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□種
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彼が旅立ったのは今日みたいな青空の日だった。












愛しいあの人は忍。

とても忙しい忍。


普段からなかなか逢えないのに戦が始まると一時すら逢えなくなってしまう。












「向日葵が咲く頃に戻ってくるから。」


そう彼が言い残して旅立ったのは梅雨入り時。








そして今は眩しい日差しが和らいだ夏の終わり。

庭に見事に咲いた向日葵は一輪残らず花弁を散らせてしまった。

残るは茶色い葉とたわわに実った種子達のみ。











「佐助の馬鹿…、向日葵枯れちゃったじゃん。」

白黒模様の種子。

一つ手に取ってみると案外小さかった。



この子達も私と同じように残されてしまったのだ。








「蒲公英だったらよかったのにね。」




せめて蒲公英だったなら綿毛になってどこかに行けたかもしれない。

もしかしたら風に乗って彼の元へ行けたかもしれない。






同じ場所で季節を巡り待っていることしか出来ない私は向日葵の種だ。

















「飛んでいかれたら俺様困っちゃうよ?」

「佐助っ!」




私の頭上に影を落とし、柔らかい日差しを遮ったのは愛しい彼。





「ごめん名無しちゃん…、遅くなっちゃったね。」


ふわり、抱きしめられると秋の匂いがした。

あぁ、貴方が秋を連れて来たのね。





「いいの、佐助が帰って来てくれただけで…。」

「名無しちゃん…。」




枯れた向日葵がまた来年咲くように、貴方が私の元に帰って来てくれる

それだけで私は種になれるわ














「今度は一緒に種を蒔こうね。」

「うん、いつかここを向日葵畑にしよっか!」





end
 

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