羅国<おはなし>

□Rice ball!
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今夜も遅いのかなあ…。

最近の大久保さんは前にも増して忙しくて、ここ二、三日は一日のうちで逢えたのは朝餉の時間だけ。夕べも、その前も帰って来たのは私が眠ってしまった後だ。きっと、睡眠時間なんて三時間位しかないだろう。なのに朝はいつも通りに早く起きて、ピシッとした姿で朝餉を食べる部屋へ現れる。
髪がボサボサな事はなく、髭も綺麗に剃られていて目が眠そうにトロンとか、瞼が腫れて一重になる事もない。
でも、絶対に体には無理が掛かってるはずで……。
せめて、御飯はきちんと食べてるのかなぁ。

私は大久保さんの部屋で、椅子の上に体育座りで背もたれに寄り掛かり、そんな事を考えながら今だ帰らぬ人を想い、夜空に浮かぶ月を眺めていた……――


ペチペチと頬に何かが触れて音を立てる。……ん?なんだ?薄く目を開けると、大久保さんが上から覗き込んでいた。……あ…。

「人が仕事から疲れて帰れば、大口開けての出迎えか。」

「…お、お帰りなさい!
ごめんなさい…もう自分の部屋に戻ろうと思ってたんです…けど…寝てたんですね。…大口…開けてましたか?」

ふっと笑って寝間へ着替えに向かいながら

「見ていたら、吸い込まれそうだった。」

言ってから、また笑っている。その笑った横顔が優しくてドキッとした。顔が熱くなったのをごまかすように、頬を膨らませて脱いだ羽織りを衣紋掛けに掛けていると、着流しに着替え終えた大久保さんが居間に戻って来た。

「で、もうまもなく丑の刻になる。小娘はここで寝るつもりなのか?」

居間に入るなり、私に聞いて来た。

「えっ?!ちゃ、ちゃんと戻りますよ!あの、でも、大久保さん。今夜御飯きちんと食べましたか?」

「なんだ?いきなり。」

「あの、今日…玄関の辺りを掃除してたら、岡崎さんが通ったんで、大久保さんの体調は大丈夫そうですかって聞いたんです。そしたら、最近は昼餉もまともに摂れてない。夜は宴席が続いている。って……。
大久保さん、宴会の時ってお酒飲んだら、おつまみとか御飯食べなくなるから……。」

「…ふぅむ。岡崎には何でも小娘に言うなと、言っておかねばならんな。」

「な、何でそうなるんですか!岡崎さんだって、心配してるんですよ!大久保さんに倒れられたら大変だって。自分が力不足のせいで無理をさせてしまって、申し訳無いって言ってました…。」

「……。すまん。冗談が過ぎたな。……今日の昼餉は二口食べたら、人が訪ねて来て終わり。宴席では、揚げ出し豆腐を半分、酢の物を少し。後は酒を少し…三合程…。昨日も似たようなものだな。」

「……結局、朝しかまともに食べてないんですね?」

「昔に比べれば食べれている。大丈夫だ。明日はきちんと食べるように努力する。もう、風呂へ行っても良いか?小娘も部屋へ戻って休めよ。」

そう言って、お風呂へ入りに部屋を出て行ってしまった。私はよし!と一言声を出してから部屋を出た。




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