薫炉<現ぱろ>

□E=MC2 2時限目
1ページ/4ページ




先生への想いを自覚してからも、変わらぬ毎日を送っていた。
だって相手は先生…。それも大久保先生だもん…。
こんな小娘扱いしかされてない子供の私が『先生、好きです』なんて言ったらきっと……盛大にお腹を抱えて笑われて…『寝言は寝て言え』なんて言われそう。…はぁ…うなだれてる自分の姿が目に浮かぶ……

先生に私の想いを悟られたら……先生はどうするんだろう。さりげなく距離を置いたり、遠ざけられたりするかも……それなら、気持ちが届かなくても側にいたい。このまま一生徒のままでも良い……この想いは自分の中に閉じ込めよう。
誰にも見えないように、零れないように蓋をしよう。
そうして幾重にも心に鍵を掛け、季節は流れ再び春を迎えた。



二年生になった。選択授業は当然のごとく物理を選んだ。でも…私は典型的な文系で、本当は物理なんて大の苦手。教科書の公式なんてみんな同じに見える。

ん〜でも、やっぱり選択して良かった。だって授業中は遠慮無く先生の顔を見ていられるし、声も聞ける。先生の書くちょっとクセのある字を見るのさえも嬉しくなる。授業中は誰よりも真面目に先生の話しを聞き、真剣にノートを録っていたから、周りの子達にはきっと物理大好き人間だと思われているかも知れない。実際には授業の内容は頭を素通りしていたけれど…。

親友のカナちゃんは、2年生になっても同じクラスだった。
テストも近いある日、一緒にお昼を食べていると

「ねぇ、紫依。ちゃんと物理の授業聞いてないと、後で大変な事になっちゃうよ?」

カナちゃんにだけは本当の気持ちを教えていた。だから私が授業中は先生に見惚れているのはバレバレ。

「大久保先生ってさ、頭悪い女は嫌いそうだし。あんまりフワフワしてると先生の雑用係、他の娘に行っちゃうよ?」

「いやっ!それは困る!」

「だったら真面目に頑張りな!」

「うぅ……はいぃ…。」

真剣なカナちゃんの忠告とお叱りにテスト勉強の後半は真面目に頑張った。けど、心配は本物になり赤点こそ免れたものの、物理のテストは自分史上最低点を記録し惨敗してしまった。
当然、先生から嫌味とお叱りを覚悟していたのに廊下で逢っても、部活で顔を逢わせてもスルーされているようだった。

私……本当に先生に呆れられちゃったんだ。先生、バカは嫌いそうだってカナちゃんも言ってたしなぁ。どうしよう…はぁ……。

気落ちしながらも、剣道部の稽古は欠かさずしていた。休憩時間にふと、武道場の外を見ると大久保先生と武市先生が二人で話している。
時折、武市先生が私を見ている気がする。
何だろう…。気になって見ていると、ピョコピョコと手招きされた。近くに行けると走って側へ行った。大久保先生と話すの久しぶりだな…少し偉そうに笑う先生を見上げて言葉を待った。

「蔦森紫依……テストの点数は忘れていないな?
あの調子で留年でもされては、私の評判に拘わる。武市先生の許可は貰ったから、今日から毎日部活を早めに切り上げて物理の補習をする。逃げるなよ。」

ニヤリと笑ってそう言い渡された。その日から毎日部活を一人早めに終えて、物理準備室で二人きりの補習が始まった。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ