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□星みたいなキミ
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旦那に仕えたての頃、多く人を殺めた夜はよく湖に来ていた。


忍だから感情はあってはならない。



そう分かってはいたが、どうしても生温い血と肉を裂く感触に慣れることは出来なかった。

















ただ何をする訳ではなく湖の畔に立って水音を聴きながら目を閉じる。


それだけで沸騰するくらい熱くなった己の血が冷めていく気がした。





「佐助…。」



湖に行くのが日課ならそこでに名無しに会うのも日課になっていた。



「なぁに?名無しちゃん。」


「またここに居たんだね。」



目を閉じていても気配で名無しが隣に並んだのが分かった。







「今日は星が綺麗だよ。」



名無しの凛とした声が風の音と共に鼓膜に響く。

夏が来る手前の冷めた風が首をさらった。





「だから目を開けて、そして空を見上げてみてよ。」








ゆっくりと目を開けた。

一番最初に視界に入ったのは星を写す湖だった。

淡い光がキラキラと水面を揺れている。


そして夜空を見上げると満天の星空。

月の光に負けない程たくさんの星が瞬いている。








「うわぁ…っ!すごく綺麗……、」



それ以外の言葉が出てこなかった。


寧ろ色々な美辞麗句で飾りたてる方が失礼ではないかと思う程美しかった。










「でしょ?目を閉じてたらこんな綺麗な物も見落としちゃうよ?」



不意に名無しの手が触れた。

すごく暖かかくて小さかった。


きっと目を閉じていたらこの暖かさも見落としていただろう。







「ありがと、名無しちゃん。」


自然に涙が溢れた。

こうして涙を流すのは久しぶりだった。


それを見て名無しは笑った。





「うん、やっぱり佐助に忍らしいのは似合わないよ。」


「それって忍失格じゃない?」


「忍以前に佐助は佐助だよ。それに私はこうやって星に感動できる佐助が好きだよ。」




コトリ、想いが動いた。

今までもこれからも俺はずっと独りだと思っていた。

だから全部我慢して来た。


だけど今、溢れ出す涙と一緒に本当の恋を初めて知った。





「名無しちゃんって眩しくて暖かくて星みたいだね。」


「そう?じゃあ一生佐助を照らす星でいてあげる。」













次に不安に溺れそうになったら真っ直ぐに君とこの星空を思い出すよ―――



end

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イメージ曲:[星のない世界]


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