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□事の始まりは意外と簡単なものだったりする
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一つ年上の鬼道先輩は頭が良くて、優しくて、ちょっと奇抜な格好だけど格好良い。

だからすごくモテていっぱい告白されるけど全部断ってるらしい。


私もそんな鬼道先輩のことが好きな一人。

階段で転びそうになった私を助けてくれた時からずっと私の王子様。


でもそれからは廊下ですれ違ってもなかなか声をかけることが出来なかった。






だけどそんな時、神様が私にチャンスを与えてくれた。



たまたま帰り際に寄った図書室。

係の人はいないみたいでそこには鬼道先輩だけがいた。


またとないチャンス。

私は少ない勇気を振り絞って声を掛けた。




「こんにちは、鬼道先輩っ!」

「お前は確か…、この前の一年だな。」



鬼道先輩が覚えていてくれた、それだけで私は嬉しくなった。

だけどそれで満足しちゃいけない。


今日は一歩踏み出さないと…




「はい、その節はありがとうございました!」


声を震わせながらお礼を言って頭を下げると、頭上からふっ、と吹き出す音が聞こえた。

顔を上げると鬼道先輩が小さく笑っていた。


私は何かしてしまったのだろうか。



「鬼道先輩?」

「あぁ…、悪い。妹に似てたものでな。」

「妹、ですか?」


鬼道先輩に妹さんがいたなんて初耳だ。

それに私に似てるなんてどんな子だろう。



「一つ年下の妹でな、かなりお転婆でよくドジをするんだ。この前階段で転んだお前みたいにな。」



鬼道先輩はその妹さんを思い出しているのか私を見て微笑んだ。

あまり笑わない鬼道先輩の貴重な笑顔に胸が高鳴るが、どこか切なさが滲んだ。


「鬼道先輩……、」

「なんだ?」


また鬼道先輩は私に向かって微笑んだ。

いや、私に妹さんを重ねて微笑んでいる。



胸がムカムカした。

あぁきっとこれは嫉妬だ。


私は貴方の妹じゃない。
私を見て欲しい。

そう思った時にはもう
体は動いていた。





「私名無しって言います。鬼道先輩が好きです。」


そう言って鬼道先輩の唇に自分の唇を押し付けた。

掠めただけの唇はすぐに離れる。

鬼道先輩の顔を見るとゴーグルをしていても分かるくらい真っ赤になっていた。


いつも冷静な鬼道先輩でもこんな顔、するんだ。



「お前っ……!」


グイッと私の体を鬼道先輩が引き剥がした。

そこで私はやっと正気に戻り、事の重大さに気づく。



私、キスしちゃった…












「妹、じゃないですからっ!」



それから私は悪役のように捨て台詞を言い、図書室から逃げ出した。


「おい、名無しっ!」












思わない形の第一歩

これからどうしよう?




end
 

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