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□空模様
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夏の激しい雨でもなく、冬の冷たい雨でもなく。
ただ、静かに降り続く秋の雨。
どこか優しく、しっとりと世界を濡らしていく秋の雨が二人に降り注ぐ。
「寒くないか、名無し?」
肩を寄せ合い二人を包む番傘の中、心配そうに家康様が私を覗き込む。
二つの黒曜石が私を捕らえる。
「大丈夫、暖かいです。」
体温の高い家康様に猫のように体を擦り寄せ微笑む。
すると家康様の頬が紅葉のように赤く色づいた。
視線を外すように、空を仰いだ家康様がわっ、と声を上げた。
「見てみろ、名無し!」
言われるがままに私も家康様に習うと、番傘の和紙に落ち葉の濃い影が映っていた。
木から落ちた様々な形の落ち葉が濡れた傘に張り付いて模様をつけたのだ。
「綺麗ですね。」
「あぁ、いつもの紅葉狩りとは違って新鮮だな。」
「えぇ、それに……二人だけですし。」
二人だけの小さな世界で
二人だけの紅葉狩り
もう少しだけこうしていたいな、と考えていたら
「遠回り…するか。」
なんて家康様が言った。
「はい…っ!」
紅葉柄 空模様
秋雨の中
二人だけの世界
end