アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜

□Acceleration Second10
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「すんげぇ1日だった……」

 《アーダー・メイデン》の無限EK救出作戦が行われた翌日。
 家に帰ってからはマリアと送ってくれて居座っていたチユリにポコポコと殴られながらに説教を食らい、翌朝には登校して早々に黒雪姫からわざわざ対戦の30分をフルに使っての説教を、ハルユキ達のギャラリー有り──タクムが風邪で欠席していたが──の中でされて、放課後はちょっと頑張って早く来た謡に【UI> 申し訳なかったのです】と謝られるという失態を演じて、ボロボロの精神状態でバイトを始めていた。
 そうなったのも全てがテルヨシのしでかしたことにして当然の報いになるのだが、みんなしてガミガミガミガミ言いすぎでビンタ1発──とちょっとのバカ連呼──で終わったサアヤが一番優しい怒り方だったなんてことが起ころうとは夢にも思わなかった。

 そんなこんなでバイトはキッチリとこなしながらも、今日のバイト終わりにはサアヤが立案する《無限かもしれないEK脱出作戦》が行われるので、その進行具合をイートインコーナーでくつろぐサアヤともう1人のセーラー服を着た女子高生を見ながらに確認する。
 サアヤと一緒にいる女子高生はすでに何度か来店歴があるので、テルヨシも顔と名前くらいは普通に知っている。
 名前は馬場園由梨(ババゾノユリ)。
 超を付けてもいいほどに美人で大人びておしとやかな印象を持ちながら、長い黒髪を左右2つに分けてお下げにしていて、まだ可愛さを残しているのがまた憎い。
 性格も凄く穏やかで礼儀正しくて、のんびりとした口調は癒しそのもの。
 何よりもあのパドをも凌ぐ豊満な胸は、店の女性客でも1度は凝視してしまうような代物。男ならよだれが垂れる。
 これを高校1年生。まだ16歳──誕生日的にはまだ15歳らしいが──で持つのは胸囲的……いや、驚異的と言えよう。
 そんなユリといつの間に仲良くなったのかと思いつつも、なんか楽しそうにしてるから作戦とか絶対に考えてないっぽいサアヤにジト目を向けつつ接客をしていると、それに気づいたサアヤが「わかってるっての」みたいな態度で楽しそうな会話を中断してユリと何やら別の話題で会話をする。
 少しして周りの客がテルヨシを呼ぶ声を出さなくなったタイミングでサアヤがテルヨシを呼び寄せて追加の注文がてら内緒話をしてきて、ユリの注文を聞きつつそれに耳を傾ける。

「んで、あのあと2人がどうなったか聞いたの?」

「2人? ああ、詳しい話はしてくれなかったけど、2人とも中で無限EKとかにはなってないみたい」

 ずいぶん端折って質問してきたから最初はピンと来なかったテルヨシだが、小声でする話なら加速世界のことだろうと思い、すぐに昨日の作戦でのハルユキと謡のことだとわかり、今日の説教ついでに黒雪姫がちょっとだけ話してくれたことをさらに端折って伝える。
 説教しながらだったからか、もう作戦には参加させない意思を示すように、帝城内で何かあったらしいハルユキと謡の詳しい話も、今後の作戦の話も本当にしてくれなかった黒雪姫は、とにかく2人が切断セーフティーでまだ帝城内にいながら無事であることだけ教えてくれた。
 それを考えると端折るも何もなかったが、それを聞いたサアヤは「ならいいわ」と軽い感じで流して注文を述べて、今度は今夜の作戦の話に入る。

「今日はイーターもれんこ……同行させるから、私はバイト終わりまで待ってあげられないから」

「じゃあどうすんの?」

「アンタにはユリを付ける。2人きりだからってあの凶悪なおっぱい触ったりしたら速攻で別れるからね」

「……えっ?」

 というかユリがいるのに小声とはいえこんな話をしても大丈夫だろうか。
 と思わなくもなかったテルヨシがどう切り出そうかと迷った瞬間、なんか衝撃的なことをサアヤが言うから、つい隣のユリに顔を向けると、そのユリは話がガッツリ聞こえていたのか、ニコッと笑顔を作り胸元で小さく手を振ってみせる。

「……どなたですか?」

「こほんっ。はて、誰じゃろうな?」

 話に理解があるということは、つまりユリもバーストリンカーであることは間違いないのだが、生憎と何度か会っていてもその性格と一致する人物がパッと浮かばなく、自分の知らないバーストリンカーかと思って問いかけてしまった。
 するとまだわからないのかといった雰囲気で笑ってから、小さく咳払いをして急にコッテコテのおばあちゃん口調をしたユリでようやく誰か理解して驚きの声をあげるのを寸でのところで止める。

「バーちゃん、か」

「ご名答」

 そんなコテコテのおばあちゃん口調を使うバーストリンカーは1人しか知らないので、目の前のユリが《サンセット・ボンバー》であることを確信し、すぐに元の口調に戻ったユリは話の主導権をサアヤに移して紅茶に口をつける。

「そういうわけだからバイト終わったらユリの指示に従いなさい」

「くっそぅ。あそこまで作ったキャラだとマジで見抜けん……」

「……話を聞きなさいよ」

 ユリの正体がわかったので話は理解できたテルヨシだったが、サアヤの話を聞きつつも何度も会っていながらユリがバーちゃんであることに気づくことすらできなかった事実に衝撃を受けてブツブツ言ってたら、ツッコまれながらその頭を軽くチョップされてしまったのだった。

 バイト後。帰宅の準備を終えてから、昨夜のようにユリを店に招き入れて、物凄いジト目を向けられたパドから再びプライベートルームを借りて、そこにユリと2人で入って隣り合ってソファーに座る。

「サアヤからはあまり詳しい事情は聞いてないのだけど、とにかくスザクのテリトリーでテル君が死んじゃったんだよね」

「まぁ色々あって不甲斐ない結果に」

「ふふっ。テル君がそんなことするってことは、そこに困ってる女の子でもいたのかな」

「オレの動機がいつも女性関連とは限らないのではないでしょうか」

「わかるよ。だってテル君は自分の目標には一直線でも、意外と堅実なところあるから、無茶するのは女の子絡み。何年見てきてると思ってるの?」

 まだ作戦の時間までは余裕があったので、時間潰しがてらユリから会話を切り出してきて、初めてユリと2人きりで密閉空間にいるというなんとも言えないいけない空気に珍しく緊張したテルヨシは、なんとなくその話し方にも緊張が出てしまい、それを笑いつつ話すユリは、ようやく互いにバーストリンカーであることを認識したリアルでの会話に嬉しそうな感じがあった。



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