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□確
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『……家康様、何度申せば貴方様は、おわかりいただけるのでしょうか?』

「は、ははっ、いやー……すまん」

『すまん、ではすみません』

「しかし名無し、……わしは」

『……わかって、おります
これは単なる、私の、わがまま…ですから……』



国を治める者として、貴方は自ら傷つき、護ろうとしている

その優しい拳に、傷も痛みも全て

握りしめて今日も──────



「んー……、名無し、手を出せ」



不意に暖かい声が鼓膜を震わす



「……何をしているんだ?はやく指を出せ名無し」



ずい、と目の前に差し出された、傷だらけの、家康様の小指



「約束だ」



戸惑いがちに差し出した私の小指は絡みとられて結ばれる



「わしは必ず、名無しの元へ帰ってこよう
傷は……負わない、とは言い切れないが……」

『……言い切れてないでしょう』

「な…っ!!馬鹿を言うな!!
生きてさえいれば、傷は癒える!!
だが命を落とせば、名無しとは……二度と会えなくなる
それは、絶対に嫌なんだ」



きゅ、ときつく結ばれた小指が、微かに震えている

私も、私だって



『……家康様』

「ん?」

『私も、家康様に会えなくなるのは、嫌でございます……』



だから



『そ…の……』

「……語らずともよいのだぞ
わしと名無しには、言葉でなくとも伝わるものがあるのだから」





形もない



不確かな二人の誓い





それでも





この小指の温もりは



確かにここにある



この確かな温もりを



約束を……守ろう











『いってらっしゃいませ』











今日もその背中を見届ける中



震える小指は確かに



日溜まりのような



暖かさに包まれていた








end
 

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