小説
□目が覚めて、見上げると其処にあなたの寝顔
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「夜には戻る」
「わしらが帰ってくるまで、ここより動くでないぞ」
と、殺生丸と邪見は言った。
「はーい」
りんは満面の笑顔でそれを了承した。
――そして、今に至る。
りんは殺生丸達の言いつけを忠実に守り、阿吽を連れて大人しく川べりで二人の帰りを待っていた。しかし、殺生丸達はいっこうに帰ってこない。
そうこうしているうちに、夕陽は沈み、夜の帳が落ちてしまった。
「殺生丸さま……早く帰ってこないかなぁ」
阿吽にまたがって足をぶらつかせながら呟く。言葉は白い息となって大気に溶けた。
りんは、ぶるりと身を震わせた。
今宵はいつも以上に寒い。阿吽にすり寄ってみても、冷えた手足があたたまる気配はなく。
仕方なしに焚き火の近くで身を縮ませて瞳を閉じた。
あたたかな何かにくるまれる感覚がして、りんは微睡みの中、薄く目を開く。
彼女の目と鼻の先には、長い睫毛を伏せた殺生丸の顔があった。
「……おかえりなさい、殺生、丸、さま……」
寝ぼけた声で言うと、殺生丸はりんを抱き寄せて静かに呟く。
「……寝ておけ」
その短い言葉は、どんな言葉よりもりんの心をホッとさせた。
凍りつきそうだった手足が、じわりとあたたまっていく。
りんは幸せそうに笑い、殺生丸の胸板にすり寄った。
こうして夜は更けていく。
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