ミジカイユメT

□林檎の壁
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『俺は日本人だ。』



余程苛立っているのか、それとも、久しぶりに話す母語で何となくぎこちないのか、神田は早口で言い放った。



『あらそう。
なら都合がいいわ。』



少女は感情の全く籠らない瞳で神田を見据え、これまた感情の籠らない口振りで言った。



『まず、外の連中に、私はここの言葉が全く分からないと言ってやって。
何回も何回もわけの分からない言葉で話しかけられてすごく不愉快なの。
それは同性でも、一緒よ。
不愉快極まりないわ。
あと、無駄に優しくヘラヘラ笑う奴等もね。
とにかく、私はここに馴染む気は全くないわ。』



少女はゆっくりと捲し立て、言い終えるとそっぽ向いた。
早くでていけといわんばかりに。
その言葉には丁寧な言葉遣いにも関わらず、妙な威圧感が漂っている。

こうしてブランシュネージュは毒リンゴを貪っていく

神田はただ黙って聞いていた。
少女に共感していた。
少女の気持ちが痛いほどわかるからだ。
自分もかつて同じ経験をしたことがあるし、たまに鬱陶しく思うことがあるから。
でも、それが彼らの長所だと知っている。
そして、いくら少女に共感していても、気に入らないとこがある。

温まることのない冷めた瞳
抑揚のない声
揺れることのない感情
微動だにしない表情

温めてやりたい
殻をぶち壊してやりたい
揺さぶってやりたい
つき動かしてやりたい

自分がして欲しかったように‥‥‥



『お前、名前は。』



突然、神田は口を開き、一歩ずつ近付いてきた。
少女は、呆れたように言い返した。
神田は一歩ずつ近付いてくる。



『あなた人の話聞いていた?
教える気なん‥‥‥‥』



少女が顔をあげると、神田の唇が降って来た。
少女は大きな双眸をめいいっぱい開き、すぐ目の前の神田の顔を見つめた。
艶やかな長い黒髪、肌理の細かい肌、端整な顔立ち。
少女は身体の熱が一気に翔け上がるのを感じた。
どんなに強く、この大きな胸を押しても、吸い付く唇は離れてはくれない。
何度も顔を逸らそうと試みるが、大きな手がそれをさせない。
仄かに薫る石鹸の匂いが少女を捕えて放さない。















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