小説

□思考停止
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 思考が停止するかと思った。


 ランカは直立不動のまま、固まっていた。その理由はいたって明快。
 部屋へ立ち入ったランカを、ブレラが抱きしめてきたからだ。
「ブレラ……さん……?」
 名前を呼べば、金髪が微かに揺れた。しかし、ランカを解放する気配は微塵も見せない。
「どうしたの?」
「何でもない」
「…………そっか」
 答えをくれないブレラにもどかしさを覚えたランカは、寂しげに肩を落とした。
「……………………お前を失う夢を見た」
 間を置き、ぽつりとブレラが呟いた。彼の腕に力がこもる。
 きっと、幼い頃の夢を見たのだろう。
 ランカはブレラの腕にうずめていた顔を出し、彼を上目遣いに見る。
「私も、ブレラさんがいなくなっちゃう夢、よく見るよ」
「……ランカ……」
 意表を突かれたようにブレラは目を丸くした。
「いなくならないでね。………………本当に、あなたが大切だから」
 ストレートに言い切るランカを前に、ブレラの動きが止まる。
 自分で発した言葉に対し、ランカの顔は真っ赤に染まった。今更ながら気恥ずかしくなり、両手で顔を覆う。
 それを見たブレラは、ふっと口角を持ち上げた。彼は勢い良くランカの体を引き寄せた。
「……ランカ」
 艶めかしい声で名前を呼ばれる。



 今度こそ、ランカの思考は停止した。



  〆

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