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□白銀の世界
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ちらちらと真綿のような雪が落ちる夜。

屋敷を抜け出した。



足場の悪い雪道を歩き辿り着いたのは広い草原。

春は花が咲き乱れる草原も今は、全て雪に覆われ息を潜めていた。



着物が濡れるのもかまわずに私はそこに身を投げた。

やわらかく、白が私を包み込む。



夜空を見上げると灰色の雲が重く垂れ込み、月の光も星の光も遮っていた。

光の代わりに降り注ぐのはたくさんの白。

遠くて小さな白。
近くて大きな白。

見上げる雪はいつもと違い新鮮だ。




「死体みたいだよ、名無しちゃん。」


不意に雪が止み影が差し込んだと思ったら、それは佐助が傾けた傘だった。


「その表現は酷くない?…てかよくここが分かったね。」

「お馬鹿さん、普通に足跡が付いてました。さ、帰るよ。」



差し出された佐助の手。

自らの手を重ねると私はそれを強く引いた。


「うわっ!」


重心が傾いた佐助は当然倒れた。

手を離した傘が宙をまう。




「名無しちゃんっ、俺様が死んだらどうすんのっ!」


倒れた佐助はなんとか私を避けて隣りの雪に顔から突っ込んだ。

顔を上げて文句を言う佐助の顔は雪まみれだ。



「そんなことで死なないって。…ははっ、眉毛に雪付いてる。」


手を伸ばして雪をはらってやるとその手を佐助に掴まれた。




「もう、こんなに冷たくなって……、風邪でもひいたらどうすんのさ。」

そう言って掴んだ佐助の手も冷たかった。

だけど何故か体が熱くなった。




「じゃあ、佐助が暖めて。」


掴まれた手を強く握るとそれが合図かのように佐助が私を抱きしめた。




「了解。この雪が溶けるくらい暖めてあげる。」












白銀の世界

隣りには貴方ひとりだけ


end
 

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