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□いとしい
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音もなく襖が開かれた。

重厚な鎧が金属音を奏で、貴方が来たことを私に知らせる。




「行くのですか?」

「あぁ。」


背中越しに尋ねると、政宗様は返事をして後ろから私を抱きしめた。

冷たい鎧が背中に触れ、いつも感じる貴方の熱を遮る。





私は政宗様を見送る、この瞬間が一番嫌いだ。


彼はこの国の為に戦っている。

そう頭では理解しているのだが、どうしようもない不安が私を襲い、“行かないで”と縋ってしまいたくなる。






「手出せ、名無し。」


おずおずと手を出すと、政宗様は私の左手を掴んで持ち上げた。

ちょうど胸の高さで止められる。


「そのままstopな。」



政宗様は後ろから両手を回し、細い赤色の糸を私の小指に巻き付ける。

何度か巻くと器用に糸を蝶結びにした。



「これは…?」


小指に巻かれた赤い糸をしげしげと見つめながら私は呟いた。


「見ろ、名無し。」


言われるがまま、差し出された政宗様の手を見ると、小指に少し乱雑に赤い糸が巻かれていた。




「俺はこの国の主だ。ずっと一緒にいれる保証も、お前を一番に守ってやることもできねぇ。」


酷く悔しそうな声で政宗様は言う。

私を抱きしめる腕に力がこもる。



「だが、これはお前を一番愛してるっていうmarkだ。どんなに離れていたってこの糸が俺達を繋いでいる。」




貴方の左手が私の左手を絡め捕る。

赤い糸が巻かれた小指が絡んで結ばれた。





「気障ですね…。でも、ありがとうございます。」

「you are welcome。じゃあ、行ってくる。」



絡んだ指がそっと外され、政宗様が私の体を離す。

振り向いたら政宗様は襖に手を掛けていた。





「行ってらっしゃいませ。」


貴方の背中を笑顔で見送る。

黙って上げられた手には私と政宗様を繋ぐ証が輝いていた。










まだ、不安は拭いきれない

だけどこの小指に巻かれた赤い糸がいつだって私達を繋ぐから


私は貴方を笑顔で見送るわ



end
 

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