《世紀末》ステージの壊滅的な破壊は不可能な建物オブジェクトの壁に当たって、深々と奥が見えないほどの穴を穿ってみせ、その威力が正真正銘の心意技であることを伝えてくる。
「お前……何でこんな……」
スピンが心意システムに関して知識があるなら、当然ながらこんな愚行に及ぶことはあり得ない。
実際に手合わせを何度もしたからわかるが、スピンはテルヨシと同じくらい対戦に対して純粋な思いを持っていて、勝っても負けても最後は笑い合えるような爽やかな面が強かった。
だからこそ、心意システムを対戦に持ち込むことの理不尽さなどに配慮が及ばないわけがないと確信するテルヨシは問いかけずにはいられない。
そんなテルヨシの問いかけに対してスピンは、テルヨシへと向けた手から黒い過剰光を出したまま、クスクスと不気味に笑ってみせる。
「ふははははっ。何でだって? キレるお前にしては勘が悪いな。この攻撃に大した動揺がないってことは、お前も使えるんだろ? これと同じ力をよ。ダーク・ショット!」
ここでようやく口を開いたスピンだったが、問いかけに対して問いかけで返して、ついでにまたダーク・ショットを放ってきたので、警戒していたテルヨシはまたそれを避けてみせたが、不気味な雰囲気のスピンにどう返すか迷う。
「目は口ほどにものを言うってな。その目でわかっちまう。ったく、やってられねーんだよ」
「…………やってられない?」
「そうだよ。俺達が毎日どうやって対戦で勝てるかとか、どんなアビリティや必殺技の使い方がとか、そんなことを考えてる横で、こんな理不尽なことができるやつがいる。戦術も努力も全てを無にするほどの力だぜ。やってられないと思うだろ?」
「…………」
「それによ、お前も含めてこんな力を隠して、知らなかった俺みたいなやつらとワイワイ楽しくー! なーんてやってても、内心では『本気を出せば余裕で勝てる』って思ってたんだろ!」
その沈黙が悪かったのか、スピンの何かに火を点けてしまったようで、心意の存在がチラついたことでその力を使えるやつらが『本気を出していない』と誤解してしまってるのが今の話でなんとなくわかった。
確かに心意システムがどんなロジックで存在するかをちゃんと理解していないと、急に見せられた側からすればそうした理解に及ぶのは普通のこと。
そのスピンの口ぶりから違和感を覚えたテルヨシは、その辺を聞こうと会話に持ち込むために落ち着かせようとするが、その前にスピンの方から突っ込んできてしまい、その手に宿した黒の過剰光を揺らめかせて拳を振りかぶってくる。
「《ダーク・ブロウ》!」
今度は射程拡張を使わない、近接攻撃が飛んできて、単調だったゆえに簡単にバックステップで回避はできたものの、空振りした拳が地面に当たったのと同時に、その周囲の地面はクレーターを作るように抉られ、その余波が距離を取ったテルヨシのところまで伝わって威力を物語る。
おそらくは《攻撃威力拡張》の心意技なのだろうが、それを見てもやはり違和感しかないテルヨシは、自分の心意技の威力証明を終えて佇むスピンに改めて言葉をかける。
「その力、自力でどうこうしたもんじゃないんじゃないか?」
「……譲ってもらったのさ。これを使えばお前らが隠してたものと同じ力が使えるようになるってな」
「譲る? それはそんな簡単な代物じゃ……」
ここまでのスピンを見て感じたテルヨシの違和感。
それはスピン自身が自力で習得した心意技にしては、その原理についての理解が及んでいないこと。
スピンの言動からもわかるが、スピンは心意技を『ゲーム内で使える必殺技やアビリティと同類の隠し技』くらいの認識でしかないっぽく、事象の上書きという侵食に近い現象であることに気づいていない。
そして何より、先週のイベントからまだ1週間しか経っていないこの期間でこれほどの心意技を習得できるとは思えないのだ。
もちろん《無制限中立フィールド》に籠って何ヵ月も苦労して習得したというなら納得もできなくないが、それなら先に挙げたような心意システムへの理解があって然りだ。
この違和感からのテルヨシの言葉に対しスピンは、この力が他人から『譲られたもの』だと言ってみせ、それには今日一番の驚きを面に出してしまう。
「やっぱお前も使えるんだな。ますますくだらないって思うぜ。実際、ここまで遭遇したやつらなんて、全員この力だけで簡単に消し飛ばせたからな」
心意システムを理解もなく譲渡し即時使用できるようにする『何か』に恐怖すら感じたテルヨシの呟きでテルヨシも心意が使えると確信したスピンの雰囲気がより一層で黒いものを帯びたのを察知。
しかもここまでの対戦で生き残ったのも全てこの心意技によるものだと話すから、自慢の両手足の駆動部分が傷ひとつない理由も判明してしまう。
「こんな力があってずっと使わないまま、お前は今までどんな気持ちで俺達と対戦してたんだ?」
「楽しかったよ。純粋に、熱く、激しく、気持ちと気持ちをぶつけて、どういう戦略が通用したとかしなかったとか、そんなことを言い合って笑える毎日が……」
「嘘を言うな!」
嘘などどこにも入る余地がないほどの本音を珍しく口にしたテルヨシだったのだが、心意のことがある以上、今のスピンには煽りにしか聞こえないようで、感情的な叫びが悲痛に思えてくる。
──助けなきゃな。
自分の『言葉』がスピンの心の奥底に届かないのなら、何度もぶつけてきたもので届かせるしかない。
そしてそれを以て闇の中に足を突っ込んでしまっているスピンを救い出す。
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