book

□秋の雨と葉
1ページ/1ページ





「ちっ、今日もかよ」


いかにも不機嫌そうに舌打ちをした元親
最近、雨ばかりで海が荒れ、船に乗れていないからだろう

なだめるように声をかける


『秋だもの
ほら、よく言うでしょう?
乙女心と秋の空って』

「……やっぱわかんねぇな、女の気持ちとか」

『私もよくわからないわ』

「……名無し、おめぇ女だろ」

『同じ女でも、人によってはわからない気持ちもあるのよ?』


そういうもんかねぇ、と不思議がる元親にさらに一言


『それに私は占い師でも何でもないから、天気だなんて余計にね』


小さく息を吐き、暗い空を見上げる


秋雨とはよく言ったものだ


秋に降る雨だから秋雨
何とも単純でわかりやすい名前

でも言葉の音の響きは好きだったりする


止むことを、知らないかのように降り続く秋雨


その強さのせいか、鮮やかな葉がいつもより多く散っている

落ち葉で埋め尽くされる地面



『……可哀想に』



落ちる時というものぐらいは
自分で決めたかったろうに



濡れるのも構わず落ち葉を拾いに歩きだす



「お、おい!!名無し!?」



後ろから困ったように引き留める元親の声も無視して
赤ん坊の掌のような、可愛らしい落ち葉を一つ、拾いあげる

同時に、駆け寄った元親が私を背後から抱き締めた


触れあう暖さが心地よい



「馬鹿野郎、風邪……ひくだろうが……」

『…ごめんなさい』

「わかりゃあ良いんだ、戻るぞ名無し」

『……ええ』



来た道を戻る途中、元親は突然立ち止まった
振り返り、まだ葉を散らせる木を見て


「たまには陸の上ってのもいいかもな……」



続けて





「……雨の日の紅葉狩りも、粋なもんじゃねえか」





そう呟きこちらに笑顔を向けた



つられて私も笑った



「……だがな、次こんなことしてみやがれ
……ただじゃおかねぇぞ」

『あら恐い、鬼みたいなお顔』

「心配してやってんだろ?」





貴方が引っ張る私の手の中で



小さな赤い葉が



カサリと音を立てた









end
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ