アクセル・ワールド〜蒼き閃光U〜

□Acceleration Second103
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「これで、ラストぉ!」

 海ほたるPAで繰り広げられたテイムされたエネミーとの連戦も、残すところ《サンダーバード》1体のみとなっていた。
 その過程でテルヨシ、サアヤ、カタフの3人以外が倒される事態にはなったが、《タギツヒメ》と《イチキシマヒメ》の援護が強力で、まともな攻撃手段も移動すらほとんど出来なくなったサンダーバードはそのサイズからテルヨシ達への攻撃が大味に。
 タギツヒメの《センジュ》によって出現した無数のキューブが足場とサンダーバードの動きの制限の役割を果たして、空中戦も難なく出来たテルヨシ達面白いようにサンダーバードの頭に嵌められたテイム用の冠に攻撃を当てていく。
 そして冠に大きな亀裂が走ったところでテルヨシの渾身の蹴りが炸裂して、サンダーバードを縛っていた冠を完全破壊。
 テイムから解放されたサンダーバードは、タギツヒメとイチキシマヒメによる妨害が解除されると、雄々しく羽ばたいて上昇し東京方面へと飛んでいってしまった。

「やっと終わったぁ……」

「もう無理。しばらく動きたくない」

「ハハハ……同感っす」

 これでテイムされていた10体のエネミーの解放は達成されたので、迫る危機を乗り越えたことは間違いないため、ようやくの安堵の時に全身を投げ出して脱力するテルヨシ達。
 最初の《マンティコア》から実に約3時間もの間、戦い続けたのだから、その精神的疲労はとっくにピークを過ぎていた。
 最初に死んだユリとクラリッサがあと10分程度で蘇生するので、残りの3体は50分ほどで解放したことになるが、最後のサンダーバードはタギツヒメとイチキシマヒメがいなければそもそもまともに戦うこともできなかったことを考えれば成果としては最上のものだろう。
 この結果にはタギツヒメとイチキシマヒメも満足そうに近づいてきて労いの言葉でも貰えるのかなと思っていた。
 が、完全に脱力モードに移行していたテルヨシはこの状況に対して強い既視感というか、デジャヴのようなものを感じ取り、背中に悪寒が走る。
 この状況は先日の《メタトロン》戦の直後と同じ……
 そうと考えたのとほぼ同時に周囲に変化が起こり、わずかばかり周囲の影に体がかかっていたカタフの横から、音もなく《ブラック・バイス》の黒い板が出現してカタフを挟み込みにいく。
 戦闘後の疲労から抵抗力も低かったカタフはその万力に抗う間もなく挟み込まれてしまい、カタフを挟み込んだ板は影へと沈み込み姿を眩ませようとする。
 影は途切れることなく千葉方面へのトンネルまで続いているため、影に入られてしまえばもう追跡は不可能。

「イチキシマヒメ! 光! 光を出してくれ!」

『何じゃ藪から棒に。仕方ないのぅ』

 まだカタフを逃すまいとする加速研究会の思惑はわからないが、連れ去ろうとする以上はカタフの利用価値があるということ。
 それでなくとも安否が心配されていたカタフが無事だったのを助けたばかりで、目の前で拐われるなど耐えられたものではない。
 その決断力でテルヨシが近寄ってきていたイチキシマヒメに何でもいいから光を放ってくれと言えば、理由はわからないにせよ、バイスの拉致現場を目撃していたイチキシマヒメはそれを阻止する動きだろうと察知して剣を抜き空から雷を雷を落とす。
 その稲光でイチキシマヒメの周囲が眩いほどに照らされて千葉方面へと続く影が分断され、さらに影に沈み込んでいた場所も光で影が吹き飛び、アビリティの効果から外れたバイスは地面から押し出されるように飛び出してきた。
 その拍子に拘束していたカタフも投げ出されて、短い拘束時間だったからかユニコのように意識を失うまでには至らなかったようで、受け身を取りつつリカバリーしてテルヨシ達とで尻餅をついたバイスを挟み込む。

「《ジ・エンド》」

 テルヨシの予想以上の反応速度と対応に危機感を覚えて速攻で撤退を選択したバイスは再び戻った影に沈み込もうとしたところで、カタフが強力無比な必殺技を発動しバイスのアビリティを封殺。
 またも影から弾き出されたバイスがいよいよヤバい雰囲気の中で立ち上がり、倒すのが目的ではないとわかってるからか割と落ち着いた様子で口を開く。

「いやはや、君には本当に驚かされるよ、テイル君。カタフ君も、この忌々しくも素晴らしい技を解いてはくれないものかな。私はここで事を荒立てるつもりはないが、私のバーストポイントをささやかでも削りたいというなら、付き合うのもやぶさかではないよ」

「何でカタフにこだわる。こんな状態のカタフがお前達に協力しないことはもう確定的だろ」

「そこは否定しないよ。もはや我々とカタフ君では見ているものも目指すものも違ってしまっている。会長もそこはすでに諦めておられるが、カタフ君の力はこの世界において『特別』なのだよ。これを易々と手放しては我々の損失は計り知れない」

「あら、言っちゃったわねバイス。アンタ達が欲しいのはカタフじゃなくて、特別とか言うカタフの力ってわけね」

「……ふむ。さすがに軽率な発言をしてしまったかな。気を悪くしないでほしいカタフ君。その力を育んだのは紛れもなく君自身であることに変わりはないのだから」

 自ら会話へと興じることで逃走の隙をうかがおうとするバイスのしたたかさは敵ながらにさすがだ。
 逃げるとすればカタフの必殺技の効果が切れる瞬間。リチャージなしで満タンで使えば最長で50秒は持つ。
 意外と話してしまうと饒舌になるタイプのバイスが口を滑らせてくれたことで、加速研究会の目的がカタフ個人ではなくカタフの持つ力にあることはわかった。
 ここまで20秒程度のやり取りとなったが、これ以上の会話はバイスにチャンスを与えるだけと踏み、あらゆるアビリティや必殺技が封じられている以上は有効な攻撃手段が心意しかないのは当然。
 だからテルヨシ達もバイスさえも話しながらその身に過剰光を纏って来たる攻防に備えていた。
 その中で驚いたのはバイスがこの心意戦においてもテルヨシとサアヤよりカタフを警戒していることで、灰色という淀んだ過剰光を全身に纏っていたカタフは、警戒されていることをわかった上で先制して動く。



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