アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜

□Acceleration Second7
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 バトロワ祭りも終盤に差し掛かり、なんとか外部から入手したという心意を扱えるようになる『何か』から《ゲーテ・スピン》を解き放ったテルヨシ。
 それで調子を取り戻したスピンとそのままガチンコで対戦を再開させたまでは良かったのだが、全開のスピンの猛攻によって優勢は一気になくなり、渾身の必殺技《ジャイロ・ブレーカー》によって、物凄い勢いで建物オブジェクトへと激突させられる。
 ジャイロ・ブレーカーには短いながらもスタン効果が付与されているため、受けた時点で受け身すらまともに取れなくなり、かなり有用な必殺技と言える。
 おかげで盛大にダメージを受けたテルヨシのHPゲージは残り1割くらいにまで減少。スピンとの差はほぼなくなってしまった。

「げほっ……容赦ねぇ……」

「おら! 立てよテイル! まだHPゲージは残ってんだろうが!」

「ホント……調子いいのな……」

 もう互いにクリーンヒット1発で吹き飛ぶHPゲージながら、その闘志は増すばかり。
 さすがにウザいと思うくらいには元気になったスピンのテンションに苦笑しつつも立ち上がったテルヨシは、誰のおかげでその元気が出せたかと口に出したかったが、男がグチグチと言うのもカッコ悪いので、それは拳で返してやろうと煌々と輝く必殺技ゲージを確認して前へと出る。
 満タンではないので《インビジブル・ステップ》は使えないが《インパクト・ジャンプ》なら3回も使えるゲージ量は十分すぎる。
 スピンも必殺技ゲージの消費を抑えるために駆動部分の回転を止めてテルヨシの迎撃に構えるだけだが、スピンにはまだ必殺技が1つあり、それはジャイロ・ブレーカーより威力は落ちるが消費の少ない《ジャイロ・ショット》での攻撃がある。
 これも衝撃波なので発射点を見ないと避けるのは困難で、両手足から出せるせいでフェイントも混じえられると見極めも難しい。
 だからこそスピンの挙動に一瞬の見逃しもないように接近し、素振りを見せたらこっちがインパクト・ジャンプで先制するつもり──だったのだ。

「《ブラスト・ゲイル》!!」

「「へっ?」」

 だが2人のギリギリの攻防が衝突する寸前で、横からそんな必殺技発声が響き、目の前の相手に全身全霊で挑んでいた2人は、揃って間抜けな声を出して声のした方を同時に見る。
 それと同時に放たれたサアヤの必殺技ブラスト・ゲイルの発生させた横倒しの竜巻によって為す術なく吹き飛ばされた2人は、これも揃って建物オブジェクトへと叩きつけられてそのHPゲージを消失させられたのだった。

「アンタら、これがバトルロイヤルってこと忘れてんじゃないの?」

 消滅する寸前に聞こえたサアヤの声色は、もう呆れを通り越してバカに諭すようになっていて、2人してその事を完全に忘れていたことに気づき、とっても恥ずかしい思いでフィールドを出ることになったのだった。

 結果としてレベル8となって初のバトロワ祭りはマイナス収支で終わってしまい、ハイランカーのリスクを身をもって味わう苦い経験となったが、反省は帰ってからでも出来るのでグローバル接続を切らずにそのまままた加速。
 バトロワ祭りも終わってすぐなのでまだいるだろうとスピンの名前を探して対戦を挑み、さっきは流れが出来なかった話をするために、ドン引くくらいの観戦者──これもバトロワ祭りのせいだろう──をサアヤを除いて解散させて無観客状態に。
 スピンも用件はわかってくれていたので、先ほどのような熱いテンションは引っ込めて冷静な思考でどっしり腰を下ろして話をしてくれる。

「んで、スピンが譲ってもらったっていうやつはどんなもんなわけ?」

「ああ。俺もアイテム欄での名称くらいしかわからないんだが……」

 そうして正体不明の心意を扱えるようになる『何か』についてを話してくれたスピンの言葉は、始めこそテルヨシもサアヤも信じられないといった雰囲気になる。
 しかし先ほどのスピンを見れば真実でしかなく、2人はその現実を受け入れるしかなかった。

「テールー」

「……ん。なんだ、マリア」

 翌朝。
 家に帰ってからもスピンの話が頭から離れなかったテルヨシは、どうすればそんなものが出来るのかと思考し続け、それは朝食時まで長引いてしまい、大事な話をするマリアの言葉も半分程度しか入っていなくて反省。
 話自体はすでにサアヤがパド辺りに伝えてプロミにもいっているだろうし、登校すれば黒雪姫という頭脳もあるので、1人で唸りながら考えるよりは建設的な段階を踏もうと思考を一旦切って、マリアの話に集中する。

「今日は放課後にテルの学校に行くからねって言ってるんだけど」

「えーと、それはあれだよね。新校舎設立の際に無くなっちゃう動物飼育の飼育動物の引き取り先の1つとして、うちが場所を提供するっていう」

「そうだよ。その小屋のお掃除に行くから、今日はお店には行かないって話」

「ちょっと待った。ってことは同じ飼育委員でマリアの親友という『うーちゃん』もうちに来るってことだよね?」

「そう、だけど」

 改めて聞いた話から変な食いつきをしたテルヨシになんだか嫌な予感がしたのか、マリアがあからさまに表情に出してくるが、そんなのお構いなしなテルヨシは、さっきまでの難しい顔はなんだったのかといった笑顔でマリアにウキウキしながら話をする。

「じゃあ放課後にそのうーちゃんに挨拶しに……」

「嫌」

「……なしてさ?」

「どこの方言?」

「北海道とか色んなところかな。それより何で挨拶しちゃダメなの?」

「だってうーちゃん可愛いから、絶対テルが変なことするもん」

「テルヨシお兄さんは変態さんじゃないんですが……」

 当然、学校の話をすればほぼ名前が出てくる噂の『うーちゃん』も同行してくるだろうと読み、顔すら知らないその子に会いたいと思うのは自然。
 マリアと仲良くしてくれてる子だし、ちゃんと挨拶はしないとと半分以上は真面目な理由──残りは可愛いと聞いていたから興味本意ではある──なのだが、普段の性格がマイナス評価を与えるのか、マリアからは敬遠されてしまいガックリ。



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